第5回ブロックチェーンイベント
さて、ブロックチェーン関連分野における技術共有,発展,応用に重きをおいたMeetupイベント、BlockchainEXEも今回で5回目となりました。
今回は、5回目ということもあり130名を超える多くのオーディエンスの方々にお越しいただけました。
それでは、EXE#5についてのイベントレポートをまとめていきたいと思います。
以下、敬称略
▼目次
1. オープニング : ブロックチェーンとユーザーID / 石井敦
まずはEXE代表の石井敦氏によるオープニングセクションです。石井氏は、AI, Blockchain, IoT, Roboticsを掛け合わせた、自律的なシステムのデベロップに携わっています。
はじめに石井氏は、現状のユーザーIDやユーザー情報の管理の仕方について言及しました。以下は石井氏のセクションです。
組織や会社によるユーザーIDの管理
現在、多くのサービスは運営する組織や会社がユーザーIDを管理しております。
例えば、ユーザーが銀行の通帳をなくしたとき、ユーザーが本人確認となるものを提示するだけで、銀行側が新しい通帳を発行してくれます。それは銀行が「その人が本人である」と決定できる情報を持っているためです。
ブロックチェーンよるユーザーIDの管理
対して、ブロックチェーンでは、ブロックチェーンネットワークの参加者がユーザーIDを相互管理します。そうすると、テキスト依存の本人認証では、個人の負担がとても大きくなります。例えば仮想通貨のウォレットの鍵を紛失しただけで、ウォレットは使い物になりません。
そこで、石井氏は本人認証を生体認証などにすることにより、本人認証の課題を解決できる可能性について言及しました。
これにより、ブロックチェーンによるユーザーIDの管理が現実的なものとなり、シェアリングエコノミーが発展していくことだろうと、石井氏は述べていました。
”相手を信頼できるかどうかが問題じゃなくなる”、”ユーザーID管理に関する心配が減る”、特定の組織を経由せずに済む”などのいい影響を生み出してくれそうです。
こちらが当日のスライドです。
2. ブロックチェーン応用の可能性と課題 / 高木聡一郎
続いてのセクションでは高木聡一郎氏がブロックチェーンの全体像、ユースケース、課題などを経済的な観点からお話していただきました。
専門分野は情報経済学で、普段の研究では、IT産業のビジネスモデルや、ITの普及・発展に伴う社会への影響を、主に経済学の観点から分析されています。
ブロックチェーンの分散性による価値担保への応用可能性
高木氏は、ブロックチェーンの重要な要素として、情報とエンティティを結びつける部分を強調していました。例えばUTXOで、資産と人を結びつけたりと、この物は誰のものなのかという情報を付加できるというところです。
また、ブロックチェーンを学ぶ上で生じる”ブロックチェーンとは何か”という疑問に対して、”価値を交換できる分散型のインフラ技術”であると述べられていました。価値の交換がプラットフォームがなくてもできる、ないからこそインフラ的に行える、ともおっしゃっていました。
次に、現状のブロックチェーンの浮き彫りになった問題として、バージョンアップの合意形成についてあげていました。ビットコインのハードフォーク問題にあったようにバージョンアップをする際、意見が2つに別れてしまった結果、コミュニティが分岐することになってしまいました。
分散型システムからなる合意形成であるブロックチェーンならではの大きな課題と言えます。
ブロックチェーンのユースケース
ブロックチェーンは改良を重ねられてきました。Blockchain2.0ではスマートコントラクトという便利な機能が実装され、より汎用的な分散型サービスに転換可能となってきたと高木氏は述べています。
一つの例として、行政分野での活用例を挙げられます。生活保護費を現金として、配給してしまうとそのお金が何に、どう使われたかわかりません。
仮想通貨を用いることによって何に使ったが明瞭になり、制度の目的にそわない支出を抑制できるという話です。サービスにブロックチェーンを組み込む上で、分散性を欠くことなく自律性を作り出してくれるスマートコントラクトは今後欠かせない技術であると感じました。
経済的変化と今後の課題
最後にはブロックチェーンによる経済的変化、また課題について述べられていました。経済的変化として挙げられたのは、”信頼の脱組織化”、”インセンティブメカニズム”などです。課題の方は、”分散性に合理性、効率性がどれだけあるか”、”ブロックチェーンを使っているからといって安全かはわからない(コンセンサスアルゴリズムに依存しているため)”、”最近のICOによる過剰な資金調達により、企業企業が創作性や意欲を失ってしまう”などが挙げられました。
課題については特に、”分散性に合理性、効率性がどれだけあるか”というところが、実用性の求められるサービスには重要であるという感想を抱きました。
3. ブロックチェーン向け認証技術について / 長沼健
続いて、日立製作所の長沼健氏のセクションです。長沼氏は、暗号通貨、ブロックチェーンの研究開発に携わっているそうです。導入でまずブロックチェーンの概念と必要性について説明があり、日立独自の認証技術であるPBIを中心にプレゼン頂きました。
ブロックチェーンとは何か、何であるべきか
従来の高度なセキュリティ依存の中央集権型のサービスとは変わって、分散型のネットワーク、つまりブロックチェーンを用いたサービスが増えてきました。
ここで長沼氏は一つの例として、会社の上司にブロックチェーンを使ったシステムを考えてと言われた場合どういったサービスを考えられるか、という例を出しました。
答えとしては、ブロックチェーン上に情報を集めみんなが参照できるシステム、などいろいろ考えられます。ただ、そこで長沼氏がおっしゃったのは、そのシステムはブロックチェーンである必要があるのかということです。サービスやシステムを考える上で、そういうことは多いのだそうです。
では、そもそもブロックチェーンを基盤としたサービスでは、何が可能または何がいいのかが疑問になってきました。
それについて、長沼氏は主に2つ挙げました。
- プロバイダーレスなサービスを生み出せる
- インフラのタダ乗り
ただ、間違えないで欲しいのが、ユーザーが真に欲しがっているのはブロックチェーンを使ったサービスなのではなくて、"いいサービス"であるともおっしゃっていました。
長沼氏のセクションの後半は、本題の認証技術の話に入って行きました。最初の石井氏のセクションで話があったように、長沼氏も、生体認証を本人認証に考えていらっしゃいました。
ただ、そこで問題があるのは、ビットコインを用いた取引の際、取引当事者だけではなく、外部サーバーまたは外部組織が余分に必要になってしまうという点です。なぜかというと、取引の際、必要な秘密鍵を発行するために、生体情報の照合をする外部組織が必要になってくるためです。
そこで、日立製作所さんが開発したのが、PBI(Public Biometrics Infrastructure)というシステムです。PBIは、生体情報からダイレクトで秘密鍵を発行します。なので、外部サーバーは必要ありません。コスト削減というメリットもありますが、それ以上にユーザーや組織がより身近に感じられる取引が行えるのではないかと感じました。
こちらが当日のスライドです。
4. ブロックチェーン・スマートコントラクトを活用したユースケース開発 / 堀口純一
最後の発表者はZEROBILLBANK代表の堀口純一氏です。堀口さんは、イスラエルで創発した企画を元にブロックチェーン・スマートコントラクトプラットフォームを開発し、最近ではブロックチェーンやスマートコントラクトを活用したさまざまなユースケース開発を取り組んでいる方です。
今回、主にお話いただいたのは、堀口氏が以前参加したという地震対策ハッカソンにまつわる話です。
ハッカソンで堀口氏がアイデアとして思いついたことは、地震保険をIoTとLINEそして銀行API、ブロックチェーン・スマートコントラクトによって構築することでした。
地震保険 : IoT x LINE x Smartcontract x 銀行API
そこで、まず堀口氏が課題としてあげたのは、震災時は免許証も通帳も持ち合わせていないことがほとんどということです。なので本人確認の方法として、生体認証が上がってきました。
ここで、非常に興味深かったのは、生体認証ではなく行動特性による認証はどうかということです。堀口氏がおっしゃるには、生体認証は便利であるが、ユーザーごとの生体情報を企業が保有するメリットが認証目的以外ありません。行動特性ならば、ユーザーの癖ということで、サービスに応用できるかもしれません。企業も喉から手が出るほど欲しい情報だと述べていました。
本人認証の話が終わったところで、堀口氏は今日の問題を挙げました。それは、建物,家財への保険金支払いをどのように行うかということです。実は、地震での損害に対する手続きに関しては、かなり争いが起こりやすいという問題があります。そこをLINEや銀行API、ブロックチェーン・スマートコントラクトを用いれば、争いを起こすことなく契約を施行することができると堀口氏は考えていました。
こういった”複数の関係者がいる”、”改ざんする動機がある”という分野がブロックチェーンの適応領域だとおっしゃっていました。
最後には、IoT,LINE,スマートコントラクト,銀行APIを掛け合わせた、地震保険の自動契約施行システムのデモを実際に動作を見せて頂きながら説明してくださりました。リアルタイム性も感じ取れ、契約の自動施行もブロックチェーンだからこそ安心して任せられると感じるシステムでした。
こちらが当日のスライドです。
ディスカッション : ブロックチェーン技術とユーザーIDについて
本ディスカッションでは、主に石井氏が議題を提起する形で進んで行きました。
トライデントアーツの町浩二氏が加わり、ブロックチェーン技術とユーザーIDにまつわるディスカッションが展開されました。
高木氏でのセクションでも一度話が上がった、バージョンアップの合意形成の話がまず挙がりました。いまも、様々な種類のブロックチェーンが乱立している状況で、その中でのユーザーオブジェクトの管理もなかなか難しいとの声も上がりました。ただ、分岐することは自然だとの意見もあり、最終的には収束していくのではというのが現状の考えらしいです。
また、堀口氏が挙げた行動特性認証についての話題にも触れられました。石井氏はそこに対して、年が経つにつれて変化するため、あまりにも性質が変わると同一視していいのか?という疑問を投げかけました。
認証に関して、どこまでオフチェーンでどこからオンチェーンにするのかという課題もあり、IDの譲渡をする際、譲渡した,してないの保証をどこでするのかという課題も上がりました。現状手探りで、実証しているという感じで、これからに期待という感想を抱きました。
ビジネスと知識共有の場 懇親会
各セクションで、抱いた疑問や興味を気兼ねなくスピーカーの方々に聞いていただけるのが懇親会の良さです。また、新たなビジネスの場とも十分利用していただけると思います。今回の懇親会では、長沼氏がPBIのデモを行ってくださり、大盛り上がりの様子でした。すでにEXEの参加者は100人を超えており、これだけ多いと新たな発見にすぐ出会えると思います。また、運営メンバーも随時募集しておりますので、ぜひ、スピーカーの方々の話を聞くだけではなく、懇親会の方も利用してくださいませ。