ディスカッション;ブロックチェーン x IoT によるエネルギー共有・供給の進化について

石井:ここから、「エネルギーとブロックチェーン」というテーマで、ディスカッションを始めます。始めに、登壇セッションがなかった宮口さんの方から、自己紹介をお願いします。

宮口:皆さんこんばんは。EthereumFoundationのエグゼクティブディレクターを務めています、宮口礼子と申します。今日はたまたま日本にいて呼んでいただきましたが、私はエネルギーのエキスパートでも何でもないので、むしろ皆さんのお話を今すごく楽しんで聞かせていただいて、後で質問したいなと思っていた事も色々あります。

今Ethereumを使っていただいている方と、Hyperledgerを使っている方がいますが、もともとVitalikがEthereumを作っていて、私が彼に出会ったのはそれを作っている2013年ごろのことです。いわゆるブロックチェーンっていうのはクリプト(仮想通貨)というか、P2Pのデジタルカレンシー以外のもっと他のことにも使えるはずだろうっていうのが注目され始めたのが2013年で、他にもブロックチェーンがいろいろあったんですけども、何かいろんな目的に使うのに、いちいちブロックチェーンを作ってると大変なので、オープンソース型のブロックチェーンを作ろうっていうのがEthereumです。そのためにEthereumバーチャルマシンというのを搭載した、スマートコントラクトが使えるものを作ったのがEthereumということです。

こういう上のレイヤーのアプリケーション側の話を聞くのは、実はとても役に立つんですけど、2ヶ月前にこのFoundationに就任して、それまでは業界で他の事をやっていたものですから、Foundationが何をしてるか私も入るまでよくわからなかったです。Foundation、財団なんで、ノンプロフィットで、最初から技術もオープンソースです。いわゆるコアのベースの技術を、メインテインどころか、今まだ全然やらなきゃいけないことがたくさんあってですね。今日登壇されていた方々も事情に合わせてプルーフオブオーソリティなどを使ったりしていると思います。

このようにコミュニティ全体でブロックチェーンを改良していく、そのコーディネートをするのがEthereumFoundationの役割です。また今のようなスケーラビリティの問題とか、それから他のセキュリティの問題に貢献してもらう人が、もっと日本から出てほしい。たまたま私は日本人でこの職についたんですけども、もっと日本からも出て欲しいっていうことで、今いろいろ巡業みたいに活動しています。

さらにプロダクト側も、たまたま2週間前にEthereumコミュニティファンドっていうのが作られて、これはFoundationが作ったんじゃなくて、コミュニティのメンバーがいろいろ一緒になって作っていますが、プロダクトにも助成金が出ますので、どんどん挑戦してください。長くなりましたが、自己紹介といたします。

電気とハードウェアにおけるブロックチェーンのデータ管理

石井:ありがとうございます。今回のセッションでの共通の話としては、電力を非中央集権型・分散型にして送る仕組み、その需要と供給のバランスをとったりとか、融通をするような仕組みを作るということです。

その中で一番大きい課題としては、ブロックチェーンのデータの流れと、電力の流れが、実際別であるということです。データの問題と、実際の電力を流すハードウェアの問題の部分は今後どうなっていくと皆さん思われてますでしょうか。

柴田:僕は京都大学にいた頃は電力のルーターというのを研究してまして、その頃は、いくつかのチームがあったんですけれど、今インターネットの情報が流れているように、電力をパケット化して流すっていう考えがありました。僕がやっていたのはもう少し、電話のように回線交換して流すっていうようなやり方ですが、それだとあみだくじのようにものすごいたくさんの回線が必要なので、実用的ではないんですけれど、確実にその線を通って流れます。

一方で、電力バケット化するっていっても結局は自分たちで細く流していて、電気の質としては、割とノイジーになってしまう。ですから、実世界で使うのであれば、今やってるような入口と出口で帳尻合わせというところが妥協点なのかなと思います。

石井:意外とそれが効率がいいということですね。久田さんはどのように感じますか?

久田:今、ビジネスを前提にこういった仕組みづくりをしている中で、現実的に今できるとこどこですかって言った時に、やっぱり物理的な電気の流し方っていうのは極めて厳しい状況ですね。

そんな中で、じゃあできないのでやらないかとなると、こういった技術は使えないっていう話になってしまいます。やっぱりそこは単に割り切って、例えば今一緒にやっているエナリスは、後ろ側ではauでんきさん抱えて、auでんきに30万40万いますよと。40万世帯の中での電力の融通を、いわゆるデジタル的に数字的にやり取りする話と、後ろ側の系統側の話っていうのは完全に切り離してできる。その間に新電力さんが入ってきたりとか、そのストラクチャーができたところで、やっぱその数字の計算の部分と物理的な部分というのは、切り分けしてビジネス化ができるという考えなんですね。その中で、将来的に電気まで流せるようになってくれば、そこは今度リアルに1対1でひも付いてきますから、そのツーステップを踏んでいくんでしょうね。これが今やれることであると考えています。

石井:田中先生はいかがでしょうか?

田中:まさにご指摘の通りです。基本的には電源は貴重で、それをどう効率良く末端まで届けるかという設計思想で作られています。

しかし今世紀に入って、電気は時と場合によっては余っているし、時と場合によっては足りないというので、そこを融通していくような基本思想で、系統はできていません。なので別々に配るって今おっしゃってましたが、そういったやり方が当面続くのかなと思います。

一方で、デジタルグリッドルーターの説明になってしまいますが、通信もルーターがデジタル化されたソフトウェア定義になった瞬間に、だいぶ変わったと思うんですが、少し効率が下がるとしても、電気が柔軟に自由に制御できるような、そんなネットワークが近い将来できるかなというふうに思っています。

久田:今おっしゃっていたような、ハードウェアができた時に、例えば法的な話とか、実際どういう仕組みの変化で環境の変化があれば、これが実際どのようになれば、リアルに使えるようになるか教えて欲しいです。

田中:法的といっても、いろんな法律が絡んできます。頭の中に今5個か6個ぐらい浮かんでますが、託送という知見を使えば、合法的にポイントtoポイントで送ることができます。ただ、託送主は電力小売事業者である必要があるので、個人が電力事業者になるのは難しいので、託送代行という形で小売事業者が送るということがあります。そういった意味で、法律では制限されています。

ただ問題なのは、自営線的なものを使って送るときは、いろんな法律か、もしくは約款にかかってくるのがあるので、そこはなかなか日本では少し情勢にかかわるかなとは思ってますが、もしかしたら一気に進むかもしれないなと、雰囲気としては思っています。

途上国でのブロックチェーンとエネルギーの活用

石井:今回お話しされた内容は、主に先進国だと思うんですけど、これが発展途上国だとずいぶん話が違うと思います。日本みたいな先進国では、ある意味贅沢に電気が行き届いているからこそ、そこから融通が、みたいな話ですよね。そもそも電気が届いていなかったりするところとか、そういうところでどういう可能性があるのか。いろんな可能性があるような気がするんですけど、宮口さんその辺りというのはどうでしょうか?

宮口:一つアドバイスしてくれないかって言われていることに、東ヨーロッパのルーマニアのことがあるのですが、そこで頑張っているクリーンエナジーのスタートアップがいます。彼らは国があんまり信用できなく、自分の電力を確保することが日本と違って難しいです。

日本だと国がコントロールして電気をくれないという事はないので、「ブロックチェーンを使って電気でこういうことができます」と言っても、関心が薄いかもしれません。

ルーマニアのような国で、いわゆる自分の権利として、自分が電気を買えて利用できるみたいなものを勧めるためにブロックチェーンというのは役立つので、途上国でやりたいっていう、そういう案はいっぱいあります。でもお金があまり入ってこないので、そういう時のために本当はICOができたらいいなという思いがあります。

石井:そのお三方(柴田・久田・田中)が途上国でどのようにエネルギーとブロックチェーンを活用していきますか?

宮口:そう。さっきの久田さんのお話にあった、いわゆるクリーンエネルギーがトレーサビリティーでより良いという以外にも、途上国の発展はそうなんですけど、基本、社会が良くなるためにクリーンエネルギーをもっと使ってもいいのではと思います。そのクリーンエナジーを使うという流れに持っていく中で、ブロックチェーンを使うメリットはどんなことがあると思いますか。

久田:先ほど私の話の中でもあったんですけれども、やっぱり小さな電源ほど、小さなお金しか動かないことになるんですね。その時に誰かがエクセル弾いて集計して請求をかけてということをやりだすと、やっぱり採算が合わなくなってくるから、より小さな電源をたくさん設置して、それが自動的に動いていく。その中で、自動化のしくみのひとつにブロックチェーンがあると思っています。

だから途上国ほど、電源のあり方を新たに考え直せるし、急に大規模な電気が必要だということもなかなかないだろうから、取り組みやすいんじゃないかなと思います。

石井:まだインフラが未整備な部分の多い途上国だと大胆にソーラパネルにした方が良いかとか、そういう可能性はありますか?

久田:例えばなんですけど、今会津のプロジェクトの中では、ソラミツさんがイロハを活用してカンボジア銀行がまるごとブロックチェーン基盤で試験をするとかやってるんですけど、あれは多分カンボジアだからできるのかもしれません。いきなり日本でやろうとすると、大変なことになる。

石井:そうですね。日本の場合、既にいろんなシステムがあるので。

久田:先ほど電力の縛りっていうものは、僕らにとってすごくやり辛いところがあって、IT屋さんの発想でいったら、何が問題なのって思いながらも、やっぱりそれは規制があって法律があって縛られる。そうすると、それがないところであれば、自由な発想で最適な状態が作れるということなんですね。

宮口:まさに、今おっしゃったように、なんで途上国でという理由がそれです。2年前ぐらいから出てるプロダクトは、アメリカとかでやっても全然意味がないし、使うところがない。こっちが助けてあげるとかじゃなくて、あっちがプロダクトテストする場所を提供してくれるんだから、そこに行けばいいって言ってるんですけど、やっぱり出資とかがついていかないみたいなことがありますね。でも会津でやってらっしゃるんで、素晴らしいと思います。

久田:我々も、小さなものが積み上がっていくと、そのプラットホームが稼ぐお金は大きくなると思うから、だからやっぱり一つ一つを見ちゃダメなんですね。それが集まることによってビジネス化ができますよっていうマインドが必要だと思います。

石井:柴田さんは途上国での適用についてどうお考えですか。

柴田:途上国であるとEVがなかなか、電力が不安定なところはすごく走りにくくてですね。例えばインドがこの間何年までにEV自動車だけにしますと言ってたんだけど、やっぱ無理だってやめたんですよ。

EV充電も標準化された規格があるんですけれど、去年発表されたインドの充電器の企画というのは、ある意味遅れていて、車と通信してどうこうしましょうの前に、そもそも「系統が停電してる時は”バッテリーしばらく停電中”って表示をしましょう」ぐらいしか書いてないようなのがナショナル規格になっていて、そういう意味ではかなり遅れています。

さらに電気が不安定な地域だと、バッテリー持ってる人が一番偉いみたいなところもありますし、そもそもブロックチェーンにのったらそれは改ざんできないんですけど、のせる前に改ざんしてしまう可能性があって、そこで使ってる電力系は誰がつくって誰が信じるかっていうところが難しいポイントです。

石井:田中先生はいかがですか。

田中:少しでも電気が消えたら駄目っていうふうにやろうとすると、すごい投資が必要なんですけれども、1日のうち2時間でも使えればいいよねというようなライトな使い方であれば、非常に安いレベルでできます。

デジタルグリッドという会社があって、今タンザニアで無電化地域の電化事業をやってますけども、そこは最初は私やアベ先生が行って色んなテクノロジーてんこ盛りの提案をしたんですが、結果的に受け入れられたのは、町の雑貨屋さんの上に太陽光パネルを置いて、20個ぐらいの電池に充電をして、1日30円でDVDレンタル。そんな仕組みにしてるんですね。

そこで一番重要で、ブロックチェーン使うと面白いかなと思うのは、そこのどれだけの再生可能エネルギーがあったかってトレーサビリティでちゃんとブロックチェーンにのせられますし、そこに価値を感じてくれる方が一人でもいれば、少し高めに買ってくれるかもしれないということです。

さらに、タンザニアに送金をしようとすると、すごい面倒くさくてですね、たどり着くまでお金が減ってしまう場合が多いんですが、ブロックチェーン的なもので直接送って、この村は誰々さんのおかげで電化しましたと、10万円から20万円ぐらいですけど、投資している方を世界中から集められるかも知れない。そんな形でうまくお金が回り始めると、一番ライトな電気というのもどんどん供給できるかなと思います。

石井:なるほど。今の話に関して、インセンティブコントロールというか、そういう要素も入ってるわけですよね。それによって回っていくという事ですね。

田中:そうですね。個人がそこに価値を感じれば、回り続けていくと思います。

会場からの質問

石井:ここからは会場から質問をいただければと思います。

質問者:お話ありがとうございました。今日はエネルギーというテーマでお三方に、電力に関わるお話をしていただきました。電力というのは、非中央集権型、レボリューショナルとか、今ブロックチェーンとの相性が良いということで取り組んでいらっしゃると思うんですけど、電力以外もこういうことに使ったらいいんじゃないかっていう、皆様の視点から考えてることとか、思いついてることとか、あったらいいなみたいなことがあれば、お聞きしたいなと思うんですけども。

宮口:電気以外のエネルギーですか?

質問者:エネルギーに限らずとも良いと思うんですけども、電気という具体的なテーマでブロックチェーン活用されている皆さんからした時に、ブロックチェーンの可能性というのは、他にどんなところに感じますかというところです。

宮口:そうするともう、すごく広いですね。Ethereumの視点でいくと、紙でできる契約は全てEthereum上でできます。契約というのはいろんなことがあると思うんです。保険だったり保障だったり、人間同士の「私がいくら払ったら何々下さいね」っていうのも契約だし、物を分解すればそれを全てブロックチェーンにのせて、全てみんなで検証できる。

ということは、私が私の個人のIDも免許証とか持って歩いているし、その日本が認めてるからIDが存在しない国とかでもソーシャルに、例えば自分の指紋とかを使ってIDを照合できるとかいうのもそうですね。

質問者:お話ありがとうございます。すごく電力のやり取りと、仮想通貨のやり取りって似てるなぁと思って聞いていて、自営線引いて隣の家同士で取引するとか、ブロックチェーンでいうライトニングネットワークみたいなのに近いと思うんですけど、唯一違うなと思ったのが、さっきおっしゃっていた、電力って作りすぎちゃったらどうしようもないっていう話です。あれって本当に、作りすぎちゃったら捨てちゃうんですかっていうのを聞きたくて。捨てちゃうんですか。

田中:蓄エネルギーが、蓄電できるものっていっぱいあって、古くでいうと、水力発電所のダムを逆回転させて位置エネルギーに変える。最近で言うと、電池ですね。電池もテクノロジーが進化しています。後は化学的な水素とか、色々あるので、捨てるかというと捨てはしないんですけども、太陽光とかの場合は、スイッチをオフにあけておけば発電は、電圧差はできるんですけども電流は流れないので、貯めなくても事故は起きない。

質問者:電力貯めてるんだったらいいなと思ったんですけど、もし捨てちゃう分があるんだったらその電力でマイニングをして、マイニング的なものを売って、電力安くするとか、さっきの途上国の電化に寄付するとかできるんじゃないかと思うんですが。

久田:福島県内のある市町村に、自営線引いてすごい再エネ作って電力の事業やるっていう話を聞いて、当然ながら電気って余るタイミングが出てくるので、結局蓄電でバッファーでやるのはいいんですけど、入れるのはいいんですけどそれこそおっしゃった通りのマイニングでバンバン使えばいいじゃんと。ただの電気なんだから。もっと言ったんですけどそもそも自治会の人が理解してくれなくて。結構だからPLはじいて損益出すと、再エネの余剰電力をマイニングするっていうのはマイタイズの仕組みとしてはすごく綺麗だと思うんですね。その電気が余ってるタイミングだけ稼働するようなマイニング設備作ればいいもんですから計算上は損益でいうと、ちゃんと益出るんですよ。でも自治体の方のマインドがなかなかそっち向きにいかないというところがありますね。

まとめ

原発問題や地球温暖化問題などエネルギーは我々の生活のインフラであり、生活に与える影響力も非常に大きいものです。今回は電気というエネルギーに焦点を当てて、実際にブロックチェーンを活用されている方々の生の声を聞くことができました。

ブロックチェーンを使う中で直面したコストの問題や運用面での課題、またその課題に対する解決方法など、様々な視点を持つことができました。イベント後の懇談会では登壇者に直接お話を聞こうとする方が多くいて、長蛇の列ができていました。非常に今回のBlockchain EXEも盛り上がってよかったです。

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