HAKUHODO Blockchain InitiativeとALISが共同研究を開始! ~その舞台裏をBlockchainEXEが独占インタビュー~

HAKUHODO Blockchain InitiativeとALISが共同研究を開始!

2017年が日本発のブロックチェーンベンチャーが立ち上がり始めた年だとすると、2018年は国内の大企業が次々とブロックチェーン領域の取り組みを始めた年だと言えるでしょう。

そんな中、国内大企業の一つである博報堂がブロックチェーン技術の活用やトークンコミュニティ形成に関連したビジネスやサービス、ソリューションの開発を支援・推進していくために発足した「HAKUHODO Blockchain Initiative」と、ブロックチェーン技術を活用したソーシャルメディアの運用・構築を行う日本発のブロックチェーンベンチャー「ALIS」が、HAKUHODO Blockchain Initiativeが開発したトークンコミュニティ解析サービス「トークンコミュニティ・アナライザー」を使ってALISのデータを分析して、トークンエコノミーにおける価値交換プロセスの共同研究を2018年11月から開始することになりました。

そして、両社がその共同研究を始めることになった舞台裏について、HAKUHODO Blockchain Initiativeの伊藤氏とALISの安氏、水澤氏にBlockchainEXEが独占インタビューしました。

きっかけはコミュニティ

BlockchainEXE:HAKUHODO Blockchain InitiativeとALISの出会いは?

HAKUHODO Blockchain Initiative /伊藤氏:2016年からブロックチェーンについて興味をもつようになった私は、さまざまなブロックチェーンのイベントに個人的に参加していました。そして、2017年5月12日に開催されたブロックチェーンエンジニアコミュニティ「BlockchainEXE」の第1回目のミートアップにいち参加者として行ったことがきっかけで、運営メンバーになりました。

ALIS / CEO / 安氏:2018年5月23日に、「BlockchainEXEの運営メンバーの伊藤です」と見知らぬ人からfacebookに1件のメッセージがありました。

しかも、それは132行にもおよぶ、おおよそFacebookメッセンジャーでは普段見ないような長文の熱いメッセージでした。

しかし、よく読むと、BlockchainEXEというエンジニアコミュニティがいかにすばらしく、その活動に情熱をもって取り組んでいることが、そのメッセージから分かりました。

HAKUHODO Blockchain Initiative /伊藤氏:BlockchainEXEの運営に参加している中で、国内で金融領域以外のブロックチェーンの活用領域で活躍されているALISさんに、その発足当初から注目していて、個人的にも大好きなサービスでした。

BlockchainEXEは毎回、テーマを設定して、そのテーマに合う国内外で最先端の取り組みをされている第一人者をお呼びしてミートアップを開催していますが、ちょうど「ブロックチェーン×メディア」というテーマを企画している時に、頭に最初に浮かんだのがALISさんで、ぜひその代表の安さんに登壇してもらいたい!という気持ちだけで、もともと面識もない中で、いきなりFacebookのメッセンジャーで、登壇依頼のメッセージを送ってしまいました。今思い返すと、大変失礼なことをしていたので、恐縮です。

BlockchainEXE:その後、HBIとALISで共同研究することに至った背景は?

HAKUHODO Blockchain Initiative /伊藤氏:2018年6月22日にOmiseGOさんが渋谷にオープンしたブロックチェーンベンチャーのコワーキングスペース「Neutrino」のオープニングイベントに参加しました。

会場にブロックチェーン業界の名だたる会社さんがいる中で、たまたま出会った方と、ブロックチェーン上のデータ分析についてお話したところ、盛り上がって気づけばイベントの終了時間になっていました。

その時に出会ったのが実はALISのCMOの水澤さんでした。

ALIS / CMO / 水澤氏:伊藤さんとはそのイベントで会って少し話しただけですぐに意気投合しました。お互い経験は違っても、本来一緒にサービスを盛り上げていく存在のユーザーを、コスト(AさんはCPAいくらだから成功、失敗)として捉えがちなマーケティングへの危機感があって、コミュニティやネットワークを起点とした広げ方への強い興味が根底としてマッチしていたのかもしれません。

そして、翌日の土曜日も、ブロックチェーンに対するお互いの熱い思いを、休日だというのに、Facebookメッセンジャーでやりとりしていました。

HAKUHODO Blockchain Initiative /伊藤氏:水澤さんとは、生活者をエンパワーメントするブロックチェーンで、世の中をよくしていきたい、もっと生活者にフォーカスしたマーケティング手法を開発したいという同じ思いを共有しました。そして、私がALISの大ファンで、このALISが形成しているコミュニティを活性化することに自分も協力したいと申し入れて、当時私が開発していたトークンコミュニティの分析手法についてお話したところ、「ぜひその分析手法を使って一緒に研究しましょう」と言ってもらい、共同研究を始めることで一致しました。

BlockchainEXE:今後、HBIとALISでどんな共同研究を行うのか?

HAKUHODO Blockchain Initiative /伊藤氏:HAKUHODO Blockchain Initiativeは、2018年11月5日に対外リリースしたとおり、グラフ理論をベースとしたネットワーク分析を活用したトークンコミュニティ解析サービス「トークンコミュニティ・アナライザー」を開発しました。そして、この解析手法を活用して、ALISさんのサービスのトークンコミュニティのデータ分析を行い、よりユーザーが活性化するための手法を共に研究していこうということになりました。

ALIS / CMO / 水澤氏:伊藤さんから分析の話をもらって、一度打合せを行うことになりました。

そして、初めて博報堂の赤坂のオフィスに行って打合せをした時に、お披露目してもらったトークンコミュニティ・アナライザーの説明を聞いて、ぜひこれをALISのデータで分析してみたいと思いました。

ALIS / CEO / 安氏:伊藤さんからの共同研究の申し入れを受けて、水澤と相談した結果、ALISのためだけでなく、ブロックチェーン業界全体を活性化するために、コミュニティを科学する研究が必要だという思いに至り、この度、HAKUHODO Blockchain Initiativeさんと共同研究することにしました。

HAKUHODO Blockchain Initiative /伊藤氏:ALISの安さん、水澤さんと私は一つの同じ価値観をもっていると思います。それは「ブロックチェーンは生活者一人一人をエンパワーメントする技術で、ブロックチェーンの社会実装により、より良い社会を創造できる」という思いです。今回のHAKUHODO Blockchain InitiativeとALISの共同研究は、そんなより良い社会の実現に貢献するものでありたいと思っており、この研究成果も広く世の中に発信していきたいと思っています。

BlockchainEXE:博報堂という大企業とALISというスタートアップが、ブロックチェーンというテーマで、社会を良くするための研究を始め、今後のこの活動が世の中にどんな影響を与えることができるのか、楽しみにしたいと思います。今後も、BlockchainEXEでは、ブロックチェーン業界で最先端の取り組みをしている人にフォーカスして取り上げていきますので、お楽しみにして下さい。

【Blockchain EXE × ConsenSys】アメリカ・サンフランシスコでブロックチェーンイベントを開催

Blockchain EXE 二度目のサンフランシスコ開催【前半】

みなさんこんにちは!2018年10月12日にBlockchain EXEをサンフランシスコにて開催してまいりましたのでサンフランシスコ現地レポートをお届けいたします!Blockchain EXEのサンフランシスコでの開催は今年に入ってなんともう2回目です!

1.サンフランシスコはこんな街

(昔ながらの建物も多く、新しいビルと共存しています)

サンフランシスコといえばご存知、シリコンバレー。1960年代にシリコンを主な原料とする半導体に関連する企業がサンフランシスコ南のサンノゼ周辺に集まったことからこう呼ばれるようになったことはご存知でしたか?

現在ではApple、Intel、Google、Facebook、Twitterなど企業が本社を構えていることでも有名なシリコンバレーですが、近年ブロックチェーン企業やデベロッパーが数多く進出しています。

5月の「なぜBlockchain EXEがサンフランシスコへ?(サンフランシスコのブロックチェーン最新事情編)」でも詳しくご紹介しました。
ベイエリアでは、「Done is better than perfect.(完璧を目指すよりまず終わらせろ)」がモットーと言われている通りに、次々に新しいベンチャー企業やプロジェクトが生まれています。

ブロックチェーン業界のリーダー的存在のアメリカで、投資関連が活発なNYと並び、ここSFは技術系スタートアップが多いことで知られています。SFではエンジニアリングのスキルあるのが前提で、その上マーケティングやマネジメントなど複合的にできる人材が有望なプロジェクトを牽引しています。この前日にも行きましたがスタンフォード大学をみてもわかるように、優秀な人材の宝庫でもあるのがここSFです。

街中は坂が多く、南国で日差しが明るく、どこを歩いていても絵になります。

ゴールデン・ゲート・ブリッジやフィッシャーマンズワーフ、ツインピークスなどの観光名所は映画によく登場しますし、人気のテレビシリーズ「ダーマ&グレッグ」、」「フルハウス」、「名探偵モンク」などがここSFを舞台に撮影されました。古く(1860年代)からチャイナタウンがあり、街中にはいたるところで中国の方を見かけます。

(特にサンフランシスコは中国の方が多い。)

中国だけでなく、他のアジアやラテンアメリカの移民を多く受け入れてきた歴史があり、市民の35%が移民との統計があります。

コーヒーの美味しい感じのいいカフェSightglassを見つけました。

(流石ジャックドーシーが投資しているだけあって何もかもがオシャレ)

ここは、なんとあのTwitterの創業者Jack Dorseyが投資しているカフェスクエア&コーヒー!?
Philz Coffeehttpsといい、SFで成功する起業家とコーヒーは切り離せませんね。

2. ブロックチェーンEXEの会場で日本では考えられないハプニングが…

ConsenSysのSFオフィスの前。日本でいうチンチン電車的なバスが走るSFの中でも中心地。ブルーボトルが入っているいるビルを登るととても新しい施設でかつ明るく広い部屋を用意されていました。

本来はこの会場で開催される予定で既に準備万端!テレビに流す映像もZOOMを使って録画もできるというとってもスマートなシステムが搭載された会場。

キンキンに冷えたビールとケータリングで春巻きと餃子も用意されていました。

しかし、いざイベントが始まると、どこからか「ドドドドドドドドドドドド」と凄まじい音が…。
会場にDIOが現れたわけではありません。なんと会場の真上の階で工事が始まったのです。想像を超えるドリルの間断ない騒音で、発表も何も聞こえたものではありません。皆で苦笑まじりに相談を行い、空いていた小さな部屋に移ることになりました。

アンドレアスの機転の聞いた決断で会議室へ移動!HEY GUYS!ビールを持って移動しようぜ!

みんなでビールを会議室に持ち込んでそれじゃーBlcokchain EXEを始めようぜ!とアンドレアスの明るい声でBlockchain EXEは始まりました。今回のミートアップは日本ではなかなか起きないハプニングから始まりました。しかしこんなハプニングをポジティブに楽しめるかどうか、これって実はアメリカで成功する秘訣なんじゃないかと思います。寧ろ皆さんこの環境を楽しんでたと思います。

(さらに…)

インターネット上でハッキングを完璧に防ぐ事はほぼ0%!高まる仮想通貨の資産管理リテラシーの重要性

インターネット上でハッキングを防ぐ事はほぼ0%!高まる仮想通貨の資産管理リテラシーの重要性

ブロックチェーン技術に対する投資など熱を帯びてきているものの、取引所のハッキングなど、社会への実用化には多くの課題があります。その中で、必然的に注目しなければいけないのがデジタル資産の管理です。

今回は通貨のウォレット管理に焦点を絞って、資産管理について考えていきます。

  • 終わらない取引所へのハッキング
  • ブロックチェーン反対派と賛成派の意見
  • なぜ取引所はハッキングされるのか
  • 資産を安全に管理するために

終わらない取引所へのハッキング

9月14日、日本の仮想通貨取引所の一つである「Zaif」がハッキングを受け、70億相当の仮想通貨が流出しました。1月のCoincheck事件の580億円の流出額と比べると金額は少ないですが、やはり70億円という流出被害は非常にダメージが大きいです。

また日本だけでなく、過去に海外でも取引所へのハッキングは起きています。

ブロックチェーン反対派と賛成派の意見

これらの事件を受け、「やっぱり仮想通貨に手を出しているやつはバカだ」「仮想通貨なんて危険に決まっている」という仮想通貨(やブロックチェーン)反対派の意見は勢いを増していきました。

一方、仮想通貨(やブロックチェーン)賛成派の人たちの中には「取引所とブロックチェーンは関係がない。ハッキング=仮想通貨否定をしているやつはバカ」「何も勉強をしていないクセに口を出すな」という人もいました。

結論どちらも間違いであり、どちらも正しい

お互いの意見は間違いではありませんが、正しくはありません。

ブロックチェーンは非常に大きなポテンシャルを持つ技術ではありますが、仮想通貨が社会に普及しなければブロックチェーンもスケールしません。そのためには資産の十分な安全管理および正しいリテラシーが身についていく必要があります。そのため、今は解決すべき課題が多数あることは間違いありません。

なぜ取引所はハッキングされるのか

Coincheck社へのハッキングが話題になった際、”ホットウォレット”というキーワードが頻繁に使われました。

ホットウォレットとはインターネットに接続された、取引所の入出金が可能な状態の事を指します。一方、コールドウォレットとはオフライン環境で資産管理されている状態です。そしてCoincheck社は資産管理の大部分をホットウォレット上で管理していたことが原因で、巨額のNEMが流出してしまい、Coincheck社の管理体制に対して多くのバッシングが起きました。

それなら『資産の全てをコールドウォレットで管理すべき』と思う人もいるかもしれませんが、コールドウォレットでの運用は多くの時間やお金がかかり、特に大量のユーザーを抱える企業にとって現実解にはなりえません。

また、仮にインターネットに接続していなかったとしても、インターネット接続時にハッキングを受ける可能性は誰にでもあります。

あなたが何気なくアプリをインストールした際にアプリにウィルスが仕込まれていたり、偽のフリーwifiを飛ばして通信を傍受したり、amazonやメルカリでウィルスを仕込んだハードウォレットを出品したり、、、

つまりインターネットとハッキングはイタチごっこの世界です。ブロックチェーンに対するハッキングは理論上困難ではありますが、周辺技術含む全てが安全と言い切る事は難しいです。

技術力と資金力で世界トップレベルのFacebookでさえも、個人情報の流出を防ぐ事はできませんでした。そんな中で取引所に”完璧な管理”を求める事は非常に難しく、ユーザー個人の資産管理リテラシーとそのサポートは非常に重要な役割を持ちます。

資産を安全に管理するために

完璧な答えはないからこそ、様々な資産管理が推奨されています。Googleの2段階認証などはセキュリティレベルを非常に高めるツールの一つですが、その分、面倒な作業でもあり、ユーザービリティは下がってしまいます。ユーザーそれぞれが、目的に応じて、自分にあった管理手法を選んでいくことが重要です。

ここではいくつかの資産管理サービスを紹介していきます。詳しい情報はプロダクトの公式HPをチェックしてください。

マルチシグウォレットのパイオニアBit Go

マルチシグ対応で有名なウォレットにはBit Goが挙げられます。マルチシグによるセキュリティ対策は安全な資産管理として有効な手段の一つです。ただ、こちらも完璧ではないので、利用上の注意点をよく知った上で使うようにしましょう。公式HP

多数の通貨を取り扱うInfinito Wallet

Infinito Walletは最も多くの通貨を取り扱われているモバイルウォレットです。そのため投資家に対するユーザービリティが非常に高いのが特徴です。また技術者からの注目が高まっているCardanoのADAが最近導入されました。分散型ウォレットを採用し、パスワードやユーザーデータはユーザー所持となっています。公式HP

コールドウォレット代表格、TREZOR(トレザー)

先ほど説明したように、インターネット接続を極力少なくすることでハッキングリスクを回避する事ができるのがコールドウォレットの大きな特徴です。しかし、Amazonなどで正規品として売られている物の中には偽物もあるため、公式サイトで購入するようにしましょう。公式HP

ビットコイン専用のGreen Address

Green Addressはマルチシグ対応をしており、秘密鍵を完全に自分で管理(自己責任)できる点でセキュリティの優れたビットコイン専用ウォレットです。しかし、セキュリティが強固である一方、ビットコインしか扱えないため、色々な通貨を取引したい人にはあまり向いていないかもしれません。公式HP

サイバーセキュリティの重要性とインターネットリテラシーの向上に伴う仮想通貨管理

このようにウォレットにも管理の仕方や特徴が様々です。他には紙による秘密鍵の管理もあります。

インターネットが普及して何年も経ちましたが、まだまだセキュリティ意識は高めていく必要がありますが、時代とともに必然と情報セキュリティに対する感度は高まっていくかもしれません。

【中国開催:Blockchain EXE × 8BTC #2】AI×ブロックチェーン:Yu Lang氏 | Roc She氏

Bytom, TensotoryとブロックチェーンのAIエッジについて | Yu Lang氏

エッジコンピューティングとブロックチェーンの相性は完璧だ。これは今回のイベントでYu Lang氏が残したメッセージの一つです。

本イベントは2018年9月16日に上海九寨溝訓練センターで行われ、Blockchain EXEと8BTCがTomatoWalletやBytom,Cortexの協力を得て開催されました。

“Chainge”は元々8BTC(中国で最も影響力のある独立した”ビットコイン,ブロックチェーン,暗号通貨”に関するニュースサイト)が始めたオフラインイベントで、業界や企業間でブロックチェーンの熱い話題について議論する場として設けられていました。

オフラインのミートアップやハッカソン、ブロックチェーンサミットを開催するにあたって、主催者は業界の専門家たちがブロックチェーンの分野における知識の共有、高水準の開発をし、革命を起こすことを望んでいます。

Lang氏は西安大学のコンピュータサイエンスの修士号を取得しています。2012年から2014年にかけてAlibaba Alipayのシニアシステムエンジニアを経験したのち2014年2月に8BTCの設立チームに加わりました。

Yu Lang氏がCTOを務める中国企業Bytomの例と洞察を用いて、本講演ではブロックチェーンがAIエッジコンピューティングに無限の影響を与える方法について言及しました。

Bytomとは?

Bytomは資産ドメインを対象とする特殊な公開チェーンプロトコルです。これはBit Assets(デジタルの資産)とAtomic Assets(実際の資産)の橋渡しをすることを目的として設計されています。自前の通貨を流通させたいユーザー組織が対象で、世界中に約10億もの市場があると推定できるでしょう。

Bytomの構造

  • 資産の一意性→デジタル資産の一意性と所有権。BitとAtomの境界線を壊す
  • UTXOモデル→UTXOモデルに基づいて柔軟性と制御性を示す
  • スマートコントラクト→自動契約のためのユニークなデザインベースの金融資産
  • AIハッシュPoW→AIとブロックチェーンの境界を壊したコンセンサスアルゴリズム”Tensority”

Tensority : テンソル計算に基づくコンセンサスアルゴリズム

なぜPoWが必要なのか

  • Bytomはプロトコルであり、ぱブロックチェーンの基本要件は「無許可」なのでPoWの条件に一致します
  • フォースバリアは公的なチェーンエコロジーを構築するのに最も適しています
  • このプロトコルは単一のポイントブレークダウンとは別の反復を自身で更新することができます

新しい計算の必要性

  • 従来のビットコインのコンセンサスアルゴリズムではSHA256の結果が必要でした。この結果には有効性はありません。(妥当性が必要)
  • Bitcoinのマイニングマシンの反復は高速で、ハードウェアに多くの無駄が生じます。(ハードウェアの再利用)
  • パブリックチェーンの完全ノードコミュニティーは重要な指標です。多くのユーザーを惹きつける必要があります。

テンソルはどのようにしてバリアを破壊するのか

テンソル計算の中でも特にマトリックス乗算は深層学習の中核です。Tensorityのアーキテクチャは、256x256x256行列乗算をベースに構築されています。受け取った最終結果は、SHA256を使用して最終計算を実行するために使用されます。これは西南交通大学と協力して証明されました。

Tensorityのコンセンサス構造は、AIハードドライブの高速化に適しています。AIによるコンセンサス計算はビジネスにもなりうるでしょう。

Vectordash&Snark AIは、深層学習ユーザーからGPU計算を請け負っており、テンソルはTPUとGPUが共存する独自のチップAI-SICを保有しています。これは要件に基づいて調整可能で、2つの異なるタスクすなわちマイニングBTMとAIアクセラレーションの内から選択できます。

AI計算装置の大半はBytomのノードになると考えられているため、これらの2つのタスクが必要です。特にFace IDが登場してから多くの半導体メーカーが興味を示しました。ARMは2020年には全てのスマート機器に適した1,000億個のチップを販売すると予測しています。このチップは今後AIの深層学習に使用されます。エッジ計算は人間が使用する全てのもので利用されるでしょう。そしてブロックチェーンは全てのBytomノードで機能します。

AIチップの数が増えると、Bytomのユーザー数が増え、Bytomの計算力も高まります。

Bytomのオープンソースは既に公開されています。MatpoolはBytomのマイニングプールでクラウドAIの最初の一歩を実現するためにオンラインになっています。

どのようにしてブロックチェーンコミュニティーを創り上げるか | Roc She氏

ブロックチェーンで形成されるコミュニティがどのように成長してより強くなるかはAIが鍵を握っている、とJarvis +の創設者であるRoc Sheは第11回のTechnology Salonの“Chainge“ – Chain / AIでの講演で語っています。

Jarvis+の創設者はMicrosoftの中国支社でAIのでテクニカルコンサルタントとして、次世代のMicrosoft製品アプリケーションの開発に注力しました。Roc She氏はYoudao, CITIC, Autohomeと言った様々なマイルストーンプロジェクトにMIcrosoftのAIテクノロジーを導入しました。また、インターネット,技術協力,

ブロックチェーンにおけるAIコミュニティーの必要性

昨今のAIの重要性は生産率向上の可能性と大きく関係している、とShe氏は言及しました。

これはIM, Webページ, またはアプリケーション通信の分散サービスであるJarvis+ にも当てはまります。また、個人のトークンアシスタントであり強力なAI通信のインフラ構造でもあるのでブロックチェーンの実用例シナリオに組み込むことができます。

She氏は次にこう話しました:

「Jarvis+の目的はAIを用いてブロックチェーンコミュニティを活発化させることです。コミュニティを運営するためにはより多くの人に参加してもらう必要があります。AIを使ってデータを分析して自然言語や音声を使用できるようにすることで参加への障壁を低くすることが可能です。」

そしてこう続けました:

「ブロックチェーンはプロセスを透明化する特徴があるので前までは得られなかった大量のデータを得ることができます。」

Jarvis+の場合、『勾配』の考え方がコミュニティー活動を増やしてそれによってトークンの流通を活発化させることが望まれます。She氏はAIが人々のコミュニケーションにおける障壁を打ち破り、彼らを一つにする手助けになることを願っています。

Jarvis+のサービスと価値提供

  • アシスタント:Jarvis+は分散型のボットサービスで、ブロックチェーンを用いた個人のアシスタントの役割を果たします。AIインタラクティブエンジンが埋め込まれています。
  • スマート契約:特定のアプリケーションで話したりタイプすることでJarvis+を介してスマート契約を作成することができます。
  • アナライザー:Jarvis+はブロックチェーンと人との間の論理を分析し、人間関係の構築に役立つアナライザーです。
  • トラフィック:Jarvis+はパートナーがそのユーザーと接点を持つのを手助けする個人間ハブとして機能しています。

【中国開催:Blockchain EXE × 8BTC #1】AI×ブロックチェーン:ZhanKai Ma氏、Bo Peng氏

ブロックチェーンの本を一ヶ月間一日一冊読破して得たこと | ZhanKai Ma氏

捜狗拼音輸入法の生みの親、そして”TomatoWallet”の創設者でもあるZhanKai Ma氏は近頃「一ヶ月間ブロックチェーンに関する本を毎日読む」というチャレンジに取り組んでいるようです。

オフラインのミートアップやハッカソン、ブロックチェーンサミットを開催するにあたって、主催者は業界の専門家たちがブロックチェーンの分野における知識の共有、高水準の開発をし、革命を起こすことを望んでいます。

一つ言えることはブロックチェーンとビットコインからなる世界の進化は凄まじく速いということです。

Crypto Legendで「10,000ビットコインでピザを買った有名人」の例が挙げられています。ビットコインの価値が最も高い時、そのピザは1億ドルの価値がありましたが当時彼は90,000ビットコインしか所有していませんでした。

「このチャレンジにおいて興味深いのは本がいつ出版されたものなのか知るまでもなく文中の例によってそれがいつなのか示唆されていると言う点でです。」とMa氏は説きました。

ブロックチェーンのデータはどう違うのか

Ma氏はプロジェクトを通じてブロックチェーンの本質やいくつかの実用例を見て取ることができると言います。例えば、中国の大手ソーシャルメディアWeiboはデジタル著作権を強化するためにブロックチェーンを使用しています。

さらにブロックチェーンによってデータの扱いの変化も起こっています。古典的なデータは『器に入った真珠』、器の真珠をいくつか取って別のものを戻しても誰も気づかないという意味で比喩されています。しかしブロックチェーン上のデータはまさに『毛糸玉』のようです。データはハッシュ値によって紐づけられているため改ざんすることができません。ブロックチェーン上のデータを破壊することは不可能な作業なのです。- インターネットを破壊しようとすることに等しいです。限られた数の物理的な場所にデータをバックアップするFacebookやGoogleなどの古典的なデータは、何百万もの場所に接続されているブロックチェーンのデータとは異なり破壊される危険性が増します。

彼は一ヶ月間の読書によってブロックチェーンが特に金融業界で牽引力を得るようになった人類の発明であることを明らかにしました。

しかし、Ma氏は本サロンである警笛を鳴らしました。「ブロックチェーンは『チューリップ・マニア』や『ドットコム・バブル』に匹敵する人類史上最大のバブルだ」と。Ma氏は通貨システム、国際送金、サプライチェーンマネジメント、医療安全などの分野はすべてブロックチェーン技術の恩恵を受けると考えています。

深層畳み込みニューラルネットワーク | Bo Peng

Bo Peng氏は20年以上のR&D経験を持ち、AI、定量取引、ブロックチェーン技術の専門家です。彼はBlink社の創設者であり、『深層畳み込みニューラルネットワーク:原則と実践』の著者でもあります。第11回テクノロジーサロン”Chainging”-Chain/AIでPeng氏は『深層学習とブロックチェーンを統合する機会と課題』という講演を行いました。

AIから深層学習まで

Peng氏はGoogleのAlphaGoが深層学習やAIに及ぼした影響について強調しました。

AlphaGoは深層畳み込みニューラルネットワーク(DCNN)を使用して人間がどのようにゲームを行うかシュミレートすることができ、数百万のゲームをプレイすることでゲーム自体を改良していきます。

この成功は世界チャンピオンを筆頭にした地球上で最も優れたGoプレーヤーの記録を打ち破ることによってDCNNsがいかに短期間で強力なものになるかを示しています。

さらに有名人の顔の写真を膨大な量与えられた敵対生成ネットワーク(GAN)の例を挙げました。コンピュータは人間の入力を必要とせずに自動的に適切な補完手法を見つけるのです。(例えばシステムは人間が2つの目、1つの鼻を有することを自動的に認識するなど)

しかし現状の認識技術はまだその使用法に限りがあり不完全だと言えるでしょう。ほとんどのGANが扱う少量の入力(画像)や連続したビデオメッセージを処理する能力がないことから膨大な計算を要するからです。

DCNNsとGANは論理と統計にルールを区別できる自己開発統計モデルに基づいた全く新しい世代のAIシステムに移行しています。

論理的ルールの一例は、三角形の3つの角度の合計が常に180度であるという事例が挙げられます。一方で統計的ルールは、空に暗い雲が見えたら人はすぐに雨が降りそうだと予想するパターンが取れるといった具合です。

人間の思考には論理的思考と統計的思考が含まれます。AIの歴史を遡ると論理的及び統計的アプローチについての議論が幾度となく繰り返されてきました。現在は統計的アプローチが優位だという風潮があります。深層学習は古典的な統計計算であり、Goのように人間の直感をシュミレートするのを得意としています。

伝統的なプログラミングでは、ルールを覚えさせたコンピュータシステムに入力値を与えるとそれが答えを計算して出力していました。しかしDCNNsやGANsといった深層学習システムはデータの入力と必要な出力結果があれば、機械学習を用いて自律的にルールを見つけ出すことが可能です。現時点でのシステムは発見したルールを人間に検証してもらう必要がありますが、近い将来Auto MLによってその必要は無くなるでしょう。つまり完全に自律的に学習するシステムがこの世に誕生する日はそう遠くはないのです。

数学的な課題

深層学習は数学の観点からいうと行列の乗算のようなものです。線形代数(行列乗算)+非線形代数(活性化関数)の各レイヤーの計算ごとにデータは変化します。現在、いい結果をもたらすAIシステムは100以上の計算層を有しています。

これはデータがこれまで以上に容易に入手できるようになったことが大きく関係しているでしょう。GPUの計算速度の向上も大きな要因です。ほとんどのシステムモデルは一般公開されており、多くのモデルには既成のコードがあるので特定のAIモデルを扱うことに対する障壁は非常に低くなっています。

Peng氏はDCNNsとGANsに関して今日存在する課題が次の3つの分野にあることを明らかにしました。それはデータ、計算、アルゴリズムです。

  • データ:中央集権的なデータ市場に見られるようなデータに付加価値を与える方法
  • 計算:計算を分散して行うことは難しいということ
  • モデル(アルゴリズム):タスク取引と同じように

Peng Bo氏は”CloudMind”と呼ばれる新たな統合化を検討しています。このアイデアはAIにタスクを一つずつ学ばせるのではなく、複数のタスクを一度に学習するようにネットワークを訓練させるものである。これは業界内で『マルチモデル』と呼ばれる大変盛り上がった話題です。AIシステムを用いて画像を分析しながら同時に翻訳をこなすことが可能になるといった実用例が挙げられます。

【中国開催:Blockchain EXE × 8BTC #2】AI×ブロックチェーン:Yu Lang氏 | Roc She氏 Bytom, TensotoryとブロックチェーンのAIエッジについて | Yu Lang氏

【Blockchain EXE Legal #2イベント】 ディスカッション『ブロックチェーンと個人情報保護』

ディスカッション 『ブロックチェーンと個人情報保護』

河﨑:まず4つの問いを私の方で投げかけさせていただいて、議論をほぐしていきたいと思っております。1つ目が、個人データにあたるとすると、いろいろな規制がかかってくるということがわかりました。ということは、「個人データにあたらないようにすればいいんじゃないのか?」と誰もが思いつくわけです。

したがって、「個人データにあたらないようにする暗号化というのは、どういうものなのか」というのが問1です。

2つ目は訂正・消去権です。日本の法律上の訂正要求というものが保有個人情報に対してなされている、というご説明がありました。これがGDPRだと、さらに強い「忘れられる権利」として立ち現れるということで、これにブロックチェーンという特性を捉えた時にどう対応するのか、というのが問2になります。

最後に、ブロックチェーンのノードを立てるということだけで個人情報の取り扱い事業者に該当してしまうのか、ノードに書き込むだけで個人情報の第三者提供に該当してしまうのか、という問題を問4としてお示ししたいと思います。

「問1:個人データにあたらないようにする暗号化とはどのようなものか」

河﨑:永井先生に伺いたいのですが、ハッシュ化したら、これは個人データ、個人情報にあたらないというお話がありましたが、この考えでよろしいのですか。
永井:「ハッシュ = 不可逆で元の情報に戻せない」という前提でよければ、個人情報をハッシュしたもの、それ自体は個人情報ではないということになります。
河﨑:日本法の解釈としてはそういうお話だと思いますが、GDPRとブロックチェーンの論点で英語の文献を探していきますと、必ずしもそうではないのではないかという記載が非常に多いです。例えば、匿名データという概念と仮名データという概念が区別されており、匿名データは完全に個人の特定が不可能なもので、仮名データというのは他の情報と組み合わせることによって間接的に個人データとなるものです。GDPRの適用対象外である、完全な匿名データとみなされるためには、①Singling out(個人を選び出すことができない)、②Linkability(同一人物の記録と連結できない)、③Inference(特定の個人に関する情報であると推定できない)、という3つの要件を満たさなければなりません。様々な匿名化技術の検討がなされていますが、いずれも完全な匿名化は難しそうだという整理がなされています。
永井:日本でも、個人情報保護法改正の議論をしていた2014年に同じような検討がなされました。個人情報をどの程度匿名化したら誰の情報か分からない状態となるのか、「パーソナルデータに関する検討会」の「技術検討ワーキンググループ」で検討されたのですが、このような加工を行えば常に大丈夫というような、明快な結論は出せませんでした。GDPRに関しても、技術的な観点から検討すると、この加工を行えば絶対安全ということは言えないのだろうと思います。
河﨑:ハッシュ化に関しては、表の中の一項目だけをハッシュ化するのか、元データとして1枚の画像データそのものをハッシュ化するのか、ハッシュ化したものを集めて更にハッシュ化するのか、というように元データセットをどんどん広げていくことで個人の特定は困難になるため、こうしてハッシュ化されたデータは、ほぼ個人データではないと言えると整理していいのかなと私は思っておりますが、このあたりラウルさん何かお考えありますか。
ラウル:エストニアのKSIブロックチェーンでは、元データをそのままブロックチェーンに記録するのではなく、ハッシュだけを書き込むのですけれども、ハッシュから元のデータに戻ることは無理なので、個人情報とは関係がないと思います。

「問2:訂正・消去権にどのように対応するか?」

河﨑:次の問いに進みまして、訂正権・消去権にどのように対応するかという話に、議論を進めさせていただきたいと思います。ブロックチェーンは削除ができないという話がありましたが、本質的にブロックチェーンは、訂正権や消去権、忘れられる権利を含めて相性が悪いと考えた方が良いのですか。

永井:個人情報保護法やGDPRは、中央集権の情報管理を念頭に置いてルールを定めており、ブロックチェーンの使用が広がることまでは十分に考慮していないというのが現状だと思います。ブロックチェーンのコミュニティとしては、ブロックを消去することが不可能であることを前提としつつ、ここまでの処理がなされたら訂正できたと考える、消去できたと考えるというように、ブロックチェーンの性質に即した主張を発信していくことが求められていると思います。

河﨑:ブロックチェーン上に個人データを直接持つべきでないというのは、コンセンサスになりつつあるのかもしれません。ブロックチェーンは、データのIntegrity(完全性)の部分の確保のためにハッシュを記入するために用いて、元データ自体はオフチェーン化するというのが、実際のほとんどの実装例であると考えているのですが、そうなると一方で、「分散化」というブロックチェーンの思想と衝突するような気がします。

永井:ブロックチェーン上に個人情報が記録されない仕組みでサービスを構築できれば、「個人情報を記録していないので、消去の対象となる情報はありません」と堂々と言えると思います。

河﨑:これに関して実務上の対応でよく言及されるのがIPFSだと思います。つまり、オフチェーン化をして個人データそのもの、あるいは個人データとみられるようなデータをブロックチェーンには書き込まないが、同じような分散型の仕組みであるIPFSに保存することが行われていると思います。IPFSのような分散ファイルシステムで、ある人物が個人データを持っていた場合に、一部の人からそのデータを回収できない、一部の人がデータを消してくれないというケース、これは法的にはどう評価されますか。

永井:個人情報保護法もGDPRも、権利義務の関係は、本人とそれぞれの事業者との間に成立するものです。従来の制度を前提とすれば、データを消さないノードの管理者に個別に削除請求をしていく必要があると思います。もっとも、個人に1対n対応の削除請求を行わせることについて、それで良いのかという議論はあり得るでしょう。

「問3:ブロックチェーンの種別における違いは、個人情報保護の観点からどのような影響を及ぼすか?」

河﨑:問3にいきたいと思います。ブロックチェーンの種類による違いは、個人情報保護の観点からどのような影響があるのか。パブリックかプライベートか、パーミッションなのかパーミッションレスなのかという、新しくノードを立てる時に、限られた人にしかノードを立てさせてくれないのか、誰でも立てることができるのか、読む権利のみを持つのか、書き込む権利を持つのか、という軸で整理した上で、日本の個人情報保護法の観点から見た時に、パブリックのブロックチェーンと、クローズドなブロックチェーンで、どのような違いが出ますか。
永井:パーミッションがあるかないかで、個人情報保護法上の評価は大きく異なります。つまり、パーミッションがあれば、第三者提供の提供先がパーミッションを得たノードに限定されるのですが、パーミッションレスであれば、不特定の第三者への提供が行われているということになります。特に、金融分野などでは、提供先を特定したうえで同意を取得することがガイドラインで求められていますので、パーミッションレスですとガイドラインの要件を充足できないおそれがあります。金融分野以外でも、「不特定多数に提供します。同意してください」と求められば、そこでドロップするユーザーも増えるでしょうから、同意取得のハードルの高さという意味でも、全然違うでしょうね。
河﨑:パーミッションでプライベートなブロックチェーンというのが、個人情報保護の観点からすると一番使いやすいということですか。
永井:個人情報保護法との関係ではそうなりますね。もっとも、パーミッション、プライベートの使用というのは、ブロックチェーンが大事にしている自由、分散の思想と合致しているのでしょうか。
河﨑:それはブロックチェーンなのかということですね。
高松:やっていることが招待制の共有データベースを提供するビジネスに近づいてきてしまいます。それはそれで安定して確実で有力なオプションではあります。しかし、パブリックのブロックチェーンについても、合理的な解釈を前提にした運用ができるように、中央集権型のデータベースを前提に作られてきた個人情報保護法制の考え方のほうが、少しずつ変わっていくべきではないかと思います。

「問4:ノードを立てるだけで個人情報取扱事業者に該当するのか? (ノードに書き込むだけで個人情報の第三者提供に該当する可能性はあるのか?)」

河﨑:最後に問4です。パブリックのブロックチェーンでは、ノードを立てただけで色々書き込まれていきます。その中に個人情報が含まれていた場合には、個人情報取扱事業者になってしまうのかどうかです。これは逆から言うと、立てられているパブリックのEthereumのブロックチェーンに書き込んだだけで、そのノード運営者に対して個人情報の第三者提供を行ったと法的に評価されてしまうのか、というような深刻かつ重要な問いだと思うのですが。
永井:ブロックチェーンに書き込むことで第三者がその内容を閲覧できることになるのですから、第三者提供を行ったとの評価を受けることは避けがたいと考えています。もっとも、ノードを立てるだけで個人情報取扱事業者に該当してしまうと実務的な支障があるというのは、今日のディスカッションを通じてよく分かりました。個人情報の取扱いの少ない中小規模の事業者は、取り扱う個人情報の数量が少ないことを背景として、2016年施行の個人情報保護法改正前は個人情報保護法の適用除外とされていましたし、施行後も大規模の事業者と同じ安全管理措置までは求められていません。ブロックチェーンのノードについては、中小規模の事業者やエンジニアの趣味によるものであったとしても、多数の個人情報を収集することになりますので、個人情報保護法の適用を受けない方向での評価になじむかどうか、悩ましいところです。例えば、個人レベルでノードを立てただけで「事業」性を有しないケースについては、個人情報取扱事業者情報には該当しないのではないかという解釈をブロックチェーンのコミュニティから発信していくことは検討されて良いかもしれません。
高松:日本の個人情報保護法の第三者提供に照らして考えると、社会的事実として情報は移転していくため、第三者提供にあたらざるを得ません。そこで、同意を取得する必要があるという解釈にならざるを得ないのですが、その同意の取得方法として、多少緩和された、包括的な同意で良いという解釈を考えてみてもいいのではないかと思います。また、同意の有効性という観点でも、ブロックチェーンでは自分のデータがノードに分散すると分かった上で書き込むのだということを理解の上でなされるものですから、安易に撤回できない性質のものだと考えていいのではないかと思います。
河﨑:ちなみに前提としてなのですが、例えばAWSを利用してプロダクト、サービスを作るというときに、Amazonさんは第三者提供しているのか。あるいは、DropboxやOneDrive等のサービスを我々は頻繁に使っています。そういった場合に、第三者提供にあたるのか。この点はいかがですか。
高松:AWSなどのクラウドサービス事業者がサーバーに記録された情報については、「取り扱うことができない」という前提が成り立つのであれば、第三者提供ではないという整理をしています。ブロックチェーンのノードの場合は、「取り扱うことができない」と言えるかどうか。現状ですと、「取り扱うことができない」とまで言うのは難しく、第三者提供にあたらざるを得ないと考えています。

Blockchain EXE Legal #2イベント:ネットワーキング

法整備が進められている中で、今後の金融庁の対応が変わっていく可能性も高く、仮想通貨やブロックチェーン業界でビジネスを考えている人にとっては非常に貴重な時間・ディスカッションの場になったと思います。次回開催もお楽しみに!

【Blockchain EXE Legal #2イベント】IPFSとは何か?データの所有権を個人に取り戻す

【IPFSサーバーとは何か】

西村 祥一 | コンプス情報技術研究社代表取締役
自然言語処理・機械学習などの学術系案件の開発・コンサルティングを行うと共に、ブロックチェーン技術を用いた開発に取り組んでいる。Global Blockchain Summit2016ではブロックチェーン技術による位置情報プラットフォームを提案し、Best Innovation Awardを受賞。共著に「はじめてのブロックチェーンアプリケーション~Ethereumによるスマートコントラクト開発入門」(2017年、翔泳社)がある。

西村:我々オルツ社では、個人のデータを分散化して永久に保存するというプロジェクトに取り組んでいるのですが、2018年にデータの格納先として使うのであればIPFSが適していると考えています。

IPFS(InterPlanetary File System)という技術があります。インタープラネタリーとは惑星間という意味ですが、実際に惑星間でデータを置くわけではないので、通常は地球上にサーバーが分散しているところにファイルを分散して格納するような仕組みになります。IPFSというのはブロックチェーンではなく、技術的に言うと、分散ファイルシステムというものになります。

IPFSを理解していただくために、暗号化の必要なところだけをまとめた基礎知識をおさらいしたいと思います。

暗号化には、いろいろな暗号化方式がありますが、シンプルにわかりやすいもので言えば、元々の文章があって、それに対して共通鍵や秘密鍵と呼ばれたりする、パスワードのようなものを使って暗号文を作ります。暗号文を元の文章に戻そうとする場合、暗号化に使った鍵、もしくはそれとペアになる鍵がない限り、元の文章に戻すのが難しいという仕組みが暗号化と通常呼ばれているものです。

ハッシュも似ていますが、こちらは鍵が必要ありません。

公開されているアルゴリズムで、プログラムがあれば計算できて、元の文章をハッシュに置き換えます。同じ文章があれば、同じハッシュが出てきます。何に使うかと言うと、元の文章が改ざんされていないことを証明するときに、ハッシュと共に原文を出します。そうすると、誰でもハッシュは計算ができるので、元の文章が改ざんされていないことが保証できます。

鍵があれば結合可能というのが普通の暗号化です。ハッシュの場合はハッシュだけもらっても復号は不可能、極めて困難です。どれだけ困難かと言うと、何文字かわからないですが、ありとあらゆる可能な限りの英文を1個ずつ計算して、いつかこれが出てくるまでやれば戻せます。

総当たりで存在している文章を全部ハッシュします。天文学的な数値の確率で、もしかしたらこれがあてられてしまうかもしれない。そういう意味だと100%復号不可能とは数学的には言えない。しかし、極めて困難というものがハッシュという技術になります。

IPFSの仕組みですが、これはファイルシステムなので、ファイルを格納するための仕組みになります。

ファイルを保存したいとなった場合に、普通は契約しているサーバーにデータをアップロードします。

IPFSの場合は、まずファイルのハッシュを取ります。このハッシュは元のファイルを改ざんされないように守っている暗号だと思っていただいて、ハッシュを取った上で、ファイル自体をIPFSネットワーク上の一つのノードに送ります。そうすると、ハッシュが住所のような形でくっつきながら、このサーバーに保存されます。IPFSはP2Pで各ノードと呼ばれるマシンがつながっていますのでこれをどんどん複製していきます。世界中に散らばっているコンピュータに自分が保存したデータが散らばっていくと思ってください。

これの大事なところですが、実際にファイルを転送してしまっているので、世界中に自分が置いたファイルがそのまま置かれて、誰でも見られる状態になっています。

これに対して別の人が、ハッシュを教えられた場合、このハッシュのファイルが欲しいですと、あるノードに問い合わせます。このノードには希望するファイルはなかったのですが、ネットワークでつながっているので、このハッシュのファイルを持っている人はいませんか、とネットワーク上聞きにいきます。誰かが持っていれば、ここにコピーされて、このファイルが手に入るというような仕組みになっています。これが参照の仕組みです。

先ほど、削除性とか訂正という話が出てきたと思いますが、IPFSにも削除という概念はあります。

公開したけどあまり見せたくない、このハッシュのファイルを消してと命令は出せます。そうすると、このファイル消したいって言っているよと、他のノードにも伝えていきます。

世界中のノードから消えて初めてそのファイルがこの世から消えたという状態になります。これは正常に動いていれば削除することができます。

消してと言った後に、途中までは消していくのですが、ネットワークが繋がっていないとか、後はプログラムが壊れていて、消してくださいということに対して応答できないノードがあった場合、実はファイルとして残ってしまうことがあります。

若しくは故意にこのファイル残しておきたいから、プログラムを改造してどこかに取っておこうということが実はできてしまいます。一旦最初にばら撒いてしまっているので、これを取り返すというのは1回発行されてしまった雑誌や新聞を回収するのと同じ話だと思っていただくと分かりやすいかなと思います。

実はこのIPFSに個人情報をそのまま原文で書き込むという事はあまりお勧めをするやり方ではなく、通常はまず秘密鍵でファイル自体を暗号化します。暗号化したもののハッシュを取って、それをIPFS上に置くということをすれば、各ノードは自分が何のデータを受け取っているのかがあまりわからないので、それを取っておいてもしょうがないですよね。秘密鍵が外に出回らなければ、実質元のデータに戻すことは不可能である形になります。

ここまでがIPFSの仕組みですが、ハッシュというのは個人情報なのか、技術的にどうなのか、ということです。

例えば、どこの都道府県に住んでいるかというデータが入っていたとすると、ハッシュは誰がハッシュしても、同じ原文であれば同じハッシュが出てくるので、ハッシュが同じものを見ると、この人たちが同じところに住んでいるということがわかります。もっと言うと、都道府県は47個しかないので東京都在住と1個ずつハッシュすると、全部ハッシュがわかるので、そのハッシュとマッピングすることにより全員どこに住んでいるかが分かります。

ハッシュ自体から原文に戻すことは技術的にできないとしても、推測が可能です。取りえるデータのバリエーションが多いか少ないかで、実質戻せてしまうという事があります。どれくらい戻すのが難しいかというデリケートなところに、データのバリエーションが関わってきます。

技術的な対策として簡単に言うと、元のデータにランダムな文字を付けてハッシュ化すると、元の分が違うので、全部ハッシュが異なるようになります。データが改ざんされていないということは、ランダムに足した分を無視すればデータは取り出せますので、このような技術が使われています。

技術的なところから、IPFSと暗号化、ハッシュを組み合わせてできることというところをご説明させていただきました。

al+ stack / al+ emeth

alt社では、FacebookのデータやグーグルのGmailのデータを連携して、そこから個人のデジタルクローンと呼んでいる、個性をリビルドすることに取り組んできました。

自然言語処理を使い、個性をコピーするために、テキストのデータだけではなく、その人の顔の情報や、声の情報というのも、機械学習に至って、対話、顔、音声のモデルを全部作ります。その人の顔や声で、その人が喋りそうなことを喋る、というようなことを目指して作ってきました。

現在我々が作ってきたものは、弊社のサーバー上に全てのデータが載っている状態で、その学習処理もサーバーで行われています。これを複数のユーザーさんに提供していくとなると、全員のデータが全部サーバー上に格納されることになります。また、プロセスした後に出てくる学習後のモデルも全てサーバー上に保存されることになるので、データの所有権はどこにあるのかとか、単純にサーバーの拡張をしていかないとユーザー数に耐えられないという実務的な問題もでてきます。

al+ stack(オルツ・スタック)

そこで我々が作り出したのが、オルツ・スタックというものになりまして、IPFSとかブロックチェーンを使いながら個人のデータを分散して格納しましょうというものになります。

簡単にフローを説明しますと、FacebookやGmail上のデータなど、あらゆるデータを分散ストレージに暗号化して書き込みます。分散ストレージはIPFSだと思ってください。暗号化しているというのが1つのキーポイントです。

IPFSはハッシュを取るという話をしていましたが、そのハッシュ値をブロックチェーンに書き込んでおくことで、1回書き込んだデータがブロックチェーンの方を見ると改ざんされていないとみることができます。これが、分散ストレージとブロックチェーンの組み合わせで使うと良いという例になります。

「死んだおばあちゃんと話せる」という動画を先ほどお見せしましたが、この暗号化に使った鍵を子孫にずっと受け継いでいくと、それを受け取った子孫は、分散ストレージからデータを持ってきて、そこから弊社の技術を使ってデジタルクローンを再現して、おばあちゃんと会話するというようなことができてきます。

なんで分散ストレージを使ったのかと言うと、先ほどのIPFSの仕組みを見ると、世界中のマシンにデータが分散される、中央管理がされていない民衆によるデータ管理なので、鍵を持った個人のみがデータアクセス可能という暗号化の技術を単体で使って実現しています。これが組み合わさるとデータの主権を個人に取り戻す、これがやりたいことだったわけです。

Gmailのデータはグーグルさんが持っているし、Facebookの投稿情報はFacebookが1社で持っています。その全部の所有権を個人に取り戻すというところが主な取り組みです。

その溜め込んだデータを、なにかしらの状態で取り出したら、鍵で復号はできますが、このデータはただのデータの寄せ集めなので、なにかのモデルにしてあげないと、対話をしたり実際話したりという事ができません。

その処理は、ディープラーニングと呼ばれているものや、ニューラルネットワークという技術を使って、そこの再現を行っています。その処理も今までは弊社のサーバー上で行っていたのですが、現在は分散コンピューティングの仕組みの開発に今着手していて、世界中に散らばったマシンで処理をした結果のモデルを1回こちらに戻して、それをまた秘密鍵で暗号化したものを、また分散ストレージに書き戻す、といった取り組みもしています。

元データの個人情報というところから、作り上げた人工知能というのは個人データなのかというような未来の話になってくるので、これはまた次回のお話になってくると思っております。

ディスカッション

河﨑:非常に面白い話だなと思ったのですが、これはまさに個人情報の塊みたいな話だと思います。データ主権を個人に取り戻すというキャッチフレーズは、GDPRのキャッチフレーズと全く一緒ですね。

永井:そうですね、GDPRのデータポータビリティとの関係では、自分の提供したデータを取り出せるという点で、同じ思想に沿ったサービスだと思います。日本で検討されている情報銀行も、信頼のできる機関に預けた情報を本人の意思でコントロールできるようにするという点で、同じ思想に基づいた動きと言えるように思います。

河﨑:ただ、極めてセンシティブな個人情報の塊みたいなもので、選別しないことに意味があるわけですよね。だからFacebookなどの書き込み全てに意味があるということですよね。

西村:よく私ミイラの話をするのですが、エジプトの王は内臓などを取り出して全部そこにいれて、包帯ぐるぐる巻きにして、将来復活できると信じて保存されていたのです。あれは、その時代には復活する技術はなかったのですが、未来に託している。我々もなるべく取れるだけのデータを取っておいて、もしかしたら50年後に、そのデータから自分のデジタルクローンを復元できる技術ができるかもしれないので、なるべく粒度を高く、全部取っておきたいのです。そういう意味で選別をしないということです。

河﨑:思いきり、この個人情報保護法とぶつかる気がしますが、どうですか。

永井:本人から有効な同意を取得したうえで提供するサービスでしょうから、個人情報保護法の利用や提供の制限との関係では、適法なサービス提供ができそうです。他方、本人の同意の枠外での利用、提供や、情報漏えいが発生した場合に、本人のプライバシー侵害を理由とする損害賠償の問題が生じることとなります。例えば、本人の同意なく私生活を紹介する小説を発表して裁判になった『宴のあと』『石に泳ぐ魚』などの事例では、通常公開されないはずの私生活が公開された点を認定して、損害賠償や出版の差止めを認めました。人格そのものというプライバシーとして保護する必要性が特に高い情報の取扱いとなりますので、実効的な安全管理措置が講じられているかが厳しく問われることになると思います。

高松:このサービスはすごく面白いサービスだなと思いました。データの主権がまさに個人個人に戻ってくる、しかもそのデータは大量に集積され、個人そのものに近い情報で構成されるという話になるので、個人情報保護法やプライバシーなどを超え始めて、情報そのものをどう保護するかといった議論にも近づいてくるような気がします。現に民法の研究者の間でも、時代に即して、情報自体の占有や所有を認めるべきではないかといった議論が始まっています。最先端の技術が古典的な民法上の占有や所有の議論を呼び起こすという点でも、興味深いです。

河﨑:エンジニア側からすると、これにIPFSとブロックチェーンの組み合わせを考えておられますよね。そこら辺の論点からコメントがあればお願いします。

石井:お話を伺っていて、シュレッダーを思い出しました。個人情報をシュレッダーにかけて粉砕したという事を証明すると思うのですが、デジタルシュレッダーみたいなものが今後いるのかなと思っています。つまりネット上に自分の重要な情報がIPFSなりブロックチェーンにありますが、それはもう粉砕されていて繋げることはできないと証明することになると思っています。ウィルスに感染すると自分のPCのデータが壊れるとかありますが、ウィルス的な動きをある意味ポジティブに使い、感染させてシュレッダーで粉砕するようなテクノロジーが今後いるのでは、ニーズがあるのではないかなと思いました。

【Blockchain EXE Legal #2イベント】「個人情報保護」とはどのようなルールか | 永井 利幸, 高松 志直(片岡総合法律事務所)

Blockchain EXE LEGAL #2「個人情報保護」とはどのようなルールか

高松 志直 Yukinao Takamatsu | 片岡総合法律事務所 / パートナー弁護士
金融機関、信託、流動化取引等の金融法務を中心とする企業法務全般のほか、決済法務(クレジット・電子マネー・送金取引等)、情報関連法務(個人情報・マイナンバー)を手がけている。
これらの業務の流れを受け、直近では、ブロックチェーン及び仮想通貨に関するアドバイスも多数実施している。
永井 利幸 Toshiyuki Nagai | 片岡総合法律事務所 / 弁護士
金融・決済法務を中心に、企業法務全般を取り扱う。
FinTech、金融データの利活用など、金融法と情報法(個人情報・マイナンバー)の両方に関連する案件の取扱いが多い。

高松:日本の個人情報保護法と欧州のGDPRの全体像を概観しながら、ブロックチェーンを用いて個人情報を取り扱う場合の論点を紹介していきたいと思います。ブロックチェーンによる分散型の個人情報の管理が行われることは、個人情報保護法やGDPRでは想定されていないように思います。そこで、個人情報保護法やGDPRをどのように解釈していくべきか、またブロックチェーンを用いたサービスをどのように設計すれば、解釈上の疑義をクリアできるかといったあたりにフォーカスして解説したいと思います。

日本における個人情報保護法とは

永井:日本の個人情報保護法の特徴として、個人情報の保有状況に応じて3つの定義が使い分けられており、適用されるルールも3段階に分かれていることがあります。

  1. 氏名、住所などの「個人情報」について、保有状況にかかわらず適用されるルール
  2. データベース化された個人情報である「個人データ」に適用されるルール
  3. 保有個人データ」に適用されるルール

2つ目の「個人データ」に適用されるルールは名簿のようなものをイメージすると分かりやすいです。

3つ目の「保有個人データ」に適用されるルールは、ざっくり言うと、保有者がオーナーシップを持っている個人データのことです。受託者として第三者から預かっており、自らの権限では開示や消去を行うことができない個人データは、「保有個人データ」に含まれません。

これから説明する個人情報保護法のルールについても、この3つの定義のどの類型についてのルールなのかを意識しておくと分かりやすいと思います。

仮名化したデータ・暗号化したデータは個人情報なのか

永井:仮名化・暗号化したとしても、容易に照合できる他の情報を使って加工前の個人情報に容易に戻すことができるのであれば、個人情報にあたります。このような形で個人情報にあたるとされる情報は、「容易照合性」がある個人情報などと言われています。

ブロックチェーンに記録するでデータをハッシュ化したものは個人情報なのか

永井:ハッシュ化によって、加工前の個人情報に含まれる本人の情報を識別できなくなる、つまり「容易照合性」がなくなることを前提として良いのであれば、ハッシュ化した情報は、基本的には個人情報にあたりません。ただし、ハッシュ化した情報と他の情報とを組み合わせることによって本人を識別できる可能性が仮にあるとすれば、「容易照合性」が認められ、個人情報にあたる可能性があります。

「容易照合性」があるかどうかは、評価概念であり、事業者によって違うというのがポイントです。本人から直接データを取得した事業者は、仮名化・暗号化した情報とは別に、本人の氏名などが記録された名簿やデータベースを保有していますので、仮名化・暗号化した情報も個人情報にあたることとなるケースが多いでしょう。しかし、その事業者から仮名化・暗号化した情報のみを受け取った事業者にとっては、「容易照合性」がなく、個人情報ではないケースが多いと思います。個人情報の定義の相対性と言われることもあります。

ブロックチェーンとの関係でも、本人から直接データを取得した事業者と、他のノードから送信されたデータを受信したノードを管理する事業者とでは、個人情報を取得したのかどうかの評価が異なることとなる可能性があります。そこで、サービス設計に際し、どの情報が誰にとって個人情報なのかを整理していくことが求められます。

個人情報保護法は誰に適用されるのか

永井:個人情報保護法が適用されるのは、「個人情報取扱事業者」とされています。

具体的には、個人情報データベース等を事業の用に供している、つまり個人情報が入ったデータを「事業」に使っている者が個人情報取扱事業者にあたります。

パブリック型のブロックチェーンにおいて、技術的な興味をもってノードを立てた個人についてまで、個人情報取扱事業者として個人情報保護法の法律の適用を受けるのかどうかは、まだ十分に議論されていません。

個人情報をどうやって使うのか

個人情報の取扱いにあたり、利用目的をできる限り特定しなければなりません。また、個人情報を取得した場合は、あらかじめ利用目的を公表するのでなければ、速やかに本人に通知・公表しなければなりません。

ブロックチェーンを使用したサービスについては、どの程度利用目的を特定するかが問題となります。ブロックチェーンの使用は個人情報の取扱いの過程における記録手法にすぎないと考えれば、「XX取引の取引履歴の記録のため」などとサービスにおける最終的な利用目的のみを特定すれば十分であるとも考えることができそうです。もっとも、ブロックチェーンにひとたび記録されると過去のブロックを消去できないという特殊性を踏まえ、「ブロックチェーンを用いてXX取引の取引履歴を記録するため」などと、ブロックチェーンの使用を明示したほうが良いかもしれません。

正確性の担保、消去の努力義務

個人データについては、正確性の確保と消去の努力義務が課されています。

他方、ブロックチェーンは、過去のブロックをチェーンでつないでいくという技術ですので、過去のブロックを消去することができないのが原則です。

個人情報保護法の要求事項とブロックチェーンの技術上の特徴が衝突しているようにも見えますので、事業者の努力義務がどの範囲で求められるかについて、 これから議論を深めていく必要があります。

安全管理措置

個人データの漏えい、滅失などが生じないようにセキュリティ対策を講じることが求められています。個人情報保護法で求められる措置のことを安全管理措置といいます。また、従業者や委託者など、データを取り扱う者を事業者が適切に監督することも求められています。

提供制限

個人情報保護法のルールの中で、もっとも重要なものの一つに挙げられるのが提供制限です。

個人データは、原則として本人の同意を得ないで第三者に情報を提供してはならないとされています。例外として同意が不要となるのは、法令に基づいて提供する場合、委託先に委託の範囲で提供する場合、グループ会社間で共同利用する場合などに限られます。ブロックチェーンの場合、パブリック型なのかプライベート型なのかによっても評価が異なり得ますが、少なくとも2社以上で使うブロックチェーンに個人データが記録され、送信された情報によって他のノードがその内容を認識できる状態になったとすれば、その時点で提供が行われたと評価される可能性があります。

そこで、ブロックチェーンに記録する前に、本人からの同意を取得する必要があります。同意の取得方法について、サービス設計段階で検討しておくと良いでしょう。

第三者提供に係る記録の作成等

また、個人データを第三者に提供したときは、提供元において記録を作成しなければならないのが原則です。また、提供先でも、取得の経緯を確認したうえで、やはり記録を作成しなければなりません。数年前に通信教育の会社で個人情報の漏洩が発生しましたが、その際に、漏えいしたデータがいわゆる名簿業者経由で転々と譲渡されており、漏えい元が通信教育会社だったと分かるまで時間がかかったという問題がありました。そのような問題への対応策として、このような確認と記録の義務が定められています。

国外にノードが存在する可能性がある場合は、外国にある第三者提供の論点も検討する必要があります。個人情報保護法では、個人データを外国にある第三者に提供するにあたり、外国にある第三者に提供を認める旨の本人の同意を得る必要があります。EU域内の第三者に対する提供については、個人情報保護委員会によってこの同意が不要となる措置が講じられる予定ですが、原則としては同意が必要ということになります。

特にパブリック型で外国にノードが存在する可能性のあるブロックチェーンについては、外国提供の可能性が潜在的にあることから、外国にある第三者に提供を認める旨の同意を取得するなどの対応を行う必要が生じることとなります。

訂正等請求

個人情報保護法では、保有個人データについて本人が開示、訂正、消去等の請求を行う権利を持つとされています。

では、ブロックチェーンのノードを管理する事業者がこれらの請求を受けた場合に、どのような対応を行えば良いのでしょうか。この点も、消去の努力義務に関して説明したとおり、過去のブロックを訂正、消去できないというブロックチェーンの技術上の特徴との調整を要する論点です。

ノード限りで消去することが事実上不可能という点を捉えて「保有個人データ」の定義を満たさないと考えるのか、あるいは「保有個人データ」に該当することは前提としつつも、ノードとして可能な限りで何らかの措置を講じれば足りるのかといった点を議論していく必要があります。

域外適用

日本の個人情報保護法の解説として最後に採り上げるのは、域外適用です。

個人情報保護法は、日本の法律ですので、日本国内で行われる個人情報の取扱いに適用されるのが大原則です。しかし、日本向けにサービスを提供している国外の事業者がそのサービスに関連して日本国内の個人情報を取得し、国外でその取扱いを行う場合にも、個人情報保護法の適用があるとされています。このような個人情報保護法の適用を域外適用といいます。

日本の居住者向けに提供されているサービスでブロックチェーンを使用する場合も、国外にあるノードを管理する事業者に個人情報保護法の域外適用がなされる可能性がありますので、注意が必要です。

EUのGDPR

永井:次に、EUのGDPRの話に進みたいと思います。

日本に比べたEUの特殊性として、個人データの保護に対する権利がEU域内の憲法に相当するEU基本権憲章に明文で定められていることがあります。日本国憲法でも、表現の自由に由来する権利としてプライバシーに関する権利があると解釈されていますが、EU基本権憲章に明文規定があることは、個人のプライバシーに対する意識の高さを示しているといえるかもしれません。

GDPRは、このような憲法レベルの権利を具体化し、企業や個人に直接適用されるルールと位置づけたものですので、民間事業者に与える影響も大きいと言えます。

特に、GDPRに違反すると高額の課徴金が課されると定められている点が、事業者にとって脅威ととらえられているようです。

GDPRの個人データ・個人情報の範囲とブロックチェーンとの関係性

GDPRの内容の多くは、日本の個人情報保護法と重なり合うものですが、条文を細かく比べ読みしてみると、微妙に異なる点もあります。

ブロックチェーンとの関係で問題になりそうな点を取り上げると、まず、個人データ、個人情報の範囲が異なるように読めます。

日本では、本人にたどり着けるかどうかというのがポイントで、「容易照合性」のあるなしによって個人情報かどうかの評価が事業者ごとに異なると説明させていただきました。

しかし、EUのGDPRでは、識別された、又は識別されうる自然人に関するあらゆる情報が含まれるとされており、「容易照合性」を事業者ごとに判断するという枠組みが採用されていないように読めます。例えば、IPアドレス、cookie、端末を識別するIDなど、その情報だけでは一般的には誰の情報なのか分からない情報であったとしても、他の情報と組み合わせることでこれらの識別子に対応する自然人が識別されうるのであれば、個人データに該当すると解釈されています。

日本では、IPアドレス、cookie、端末識別IDなどは、単体では個人データに情報でないという考え方が有力かと思いますので、EUのほうが個人データの範囲が広いと言えそうです。

ブロックチェーンを使用したサービスでも、ID類似の情報を記録すると、GDPRとの関係では個人データの提供を行っているとの評価につながる可能性が否定できませんので、注意が必要です。

GDPRの適用範囲

次に、GDPRが適用される地理的範囲と域外適用の論点があります。

まず、EU域内の拠点の活動に関運してなされる個人データの取扱いについては、EU域内で行われるもののほか、EU域外で行われるものについても、GDPRの域外適用がなされます。そこで、EUに拠点を持っている日本の事業者、例えばメーカーや商社などは、EU域内の顧客や従業員の情報を国内で取り扱うことが多いため、GDPRの適用を受けることを前提とした準備を行っているところです。

また、EU域内に拠点がなかったとしても、EU所在のデータ主体(個人)の個人データの取扱いのうち、次の2つのいずれかに関連するものにはGDPRの適用があるとされています。

1つ目は、(a)EU所在のデータ主体に対する商品・サービスの提供に関連するものです。例えば、「EU域内在住のみなさまへの特別キャンペーン」などとして商品・サービスの購入を訴求すると、GDPRの適用を受ける可能性があります。

それから、(b)EU域内で行われるデータ主体の行動の監視に関連するものがあります。EU域内で使用されているコンピューターのブラウザでの閲覧履歴をトラッキングする場合などがこれにあたります。

GDPRの適用下で遵守が求められる事項

GDPR適用下で遵守が必要となる事項としては、例えば、個人データを取り扱うにあたり、本人の同意を取得するか、正当な利益に基づいて行うなどの根拠を有していなければならないとされています。

また、データ主体の権利行使というのが定められており、例えば、「忘れられる権利」として、不要なデータを消去する対応などが求められます。また、「データポータビリティに関する権利」として、他のサービスに乗り換えたいと思った時に、他の事業者にデータを移行する権利があるとされています。

また、EU域内におけるデータ保護責任者の設置、プライバシー影響評価の実施など、これまで必須とされていなかった事項の遵守が求められることとなります。

さらに、EU域外にデータを出すこと(域外移転)についてもEU独自のルールへの対応が求められます。例えば、移転先の事業者との間で、標準データ保護条項と呼ばれる、欧州委員会が定める条項を含む契約を修正することなく締結するなどが必要となります。(注:講演後、欧州委員会が日本に対する十分性認定手続を正式に開始することを決定しました。欧州委員会による十分性認定がなされた場合、移転先となる日本の事業者が個人情報保護委員会が定めるルールに従った取扱いを行うことを条件に、標準データ保護条項などによる対応を不要とすることができるようになります。)

議論の視点

以上、日本の個人情報保護法とEUのGDPRの全体像を駆け足で説明しました。

ブロックチェーンに即した議論にあたっては、ブロックチェーンの利用態様に応じた検討が必要になると思います。

例えば、パブリック型なのかプライベート型なのかもそうですし、ブロックチェーンに記録する情報に個人情報が含まれるのか、ハッシュ化された情報のみが記録されるのかによっても、問題の所在や重要性が異なってくるように思います。

簡単な図を作ってみました。(パワーポイントP29〜32)

・個人情報をブロックチェーンに記載する場合

例えば、個人情報をパブリック型のブロックチェーンにそのまま記録するという設計でサービスを提供するとします。そうなると、個人情報が不特定多数のノードに提供されることになりますので、不特定多数のノードについて、個人情報保護法やGDPRの適用が問題となります。はたしてこういうサービスを提供することが良いことなのかどうか、というのが今日のセッション全体に共通する問題意識です。

・ハッシュのみをBCに記録する場合

これに対し、ブロックチェーンにはハッシュ化した情報だけを記録するということであれば、ノード側では誰の情報かわからないので、個人情報保護法との関係では個人情報を保有していないとの評価ができそうです。そのようなことをイメージしながらサービスをデザインしていただけると、個人情報保護法やGDPRの遵守という観点からも良いサービスが作れるのではないかと思ってご紹介させていただきました。

私からの発表は以上です。ありがとうございました。

【Blockchain EXE Legal #2イベント | ブロックチェーンと個人情報保護】社会実装例 PlanetWay | Raul Allikivi

「社会実装例 PlanetWay」Raul Allikivi (Planet-way/CRO)

ラウル・アリキヴィ | Planet-way / CRO
エストニア生まれ。エストニア経済通信省(Ministry of Economic Affairs and Communications)の経済開発部で局次長を務めた後、エストニア航空の監査役に就任し、政府担当者として航空会社の再建に従事。現在は日本に暮らし、エストニア行政での経験と知識を生かしてコンサルティング会社ESTASIA設立。アジアにエストニアの行政システムなどを紹介している。2013年には日本のクラフトビールを欧州へ輸入するBIIRUを設立。2016年Planetwayのヨーロッパ支社であるIoT系スタートアップ企業、Planetway Europeを設立し活動。

セキュリティモデル

ラウル:今日話したいと思っているのは、エストニアの個人情報を守るやり方です。基本的には、データを守るために3つのことが重要だと思っています。

  1. Confidentiality(秘匿性)
  2. Availability(可用性)
  3. Integrity(完全性)

エストニアの場合は、ブロックチェーンを使っているのはデータの完全性の部分だけです。Confidentialityについては、エストニアの場合はデジタルIDを用いています。エストニアでは、電子サインが、2001年から普通のサインと同等の法的効力を持っています。そして、もう1つのAvailabilityとは、データにどういうふうにアクセスすることができるかということです。

X-road

ラウル:エストニアの場合は、X-roadという仕組みがありまして、これは様々なデータベースをインターネット上で繋げる技術です。本人確認を経た上で、その人は自身が権限を持っているデータにアクセスできるようになります。これは分散型システムで、行政機関が国民から取得した個人データをまず1つのデータベースに置くと、他の行政機関などがそのデータを必要な時には、国民に毎回確認することなくそのデータにアクセスができるようになるイメージです。また、行政機関だけでなく民間企業も使うことができます。

KSIブロックチェーン

ラウル:エストニアで使われているブロックチェーンは、一般的な他のブロックチェーンとは異なっています。我々が使っているKeyless Signatures Infrastructure(キーレス署名基盤)に基づくKSIブロックチェーンは、エストニアの政府でも利用されています。例えば、データベース間で、データリクエストが出され、それに対する返事が来た際に、そのログを保存するところでKSIブロックチェーンを使っています。

KSIブロックチェーンの場合、誰かがこのデータを見た、このデータにアクセスをしましたという記録は、絶対に変えられません。個人は自分のデータがどこにあるかを見ることができますし、誰かが自分のデータにアクセスしたという履歴を見ることができます。このように、個人が自分のデータを管理するということが、エストニアでは実際に行われています。

ハッシュ化

ラウル:KSIブロックチェーンというのはどういうものなのかという話をすると、基本的にはハッシュ化が行われています。ハッシュ化は個人データの部分だけではなく、データ全部がハッシュ化され、このハッシュ値がデジタル指紋(digital fingerprint)となります。

そうしたハッシュは、マークルツリーを使って1つのハッシュ値になり、ブロックチェーンに記録されます。このように、ブロックチェーンに入る個人情報はハッシュ化されており、ハッシュ値から個人情報へ戻ることは一切無理なため、それが個人につながることはなく、ブロックチェーンのデータの安全性は守られています。

改ざん不可能なプライベートブロックチェーン

ラウル:実際は、そのブロックチェーンの入っているハッシュ値を計算して新聞にプリントします。そのため、ブロックチェーンはプライベートなんですけれども、改ざんは不可能になります。ブロックチェーンを書き換えるためには、世界中の新聞を全部変えないといけないことになるんですね。

Planetway社の社会実装例

ラウル:Planetwayでは、エストニアの電子政府の仕組みを日本の民間企業に提供しており、保険給付金支払プロセスをPlanetCrossで円滑化する実証実験を行いました。従来は、まず個人が保険を掛けて、交通事故があったときに病院に行って、保険金の請求の際に紙の書類に手で書かなければなりませんでした。また、それを保険会社の方でチェックするのも大変でした。

その病院まで行って、そこで病院のデータと比べないといけないんですよね。PlanetCrossの実証実験では、オンライン上で数秒でセキュアにデータ交換することに成功しました。

ブロックチェーンの役割

河﨑:エストニアのブロックチェーンの特徴は、ブロックチェーンを限定的に用いているというところだと思っています。ハッシュ化によって、Integrity(完全性)に関するところのみをブロックチェーンに期待し、それ以外は大胆に全く別のテクノロジーと組み合わせて行うという割り切りをしています。

高松:これもブロックチェーンの有力なオプションだと思っています。ブロックチェーンの本質的な活用をIntegrity(完全性)の役割を限定していただくと、今日のテーマである個人情報との関係では、かなり整理はしやすくなるので、サービスのリーガル面では推進力になると思います。

ブロックチェーンのユースケースとして医療は外せない!!

ブロックチェーンのユースケースとして医療は外せない

▼目次

  1. プライベートブロックチェーンって結局ユースケースある?という疑問
  2. パブリックチェーンとプライベートチェーン
  3. ITベンダーとしてのブロックチェーンの存在
  4. 意味のあるプライベートチェーン活用とは?
  5. 医療×ブロックチェーン

1.プライベートブロックチェーンって結局ユースケースある?という疑問

皆さん、こんにちは!Blockchain EXE運営スタッフの藤本と申します。富士通に勤めながら、革新的な技術であるブロックチェーンをどこかに活かせないか日々機を伺っているのですが、その一環で今週開催される「Blockchain EXE #14 人生100年時代!今、流行りのMedi Techから求められる”医療×ブロックチェーン”の真実とは?」の企画を行いました。

Blockchain EXEのmeet upを振り返ると、「仮想通貨」「IoT」「AI」「マーケティング」といったブロックチェーン界隈の中でも有名なテーマで来ましたが、今回は「医療」がテーマとなっており、今までと比べると範囲を狭めた感じは否めません。ですが、私個人の考えでは、ブロックチェーンのユースケースとして、医療は外せないどころか最も重要なテーマの一つだと考えています。

私がブロックチェーンを知って2年ほどになりますが、どのような過程でその考えに至ったかお話しさせていただきます。医療業界に携わる人は勿論のこと、「ブロックチェーンって結局ユースケース無いよね」とお悩みの方も、ぜひ読み進めていただき、ご意見いただければと思います。

2.パブリックチェーンとプライベートチェーン

ブロックチェーンには、大きく2つの方向性があるという事は聞いたことがあるかもしれません。BitcoinやEthereumに代表される「パブリックチェーン」と、富士通も参画しているHyperledger Fabricのような「プライベートチェーン」があります(上図参照)。両者の決定的な違いは、マイナーと言われるブロックチェーンネットワークを構成するユーザーが不特定か特定かです。それにより、処理性能等が異なってくるのですが、それ以上に管理者が不在かそうでないかによって、サービスの方向性が大きく異なってきます。

例えば、海外送金を例にすると、プライベートチェーンは既存の銀行間が連携した業務効率化(共創)が期待できますが、パブリックチェーンにおいて銀行は不要となり、いわゆるディスラプトが起きます。(下図参照)

3.ITベンダーとしてのブロックチェーンの存在

実はここらへんが個人的にジレンマを抱える点になっています。元々Bitcoinに端を発する(パブリック)ブロックチェーンの思想に触れて、

「なんと革新的な技術・考え方だ!」

「こんなサービスを自分でも作ってみたい!」

と飛び込んでみたものの、よく考えれば(よく考えなくても^^;)、企業にシステムを売っているITベンダーとして、中間業者を排除した真にP2P(ピア・ツー・ピア)のサービスが出来てしまっては、色々まずい事が分かりました。

なので、パブリックチェーンではなく、プライベートチェーンでなんとかビジネス出来ないかと試行錯誤していたのですが、そこで待ち受けているのは「それってブロックチェーンでやる意味あるの?」です。(この一連の流れは、ITベンダーの企画担当あるあるなのではと個人的に思っています。)

「地域通貨やポイントをブロックチェーンで」というニュースはよく聞きますが、実証レベルではなく、本当のサービスとして実施したという話は私の知る限り聞いたこと無いです。以前、地域通貨をブロックチェーンで実証した方に話を聞きましたが、ブロックチェーンを用いずに作った方が、低コストで作れるのが現状とのことです。長期的にはアリかと思いますが、直近のビジネスでは、コスト以外の技術的な優位性を示さないと実証止まりから脱却出来ないと考えています。

4.意味のあるプライベートチェーン活用とは?

プライベートチェーンの技術的な優位性はどこにあるのか、社内外のブロックチェーン有識者にご意見を伺っていましたが、腑に落ちたのは、富士通の「メガバンク3行とブロックチェーン技術を活用した個人間送金サービスの実証実験」という取り組みです。どのような取り組みかと言うと、X銀行の口座を持つAさんとY銀行の口座を持つBさんとで個人間送金を実現するというもので、ブロックチェーン基盤を用いる事で、シームレスかつ正確で安全な取引が出来るものです。

この事例を紐解くと、プライベートチェーン活用を意味のあるものにするためには、3つの要素が必要だと考えています。

①複数の団体・企業が連携する

メガバンク3行のように、複数の団体・企業が、ノードを保有する必要があります。地域通貨の実証は、得てして1社単独で実施するケースが多いですが、そうなってしまうと、本当に既存システムの方が、低コストで早期に実現出来ます。

②複数の団体・企業がそれぞれ独自データを持つ

ブロックチェーンはあくまで「分散台帳」なので、台帳に格納するデータ(送金履歴、アクセス履歴など)が何かしら必要になります。メガバンク3行の実証のケースで言えば、「各銀行口座データ」および「送金履歴」になります。複数の団体・企業のうち1社しか持っていなかったり、各社全く同じデータ(オープンデータ等)を持っていれば、やはり既存システムで実現した方が効率的です。

③複数の団体・企業に共通の目的がある

独自のデータを持つだけでなく、複数社間でデータのやり取りが発生しないと連携する意味が無いです。

これらの要素を前提にすると、必然的にプライベートチェーンを適用出来る業界が絞れると考えました。その一つが「医療」です。(他には、上記事例のように「金融」。また、「不動産」についても、国内でコンソーシアムを組んで不動産情報を共有しようという動き等があります。

5.医療×ブロックチェーン

医療分野を見てみると、カルテ情報が病院ごとに分断されており、一個人が幼児期から現在に至るまでどのような病気にかかったか、処方をうけたか、本人だけでなく、病院ですら把握していない事が問題になっています。逆に言えば、「各医療機関」が「異なる医療データを持っている」「個人の一連の病歴/処方歴を確認したい」という3つの条件を満たしていると言えます。

医療業界でも、PHR(個人が自身の健康情報を管理する基盤)やEHR(病院間でカルテ情報を共有する基盤)といったテーマが盛んに研究されていますが、コストやセキュリティ等の問題で、特に国内では浸透出来ていないようです。そこで、実用化に向けてブロックチェーン技術が期待されているわけです。

今回の14回目のEXE登壇者ですが、

PHRアプリ「健康銀行」を提供しているArteryex株式会社の李氏

J-DOMEと呼ばれる糖尿病患者の診療データを共有するEHR事業の開発に携わるラブロック株式会社の長瀬氏

ITヘルスケア学会代表理事、医療ブロックチェーン研究会会長も併任されている国立保健医療科学院の水島氏にご登壇いただく予定です。まさに、医療×ブロックチェーンの最前線に立つ方々に結集いただく回となります。

  1. PHRやEHRの実現性とブロックチェーンの意義
  2. パブリックチェーン的な試みは医療分野に無いのか?
  3. AppleWatch等IoT連携の将来展望

等など、ブロックチェーン全体の将来性を語ると言っても過言ではないので、ご興味をお持ちの方はぜひご参加いただければと思います。

申込はこちら

【10月 Blockchain EXE】実装から法律まで内容盛りだくさんの豪華ブロックチェーンイベント!

実装から法律まで!10月のブロックチェーンイベント!

10月のBlockchain EXEは内容盛りだくさん。日本国内・外から専門家をお招きして、豪華イベントを開催します!

ブロックチェーン技術のビジネス・技術・法律など様々な観点から議論する場であるBlockchain EXEには毎回レベルの高い参加者が集つまります。是非皆様のご参加をお待ちしております。

▼目次

【Blockchain EXE Legal #3】弁護士・技術者・大使館職員らと語る、クリプトバレーと呼ばれるスイスの今

約3万人規模の小さな都市であるツーク市は、「クリプトバレー」とも呼ばれ、ブロックチェーンの関連スタートアップが集まることでも有名です。今回は海外ゲストもお招きしてリーガルテックの観点からICOを考えます。

貴重なLegal Techイベント。ブロックチェーンの実用化には法律知識は欠かせません

開催日 2018/10/17 (水) 19:00 – 21:40
会場 LIFULL HUB /半蔵門
主催 Blockchain EXE
講演者 Andreas Furrer  | ルツェルン大学教授、MME法律事務所/パートナー弁護士
福田 隆行 | 片岡総合法律事務所 / 弁護士・ニューヨーク州弁護士
高松 志直 | 片岡総合法律事務所 / パートナー弁護士
渥美 優子 | 早稲田リーガルコモンズ法律事務所 / 弁護士
参加費 ¥3,000
申込み https://peatix.com/event/439628/view

Blockchain EXE #14 人生100年時代!今、流行りのMedi Techから求められる”医療×ブロックチェーン”の真実とは?

最近多くの人がオシャレとして身につける”Apple Watch”。日中の活動データから睡眠データまで、私たちのあらゆる「生活・健康」をデータ化してくれます。医療のデジタル化が進むにつれ、私たちの生活はどのように変化していくのでしょうか。

ナンバリングイベント!『ブロックチェーン × 医療』はどのように融合するのか?

開催日 2018/10/19 (水) 19:00 – 22:00
会場 株式会社LIFULL 8Fセミナールーム
主催 Blockchain EXE
講演者 水島 洋 | 国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター センター長
李 東瀛 | Arteryex株式会社 代表取締役CEO
長瀬 嘉秀 | ラブロック株式会社 代表取締役
参加費 ¥3,000(懇談会込み)
申込み https://peatix.com/event/437764/view

【Blockchain EXE Code #7】DEX世界トップ企業のCEOが来日!Kyber NetworkによるP2Pプロトコルとスマートコントラクト実装

Kyber NetworkはEthereumの創業者Vitalik氏がアドバイザーに入る2社の1つでもおり、非常に注目度の高いDEX企業です。ブロックチェーンのハンズオンを通うして、スキルを身につけましょう。

ブロックチェーンの技術理解を深めるハンズオンイベント!

開催日 2018/10/23 (木) 19:00 – 21:30
会場 株式会社LIFULL 8Fセミナールーム
主催 Blockchain EXE
講演者 Loi Luu | Kyber Network CEO & Co-Founder
堀次泰介 | Kyber Network エバンジェリスト
参加費 ¥3,000
申込み https://peatix.com/event/437732/view

変貌と発展の街「香港」からブロックチェーンの未来を考える | Blockchain EXE 香港イベント8.25

経済発展著しい香港で初のBlockchain EXE開催

高層ビルが立ち並び、アジアで存在感を発揮するほど経済発展を遂げている香港。今回のBlockchain EXEは香港だけでなく、グローバルで実績を持つ企業が集結しました。

  • NEM API活用によるコミュニティ拡大 | Ricardo Medrano(Director at NEM Foundation)
  • ブロックチェーンを活用した個人認証のトラストレス社会 | Dr. Lawrence Ma(HKBCS Founder)
  • 安全なセキュリティと複数通貨を管理できるウォレット | Ellena Ki(Marketing leader at Infinito Wallet)
  • “Connectome”が描くオートメーション化の世界 | 石井敦(Couger CEO), 石黒一明(Chief Blockchain Architect)
  • 企業から消費者を繋げるブロックチェーンANX | Billy Chan (Vice President of the Products)

NEM API活用によるコミュニティ拡大 | Ricardo Medrano(Director at NEM Foundation)

仮想通貨業界を牽引するNEMのプレゼンテーションでBlockchain EXEは幕を開けました。

香港とオーストラリアを橋渡しし、NEMの財団理事を務めるMedrano氏はAPIを用いたブロックチェーン利用について解説しました。NEMは多くの開発者に優しい拡張性のあるプラットフォームを目指しています。そのために、「プログラミングや難しい言語を学ぶ必要が全くないAPIやSDK」を公開しています。

NEMがスマートシティで用いられるために進めているプロジェクトには以下の2点です。

  • ”Landstead”:NEMのブロックチェーン技術を用いて土地や不動産の所有権登録の仕組みを政府や市民の間で共同開発を行えるようなオープンなブロックチェーンコミュニティシステムは有志の開発者同士が信頼し、相談し合うことが可能になる。
  • ”ioNEM”:移動可能かつインターネットに繋がれたIoTの所有権をNEMの技術を用いて提供することを主な目的としている。

NEMのコミュニティに多くの開発者が集まることで、自律分散的に様々なブロックチェーンのユースケースが生まれています。

ブロックチェーンを活用した個人認証のトラストレス社会 | Dr. Lawrence Ma(Founder at HKBCS)

HKBCS (The Hong Kong Blockchain Society) の創設者であり、社長も務めるMa氏はスマートシティ構想について説明しました。

HKBCSは、香港における多様なプロジェクトを支援することにより、健全なブロックチェーンエコシステムの形成を積極的に推進しています。また、政府、学界、ブロックチェーン業界と協力して教育訓練や研究開発、アドバイザリー活動などを積極的に実施し、香港および周辺地域のブロックチェーンエコシステムの構築と発展を目指しています。

Ma氏は信頼とデータが必要であるスマートシティをうまく機動すための3要素を紹介しました。

  1. デジタルアイデンティティ
  2. インターネットを信頼する権利
  3. プライバシーの保護

「“BlockchainDLT”は互いに見知らぬ開発者同士の存在状態や共有されたデータに関する同意を作り、維持するためのシステムだ」とMa氏は言います。

このシステムを用いることで、開発者が技術に対して透明性を担保しながら開発することが可能であり、お互いの信頼が生まれると考えられます。

安全なセキュリティと複数通貨を管理できるウォレット | Ellena Ki(Marketing leader at Infinito Wallet)

Infinito Walletのマーケティングリーダーを務めるKi氏は世界初の複数資産の財布として“Infinito Wallet”を提案しました。これはBitcoin, Bitcoin CashそしてERC20といった主な仮想通貨の取引を可能にするサービスで、6ヶ国語に対応しておりGoogleやApple Storeで入手可能となっています。

“Infinito Wallet”の強みはユーザーに優しい機能だけでなく、ユーザーやその個人情報を守る安全性やプライバシー基準を守っているところにあるそうです。これはユーザーの秘密鍵やパスワードを企業が保有しないことに加えて、タッチID機能、定期監査を行なっていることで可能となっています。

現在、Infinito Walletはグローバル展開を行なっており、様々なユーザーが利用しているウォレットとなっています。

“Connectome”が描くオートメーション化の世界 | 石井敦(Couger CEO), 石黒一明(Chief Blockchain Architect)

Connectomeの開発を行なっているクーガーにはゲーム開発者が多いのが特徴です。なぜCougerはゲームの世界からAIやブロックチェーンの世界に来たのでしょうか。

「ゲーム開発は40年以上、AI的な技術を必要とする作業領域であった。そしてAIの意思決定部分に大きな影響を与える」とクーガーCEOの石井氏はおっしゃいました。数々の人気ゲームを開発実績から、大量データを捌くための複雑なリアルタイム処理やモデリング技術を用いて、AIやブロックチェーンの開発を行なっている。

石井氏に続いて、Cougerのリードブロックチェーンエンジニアであり、Enterprise Ethereum Allianceの日本支部代表でもある石黒氏が登壇しました。石黒氏からはIoTなどのデバイスとどのようにブロックチェーンと連携し、それらを通じてどのようなアウトプットを作ることができるのか、技術的な話を中心に行っていただきました。

企業から消費者を繋げるブロックチェーンANX | Billy Chan (Vice President of the Products)

ANX Technology Solutionsで製品部門責任者を務めているChan氏は”White Label Capabilities”と呼ばれるB2B2Cのホワイトラベル製品交渉プラットフォームについての紹介を行いました。ANXは400人を超えるスタッフを抱え、グローバルに成長している企業です。しかし、そこに至るまでには様々な問題があったとChan氏は言います。

  1. 仮想通貨の流動性
  2. 費用と時間
  3. 安全性
  4. 企業コンプライアンス

2014年に“ANEX Pro”と呼ばれる取引プラットフォームを発表し、2015年から2016年にはOTC取引の協賛を得ていました。

企業の圧倒的な成長は、「市場の需要調査、ビジネスチャンス獲得、ワンストップソリューションの提案、新しいエコシステムの導入、強力な協賛企業との綿密な連携」が必要不可欠であるとChan氏は言います。ANXの製品は30日から60日かけてユーザー間でプラットフォームを開発するだけでなく、マーケティングや安全保証といったビジネス費用を抑える面でも効率化を図っています。

参加者の熱量が高かった香港イベント

休日にも関わらず、イベントには多くの参加者が集まりました。イベントのネットワーキングでは登壇者への質問だけでなく、参加者同士の交流も盛んに行われていました。

次回のBlockchain EXEは中国最大手ブロックチェーンメディアである8BTCとの共同で9月16日に開催します。

アフリカの途上国が、ブロックチェーン先進国に!? たった5日でコミュニティが立ち上がった「ルワンダ」で何が行われたのか?(後編)

▶︎前編はコチラ
▶︎中編はコチラ

ルワンダで泣いた

恥を忍んで素直に記すと、5日間に及ぶワークショップの最終日、自然と涙が出て止まらなかった。

地味にバタバタし続けた日々を無事に終えられた安堵ではなく、参加者の顔を見ていたらとても嬉しくて嬉しくて。

目次(後編)

  1. 最終日はアイデアソン
  2. ルワンダ大学の粋な計らい
  3. その後のはなし

最終日はアイデアソン

5日間の最終日は朝からアイデアソン。数名ずつの全7グループに分かれ、これまで学んだことをふまえ「どんな問題を、どのようにブロックチェーンの仕組みを使って解決するのか」を考えて発表してもらった。

話し合いの様子を見ていて面白かったのは、その場で組まれたグループにも関わらず、場を仕切る人、ネットで丹念にリサーチする人、資料を作る人などなど、早い段階で役割が自然とハッキリ分かれていたこと。

我の強い人同士で収拾がつかなくなるような様子も無く、どのグループも限られた時間を有効的に使い、丁寧にアイデアをまとめていた。

概念が掴みにくい先端技術を理解してもらうために重要なこと

およそ2時間半のシンキングタイムを経て、いよいよワークショップ最後のプログラム「アイデア発表会」がスタート。各グループの代表者が順番に前に出て、練りに練ったアイデアをプレゼン。

この発表会にはルワンダ大学の教授も参加し、各プレゼンを興味深そうに見ていた。

印象的だったのは、全7グループ中、5グループが「農業」に関するサプライチェーンやトレーサビリティのアイデアだったこと。

品質に信用性が無い問題を改善する。入札システムを分散化させて入札する側にもデータコントロールできるような仕組みを作る。コーヒー豆の生産者を明確にしたり中間業者を省略させたりすることでブランド価値を上げつつも消費者が手に取りやすい仕組みを作る、などなど。

着眼点は異なれど、ルワンダの主要産業である「農業」にアイデアが集中したのは、とても興味深い結果だ。

ちなみに、残り2グループは「農業に限定しないサプライチェーン」と「ヘルスケアに繋がる個人情報管理」のアイデア。ブロックチェーンの仕組みをしっかり理解してくれていると感じられる素晴らしいプレゼンだった。

質疑応答の時間も設けたのだが、他グループの参加者からはもちろん、来賓や大学教授からも次々と質問が出るほど、どのプレゼンも大いに盛り上がった。

やはり「農業」関連のアイデアには特に多くの質問が寄せられた。この状況を考慮すると、ブロックチェーンという「概念が掴みにくい先端技術」を理解してもらうためには「その国・その土地で最も身近な産業に絡めてイメージしてもらうこと」が重要なんだなと強く感じる。

今回の場合、サンフランシスコから駆けつけてくれたConsenSysのマッドサイエンティスト「Shraddha Chaplot」さんによるAgriculture(農業)をテーマにした講義が、参加者の理解を大きく加速させたのではないだろうか。(もちろん全ての講義が、参加者の理解を深め、発表されたアイデアを考える材料として機能したことは間違いないという前提での話である)

真面目さが伝わるプレゼン資料

アイデア発表会の際に驚いたのは、全チームがスライドを用意してプロジェクターで映しながら説明したこと。

しかも、この短時間で見栄えよく整えた資料を用意したグループが多いという、事前に聞いていた「PC普及率5%」からは予想できなかった状況。


※実際に参加者が発表で使用したスライドの一部。このように図まで入ったスライドが用意されるとは正直思っていなかった。

これらのプレゼン資料から伝わるのは、ブロックチェーンをしっかり理解しようと全員がワークショップに真剣に取り組んでくれていたということ。

最終日はアイデアソンと発表会だけで講義は用意されていないため「もう学ぶことがないなら行かなくてもいいかな」と、出席率が低くなることを心配していたが、完全に取り越し苦労。

的を射たブロックチェーン活用案を考え、相手に伝えようという意識で作った資料を使って発表する。そんな様子を目の当たりにし、本当に「勤勉で真面目な国民性」なんだなとシミジミ感じた。

ルワンダ大学の粋な計らい

発表会を経て、5日間に及ぶワークショップのプログラムは全て終了。

ここで、ルワンダ大学から素敵なプレゼントが!

今回のワークショップに参加し、ブロックチェーンについてアイデアを考えて発表できるレベルの知見を身につけたということで、全員分の「修了証書」が用意されており、突如「修了証書授与式」を開催する流れに。

ルワンダ大学の教授が1人ずつ名前を読み上げ、ルワンダ開発庁(Rwanda Development Board)投資部門のトップで現地の有名人「Steve Mutabazi」氏の手から修了証書が手渡された。

名前を呼ばれた時のリアクションは様々で、照れくさそうにゆっくり席を立つ人もいれば、元気の良い挨拶と共に勢い良く席を立つ人も。

全員に共通していたのは「とても嬉しそう」という点。

どうやらルワンダでは、修了証書など「自分が何かを成し遂げた証」を手にするのは、とても誇らしいことだそう。そんなお国柄なので、むしろ大学としては「用意するのが当たり前」という感覚だった御様子。

1人として例外なく嬉しそうで満足げな表情。その喜びをみんなで分かち合っている教室内の様子は、大袈裟ではなく、まるで映画に出てくる卒業シーンのよう。そんな感動のシーンをたっぷり堪能でき、思わずこちらも同じ涙がキラリ。

最後は、主催であるルワンダ大学とBlockchain EXE、そしてSteve Mutabazi氏から一言ずつ挨拶があり、今度こそ本当に全プログラムが終了。

考えてみると、初めて訪れた国で、現地の人50名近くと5日間も毎日のように朝から夕方までガッツリと顔を合わせる機会ってなかなか無いだろう。

日を追う毎に明らかに打ち解けてきてるなと感じられ、コーヒーブレイクやランチタイムなど、休憩時間の交流も日増しに盛んになり、終了証書授与式後には、次から次へと参加者に囲まれて一緒に記念写真を撮ったり、「絶対また来いよな」と言って当たり前のように連絡先(名刺・SNS)を交換してくれたり。

人柄の良い参加者に恵まれて感謝しかない。

というわけで、いろいろありつつも(本当にいろいろありつつも)無事にワークショップを終えることができた。参加頂いた方々、関係者の方々、本当にありがとうございました。

パッと見の印象ではわからないことだらけ

「アフリカ以外に住んでる人たちは、アフリカ大陸全体を一括りにして、暑い・貧困・危険というイメージを持つ人が多いけど、まぁ情報が少ないから仕方ないよね」

これは、ワークショップ登壇者がしみじみ語った言葉。

事実、今回アフリカのルワンダへ行ってきますと伝えた家族や友人からは「暑いだろうから気をつけてね」「野生動物に襲われないようにね」「ネットとか繋がるの?」「疫病とか恐いから予防接種とか忘れずにね」等々、先に挙げたようなイメージで心配する声をたくさん頂戴した。

たしかに日本で得られる情報は、北米やヨーロッパの先進国や身近なアジアと比較すると、アフリカは少ないので偏った認識に陥りがちだが、ルワンダを訪れると、多くの人が抱いているであろうアフリカのイメージが覆される。

「暑い・貧困・危険」

どころか

「涼しい・近代的・安全」

実際に行ってみて、気づいて知って驚いて。更に現地の人から直接話を聞いたり実際にサービスを利用してみて、気づいて知って驚いて。そんな2段階の発見に溢れるルワンダ滞在だった。

実際に行ってみて驚いた最たるものは、やはりルワンダ、特に首都キガリの近代的発展。

道は整っているし。キレイなビルが立っているし。大型ショッピングモールもあるし。夜歩いていてもトラブルは起こらないし。涼しくて快適だし。レストランやカフェにいると「あれ、今アフリカにいるんだっけ?」と真面目に忘れてしまうレベル。

いかに自分がまだまだ勉強不足でステレオタイプなアフリカイメージを抱いていたかということを痛感。こんなに居心地の良い都市だとは思わなかった。キガリすごいぞ。ルワンダすごいぞ。

キガリにいる限りでは想像していたような不便さは無く、予想を遥かに上回る安全・便利さに感動。

とはいえ「近代化が顕著=自分たちと同じ感覚」という解釈になるのは傲慢だし危険。こちらが当たり前だと思っている感覚が通じないことがむしろ多い。

パッと見た印象と、現地の人の話を聞いての実際が大きく異なることもしばしば。事前にいろいろ調べて理解した上で訪れたつもりでいたが、やはり「つもり」程度な理解度だったんだなと現地で思い知らされた。

例えばテレビ。

空港やショッピングモールや飲食店など、街中のアチコチに大型の液晶テレビが設置されているので「ブラウン管ではなく、大画面の液晶テレビまで普及してるレベルなんだなー」と最初は驚いたが、現地の人の話を聞くと、実はテレビが置いてある家庭は少数派。液晶テレビどころか、テレビの普及自体がまだまだこれから。

そんな状況で、いきなり大画面のテレビが街に現れ始めたので、街中のテレビでサッカー中継が流れてたりすると人だかりができる。テレビの設置が集客に繋がる文化ということ。最初の印象と大きく異なり、驚かされた。

例えばタクシー。

キガリの街には車だけではなくバイクのタクシーも有り余るほど走り回っているので「移動したい時にすぐタクシーがつかまる便利な街」というのがパッと見の印象。

しかし、実際に利用してみると、すぐつかまるけど「すぐに移動」できない。

空港や大学などの目立つ施設なら言えばすぐ解ってくれるが、レストランやショップ、最近できた会社や施設などは「利用するこちらが運転手に理解してもらえるように場所を伝える」必要がある。

スマホで地図を見せれば大丈夫かと思いきや、そもそも地図の見方がわからない運転手が多いという衝撃の事実。

より正しく理解するためには、表向きの情報や印象で決めつけず、やはり現地の人に話を聞いたり、実際にサービスに触れてみることが大事だなと、改めて身に沁みた

今回、ルワンダでブロックチェーンのワークショップを開催したわけだが「新しい知見を共有する際には、現地の人たちの視点に合わせる」のが本当に重要。こちらの常識そのままで知見を共有してはダメ。ゼッタイ。

これは以前読んだ本の受け売りだが「人間は本当に新しいものは欲しがらない。馴染みのあるものをこれまでと違うやり方で提供するほうがいい」という言葉。

まさにこれ!

その後のはなし

実は今回の目的は「ルワンダでワークショップを開催すること」ではなく、ワークショップを開催した上で「今後の発展に繋がるブロックチェーンのコミュニティをルワンダに作ること」が真の目的だった。

ワークショップでブロックチェーンの興味を深めてもらい、フォローしながら今年中には現地にコミュニティができるといいなくらいのペースを想定していた。

ところが、今回参加してくれた現地の40名ちょっとの方々。我々が日本に戻るよりも前に早速WhatsAppのグループを作って意見交換を始める勢いの良さ。

中には「Blockchain EXEの運営メンバーになりたい」と名乗り出てくれた方が数名いて、その現地メンバー主導でルワンダにてBlockchain EXEを定期開催する準備を進めている。

また、ワークショップ期間中の夜、登壇者の方々を中心とした会食の場が設けられたのだが、その際に話した「現地にコミュニティを作りたい」という意見に全員が同意。早速その内の1名が主催となり、ワークショップの翌週である8月23日に現地のコワーキングスペースでブロックチェーンのミートアップが開催された。

真の目的は「想定以上のペースで」無事に果たせたようだ。

現地の政府関係者、大学教授などにも「現地でのフィジカルなコミュニティ作りは重要だ」と、とても前向きに捉えて頂き、こちらも既に次のステップへ向けたやり取りが始まっている。

新しいことをどんどん受け入れる積極性、勤勉な国民性、そしてスピード感にはただただ驚かされる。近代化がめまぐるしいルワンダ。ここからの数年で利便性が更に格段に高まっていくことは間違いないだろう。

手前味噌だが、このタイミングで、ルワンダでブロックチェーンのワークショップを開催した意義はとても大きいと思う。

平手氏の思いつきによって「たった5日間のワークショップで、アフリカのルワンダに、ブロックチェーンコミュニティを作った」という素晴らしい結果を得られた。

先の展開として、コミュニティを通して知見共有→ラボを作って開発力を強化→実際にプロジェクトをルワンダで進めるといった流れを考えている。

それらが実現できるよう、引き続き良い関係性を築き、ルワンダ、延いてはアフリカ発展の一助となれるように動いていければと思う。

写真はルワンダ大学で毎日食べていたランチ。ビュッフェ形式なので、気になるものを次々選ぶとあっという間にてんこ盛り。思い出深い一皿だ。

この記事を書いた人
鈴木祥文 / 株式会社クーガー

アフリカの途上国が、ブロックチェーン先進国に!? たった5日でコミュニティが立ち上がった「ルワンダ」で何が行われたのか?(中編)

▶︎前編はコチラ

正直、不安しかない

初めて訪れる大陸の初めて訪れる国。周囲にも行ったことがあるという人がほとんどいない国。調べて手に入る情報もそれなりに見つかれど、それらを鵜呑みにしていいものなのか。

共同開催するルワンダ大学と事前にやり取りしていたとはいえ、実際のところどんな人が何名ほど参加してくれるのか。どんな熱量で参加してくれるのか。予定しているプログラムの難易度は適切か。途中で来なくなる人がいるんじゃないか。オンライン講義も予定しているけどネット環境は大丈夫なのか。そもそも異国の地で5日間という長丁場のイベントを開催するなんて、、、等々。不確定な要素が多すぎる状況。

考えれば考えるほど不安は募るばかり。

目次(中編)

  1. とても豪華なワークショップ
  2. 日本と異なる「なぜそこにブロックチェーンが必要なの?」
  3. でも、正直ピンと来ないものも

とても豪華なワークショップ

ルワンダで初となる開発者向けブロックチェーンワークショップは、多くの方々のご協力により実現・開催することができた。

Blockchain EXEイベント概要

日程 2018年8月13日(月)から17日(金)※ルワンダ時間
会場 ルワンダ大学

参加ブロックチェーン企業

ConsenSys (アメリカ)イーサリアムブロックチェーン企業最大手
Stellar (アメリカ)個人向け国際送金。2018年8月時点で時価総額6位の仮想通貨
Ocean Protocol (ドイツ)分散型データエクスチェンジ。政府とのプロジェクトも多数
Weeve (ドイツ)分散型IoT基盤
ケンタウロスワークス (日本)ブロックチェーンリーガルテック
クーガー (日本)AI×AR/VR×Blockchain

主催

  1. Blockchain EXE
  2. ルワンダ大学

後援

  1. 世界銀行

そして

朝から夕方までみっちりと組まれたプログラム

これだけの顔ぶれと内容が揃った。

失敗は許されないというプレッシャーが、最初の「正直、不安しかない」に繋がるのだが、結論から言うと、それらの不安要素は良い感じで取り越し苦労に終わった。

その代わり、事前に予想できなかった「ある問題」に我々は翻弄されることになる。

真面目で熱心、だけど・・・

これは初日に撮影した記念写真。

数えてみると写っているのは42名。このうち主催や登壇者が10名ほど。今回のワークショップは40名を超える参加者が集った。

・・・おや、数が合わない。

事前に予想できなかった我々を翻弄した問題。それは「時間にとてもルーズ」ということ。

前日の終了時に「明日は朝8時に必ず来てね」と言っても、翌朝8時に教室にいるのはほんの数名。8時半の時点でようやく7〜8割。全員揃うのは9時。

ランチタイムに「13時から午後のプログラムが始まるから早めに食堂から戻ってきてね」と伝えても、13時に教室へ戻ってきている人はほんの数名。むしろ13時を過ぎたことを確認してから更に「食後の休憩」を経てようやく戻ってくるような感覚。全員揃うのは14時。

このルーズさが「記念撮影するよと言ったのに人数が足りてない」という、もどかしい状況を招いた原因であることは間違いないだろう。

参加者は、PC操作ができてスマホを所持する、いわゆる現地でのアーリーアダプターなエンジニア達。ブロックチェーンについて独学で得た知見を持っている人もチラホラ。とても真面目に講義を聞き、わからない事は徹底的に質問してくる熱心さ。

ひとたび講義に臨めば真面目で熱心だが、そこに至るまでの時間のルーズさは、あの手この手でどれだけお願いしても最後まで整えることができず。

常に逆算して段取りする力が試され、ワークショップ期間中、幾度となくタイムテーブルの調整、場合によってはプログラムの変更が必要に。

書くと簡単に思えるかもしれないが、オンラインも含めて各登壇者の予定を確認しつつ状況を判断して臨機応変に調整。更に、突発的に起こる機材トラブルや不安定なネット環境の対応も加わるので、毎日もれなく、地味に(←ここポイント)バタバタし続けていた。

日本と異なる「なぜそこにブロックチェーンが必要なの?」

慌ただしかった裏事情はさておき。今回のワークショップの内容は、手前味噌だが、とても素晴らしく充実したものだった。

例えば、初日の午前中の流れをざっと書き連ねただけでも、こんな感じ。

  1. Blockchain EXEの活動紹介
  2. ルワンダ大学の教授による挨拶
  3. ConsenSysのサービスや仕組みの紹介
  4. アフリカで初めてブロックチェーンの講義を行ったカーネギーメロン大学ルワンダ校の教授登壇
  5. ACEIoTというアフリカのIoTプロジェクトを推進するルワンダ大学教授の登壇
  6. アフリカの抱える問題をブロックチェーンで解決するプロジェクトのTOPによる「アフリカと先端技術の相性」についての話


※今回の発案者である平手氏は、ワークショップでもブロックチェーンの持つポテンシャル・可能性について熱弁

驚くべきは参加者の熱量。講義がひとつ終わる度に、文字通り「止まらない勢いで」次から次へと質問が飛び出した。

ルワンダには勤勉な人が多いという噂通り、理解・納得できるまでとことん学ぼうとする様子で、ただでさえ時間にルーズなのに、質問攻めによる時間調整も必要になる嬉しい誤算。

ちなみに、質問の多くは

「なぜそこにブロックチェーンが必要なの?」

ブロックチェーンに関わっていると、日本でも同様の質問を受ける機会が多々あるが、その意図は大きく異なる。

日本は良くも悪くも「既に仕組みが出来上がっている国」なので、ブロックチェーンをわざわざ使う必要ってあるの?という「使わなくていい理由を探すため」の保守的な意味で質問している場合が多い。(経験則)

ルワンダの方々は「使う」が前提にある上で、ブロックチェーンによって何がどうなるのか「必要性を理解するため」の質問。この辺りは、先進国と途上国の大きな違いなんだろうなと感じる。

よく分からないからこそ理解したい

ルワンダは農産業がメインの国。国民の8〜9割は農業に従事している。第一次産業から順当にアップデートされて新しいものに触れてきた先進国と大きく異なり、第二次産業を飛び越えて、非物質的な第三次産業が他の国から持ち込まれている状況。

既存の仕組みに当てはめて考える(イメージする)ことができる日本と異なり、ルワンダではブロックチェーンは完全に得体の知れない仕組み。でも講義を聞いている限り、身近にある(仕事や暮らしに関わる)問題を解決することができるらしい。何がどうなってそうなるの?という感じで熱心に質問している印象。

ちなみに、現場で講義してくれた方とオンラインで講義してくれた方の区別無く、同じ熱量で質問する。更に、質問に対する登壇者の返答について、他の参加者が割り込んで質問するといった状況も多々発生。理解できるまで遠慮しない。

さすが、新しいことは積極的に理解して受け入れようとするお国柄。成長率の高さも納得。

でも、正直ピンと来ないものも

今回のワークショップでは、実際に動いているプロジェクトを中心に様々な活用事例が紹介された。

ブロックチェーンはどのように社会実装できる仕組みなのかを理解してもらうために、できるだけバリエーション豊富なプログラムを組んだのだが、正直なところ、参加者の方々にはピンと来ないものもあった。

例えば「AI」が絡んだものは「そもそも何なのか」の理解ができない様子で、他の講義に比べて質問が少ない状況だった。

ルワンダには娯楽が少なく、家庭のテレビ普及率も半分以下。首都キガリに映画館が1つあるが、所得が少ないため娯楽にお金を使う余裕もまだまだ無いとのこと。本を読む文化も根付いていない。ネットで情報を得る人も極々限られた一部の人のみ。

SF関連のコンテンツに触れる機会が無いからか、仕組み云々以前に「人間の手を離れている存在」というものが身近な何にも当てはめることができずにイメージが掴めていない模様。現時点では、ルワンダの人たちにとってAIはちょっと未来すぎる話だったのかもしれない。

とはいえ、さすが勤勉な国民性。理解はできなくとも興味は持ったようで、「お前たちの国(日本)では、いったい何が起こっているんだ?人間は大丈夫なのか?」と、複数名の参加者が真顔で熱心に質問したりで、その日のランチタイムは普段とは異なる角度でとても盛り上がった。

後編につづく

この記事を書いた人
鈴木祥文 / 株式会社クーガー

アフリカの途上国が、ブロックチェーン先進国に!? たった5日でコミュニティが立ち上がった「ルワンダ」で何が行われたのか?(前編)

「ね、ルワンダ行きましょうよ!ルワンダ!」

テックコミュニティ「Blockchain EXE」スタッフである平手氏が笑顔で言い放ったのは2018年5月のアタマのこと。それまでルワンダのルの字も会話に出たことが無いのに、突然どうした?

どうやらアフリカにあるルワンダという国が今ものすごく面白いことになっているらしい。

「ルワンダで、ブロックチェーンのイベントやってコミュニティ作ったり、事業連携して実証実験とかしたら絶対面白いと思うんですよねー」と熱く語る平手氏。突然の発言すぎて周りにいた誰もがキョトンとしていたが、知れば知るほど可能性しか感じられない魅力的な国だということは、だんだんと理解できてきた。

ちなみに、文字通りの「思いつき」であり、全くツテは無い状況。縁もゆかりも無い遠い異国に興味を持ち、平手氏は一人で本業の合間に着々と準備を進め、たった3ヶ月で

  1. ルワンダ初の開発者向けブロックチェーンイベント
  2. ルワンダ大学と共同開催
  3. 5日間に及ぶ集中ワークショップ
  4. アメリカ、ドイツ、日本の著名ブロックチェーン企業6社が講義で参加
  5. 世界銀行がバックアップ
  6. ルワンダ政府関係者も登壇

などなど、世界でも類を見ない豪華なブロックチェーンイベントを実現させた。

目次(前編)

  1. ルワンダ初の開発者向けブロックチェーンワークショップ
  2. そもそもルワンダってどんな国?
  3. なぜルワンダでブロックチェーンなのか

ルワンダ初の開発者向けブロックチェーンワークショップ

2018年8月13日(月)から17日(金)まで、「Blockchain EXE x ルワンダ大学」と題して、5日間に及ぶ集中ワークショップを開催した。

「ConsenSys」や「Ocean Protocol」など世界各地の著名なブロックチェーン企業6社の講義、世界銀行のバックアップ、ルワンダ政府関係者も登壇などなど、多方面にご協力頂いての豪華なプログラム。

40名を超える参加者が集い、5日間かけてブロックチェーンの仕組みや応用例をみっちりと学び、最終日には「ブロックチェーンを活用し、どんな問題をどのように解決できるのか」を考えて発表するアイデアソンも行った。

この初めてづくしなワークショップをなぜルワンダで開催したのか。参加者は先端技術であるブロックチェーンを理解してくれたのか。開催したことで何がどうなったのか。

順当にアップデートするカタチで新しいものに触れてきた先進国と、他の国から突然最新の技術や仕組みが持ち込まれる途上国の、根本的な感覚の違いも多く感じることができ、今後に繋がる実りの多いワークショップとなった。

訪れて分かったこと、ワークショップを開催することで知ることができたことなど、「なぜルワンダに注目したのか」「そのルワンダで何が行われたのか」について紹介しよう。

そもそもルワンダってどんな国?

ルワンダ(ルワンダ共和国)はアフリカ大陸の中央、赤道に近い場所にあり、面積は岩手県と秋田県を足したくらい。よく例えられるのが四国の1.5倍。アフリカで最も人口密度の高い国。

首都キガリは標高1500m前後の高地なので涼しく、滞在中は、結果的に日本の酷暑を避けるカタチで快適に過ごせた。

1994年に起こった悲劇的なジェノサイド(詳細は割愛)を乗り越え、現在はポール・カガメ大統領が強いリーダーシップを発揮し、人材育成やインフラ開発などを掲げる「VISION 2020 in Rwanda」を推進。

人口のほとんどは農産業に従事しているが、ICT分野へ積極的に投資し、先端技術を活用・応用する土壌が整っており、ここ10年間は毎年7〜8%近い成長率を誇るなど、目まぐるしい発展を遂げている。

規制が少ないので他国の企業が参入しやすい。グローバルスタンダードな法律・規制の整備。安定かつオープンな経済情勢。勤勉で粘り強く、モノづくりに向いている国民性。これらがルワンダの大きな特徴。

近代化が顕著

首都キガリの中心部は、道路が整い、高いビルが建ち、大型ショッピングモールもあり、キレイなカフェもある。先進国と遜色ない街並み。

ショップではGalaxy S9端末やhpのプリンターなどが普通に売られており、無料でWi-Fi利用できる飲食店も多数。LTE通信のSIMも現地調達可能だったりと、想像以上に整っている。


※ショッピングモールでは音楽イベントが開催されており、大勢の人々で賑わっていた

ただ、それらは主に他の国から訪れた観光客や事業を行っている人向け。現地の状況を訊いてみたところ、携帯電話の普及率は90%以上だが、その内スマホ率は20%未満。PCの普及率も5%程度とのこと。

まだまだ携帯は3G回線での通信がメインで、Wi-Fiも一昔前のADSLのような使用感。Webページの閲覧は気にならないが、画像や動画ファイルの読み込みやアップロードを行うと重く感じる。

また、通信が不安定になりやすいのもネック。カフェや宿泊先でWi-Fiが突然切れる、繋がらなくなるという状況が多々発生した。

とはいえ、現地にいながら日本ともやり取りしつつ仕事が進められる環境であることは間違いなく、レストランやカフェで作業をしているとルワンダ(アフリカ)に今いるということを忘れるほど。

治安が良い

ルワンダの首都キガリは「アフリカで最も治安の良い都市」と言われており、日中はもちろん、夜に街中を歩いていても(少なくとも我々が滞在していた間は)特に危険な場面に遭遇することはなかった。

ショッピングモールやホテル、オフィスビルなどの入り口ではセキュリティチェックがあり、ゲート型の金属探知機をくぐらされたりバッグを開けての荷物検査などを行うが、裏を返せば「それだけ徹底して安全保持に努めている」ということ。

お店やレストラン、宿泊先などの接客応対も良く、相場以上の金額を吹っ掛けられる、いわゆる「ぼったくり」のようなこともない。

歩いているとタクシーに頻繁に声をかけられるが、一言「No」と返せば去っていき、しつこく強引に付きまとわれるといった状況も起こらない。

その反面、課題も多い

近代化が目まぐるしい反面、それによって多くの課題が露わになっている。

例えば、急激な都市化による交通問題・公害。

道路が整備されたことにより、街には多くの自動車やバイクが走っているが、日本で20〜30年前に見たような古い車種が多く、排気ガスが顕著。街を歩いていると、ニオイはもちろん、見た目も黒いケムリを吐き出しながら走る車の多さに驚く。

また、道路や建物は整いつつも、生活に関わる重要なインフラ整備が追いついておらず、場所によっては頻繁に水や電気が止まる。

車道はできてるけど歩道はこれからといった箇所も多く、街の至る所で現在進行形で工事が行われており、その影響で長期間に及び水道の流れが不安定になっている地域もあるとのこと。

宿泊していたホテルの目の前も工事中で、滞在していた一週間だけでも、洗面所をはじめ、シャワーも出ない、トイレの水も流せないといった状況が何度か発生した。

そして、物流もまだまだ非効率で不透明。約束の日に届かない、そもそも届かないといった問題が多々起こる。

このように課題の残るルワンダ。更に、アフリカ全体に視野を広げると、一部の国では以下のように、より深刻な問題が根強く残っている。

  1. 政治が正しく機能していない
  2. 先進国からの援助が国民の元に届かないことがある
  3. 疾病、貧困、そして援助依存という負の連鎖が続いている
  4. 自分の土地や商売、車などの資産を自分のものと証明することができない

なぜルワンダでブロックチェーンなのか

ブロックチェーンを活用することで、例えばこのような問題解決ができると考えられる。

  1. 銀行口座を持たない農業従事者へのP2P支払い
  2. 難民・貧困層への直接的な寄付(国際支援)
  3. 土地や家の所有権の権利証明・保護
  4. 農業・物流などのトレーサビリティの向上

新しい技術をスムーズに「仕組み」としてインストールするためには「規制が少ない」「既存のインフラからのスイッチングコストがかからない」という点がとても重要だが、まさにルワンダには、この2点をクリアする土壌が整っている。

先に述べたように「VISION 2020 in Rwanda」を掲げ、ITの普及・インフラ整備に積極的。また、ルワンダ政府が中心となりアフリカのIT化を推進する「Smart Africa」を開催し、アフリカの発展を牽引するキーパーソン的な国。

そんなルワンダでブロックチェーンのコミュニティを形成したり、ブロックチェーン事業を推進することが、アフリカ全体の抱える問題解決に繋がるはずだと感じ、まずはの第一歩として、今回ルワンダ大学と共同でブロックチェーンの集中ワークショップを開催する流れを作った。

≫中編につづく

この記事を書いた人
鈴木祥文 / 株式会社クーガー