「ね、ルワンダ行きましょうよ!ルワンダ!」
テックコミュニティ「Blockchain EXE」スタッフである平手氏が笑顔で言い放ったのは2018年5月のアタマのこと。それまでルワンダのルの字も会話に出たことが無いのに、突然どうした?
どうやらアフリカにあるルワンダという国が今ものすごく面白いことになっているらしい。
「ルワンダで、ブロックチェーンのイベントやってコミュニティ作ったり、事業連携して実証実験とかしたら絶対面白いと思うんですよねー」と熱く語る平手氏。突然の発言すぎて周りにいた誰もがキョトンとしていたが、知れば知るほど可能性しか感じられない魅力的な国だということは、だんだんと理解できてきた。
ちなみに、文字通りの「思いつき」であり、全くツテは無い状況。縁もゆかりも無い遠い異国に興味を持ち、平手氏は一人で本業の合間に着々と準備を進め、たった3ヶ月で
- ルワンダ初の開発者向けブロックチェーンイベント
- ルワンダ大学と共同開催
- 5日間に及ぶ集中ワークショップ
- アメリカ、ドイツ、日本の著名ブロックチェーン企業6社が講義で参加
- 世界銀行がバックアップ
- ルワンダ政府関係者も登壇
などなど、世界でも類を見ない豪華なブロックチェーンイベントを実現させた。
目次(前編)
- ルワンダ初の開発者向けブロックチェーンワークショップ
- そもそもルワンダってどんな国?
- なぜルワンダでブロックチェーンなのか
ルワンダ初の開発者向けブロックチェーンワークショップ
2018年8月13日(月)から17日(金)まで、「Blockchain EXE x ルワンダ大学」と題して、5日間に及ぶ集中ワークショップを開催した。
「ConsenSys」や「Ocean Protocol」など世界各地の著名なブロックチェーン企業6社の講義、世界銀行のバックアップ、ルワンダ政府関係者も登壇などなど、多方面にご協力頂いての豪華なプログラム。
40名を超える参加者が集い、5日間かけてブロックチェーンの仕組みや応用例をみっちりと学び、最終日には「ブロックチェーンを活用し、どんな問題をどのように解決できるのか」を考えて発表するアイデアソンも行った。
この初めてづくしなワークショップをなぜルワンダで開催したのか。参加者は先端技術であるブロックチェーンを理解してくれたのか。開催したことで何がどうなったのか。
順当にアップデートするカタチで新しいものに触れてきた先進国と、他の国から突然最新の技術や仕組みが持ち込まれる途上国の、根本的な感覚の違いも多く感じることができ、今後に繋がる実りの多いワークショップとなった。
訪れて分かったこと、ワークショップを開催することで知ることができたことなど、「なぜルワンダに注目したのか」「そのルワンダで何が行われたのか」について紹介しよう。
そもそもルワンダってどんな国?
ルワンダ(ルワンダ共和国)はアフリカ大陸の中央、赤道に近い場所にあり、面積は岩手県と秋田県を足したくらい。よく例えられるのが四国の1.5倍。アフリカで最も人口密度の高い国。
首都キガリは標高1500m前後の高地なので涼しく、滞在中は、結果的に日本の酷暑を避けるカタチで快適に過ごせた。
1994年に起こった悲劇的なジェノサイド(詳細は割愛)を乗り越え、現在はポール・カガメ大統領が強いリーダーシップを発揮し、人材育成やインフラ開発などを掲げる「VISION 2020 in Rwanda」を推進。
人口のほとんどは農産業に従事しているが、ICT分野へ積極的に投資し、先端技術を活用・応用する土壌が整っており、ここ10年間は毎年7〜8%近い成長率を誇るなど、目まぐるしい発展を遂げている。
規制が少ないので他国の企業が参入しやすい。グローバルスタンダードな法律・規制の整備。安定かつオープンな経済情勢。勤勉で粘り強く、モノづくりに向いている国民性。これらがルワンダの大きな特徴。
近代化が顕著
首都キガリの中心部は、道路が整い、高いビルが建ち、大型ショッピングモールもあり、キレイなカフェもある。先進国と遜色ない街並み。
ショップではGalaxy S9端末やhpのプリンターなどが普通に売られており、無料でWi-Fi利用できる飲食店も多数。LTE通信のSIMも現地調達可能だったりと、想像以上に整っている。
※ショッピングモールでは音楽イベントが開催されており、大勢の人々で賑わっていた
ただ、それらは主に他の国から訪れた観光客や事業を行っている人向け。現地の状況を訊いてみたところ、携帯電話の普及率は90%以上だが、その内スマホ率は20%未満。PCの普及率も5%程度とのこと。
まだまだ携帯は3G回線での通信がメインで、Wi-Fiも一昔前のADSLのような使用感。Webページの閲覧は気にならないが、画像や動画ファイルの読み込みやアップロードを行うと重く感じる。
また、通信が不安定になりやすいのもネック。カフェや宿泊先でWi-Fiが突然切れる、繋がらなくなるという状況が多々発生した。
とはいえ、現地にいながら日本ともやり取りしつつ仕事が進められる環境であることは間違いなく、レストランやカフェで作業をしているとルワンダ(アフリカ)に今いるということを忘れるほど。
治安が良い
ルワンダの首都キガリは「アフリカで最も治安の良い都市」と言われており、日中はもちろん、夜に街中を歩いていても(少なくとも我々が滞在していた間は)特に危険な場面に遭遇することはなかった。
ショッピングモールやホテル、オフィスビルなどの入り口ではセキュリティチェックがあり、ゲート型の金属探知機をくぐらされたりバッグを開けての荷物検査などを行うが、裏を返せば「それだけ徹底して安全保持に努めている」ということ。
お店やレストラン、宿泊先などの接客応対も良く、相場以上の金額を吹っ掛けられる、いわゆる「ぼったくり」のようなこともない。
歩いているとタクシーに頻繁に声をかけられるが、一言「No」と返せば去っていき、しつこく強引に付きまとわれるといった状況も起こらない。
その反面、課題も多い
近代化が目まぐるしい反面、それによって多くの課題が露わになっている。
例えば、急激な都市化による交通問題・公害。
道路が整備されたことにより、街には多くの自動車やバイクが走っているが、日本で20〜30年前に見たような古い車種が多く、排気ガスが顕著。街を歩いていると、ニオイはもちろん、見た目も黒いケムリを吐き出しながら走る車の多さに驚く。
また、道路や建物は整いつつも、生活に関わる重要なインフラ整備が追いついておらず、場所によっては頻繁に水や電気が止まる。
車道はできてるけど歩道はこれからといった箇所も多く、街の至る所で現在進行形で工事が行われており、その影響で長期間に及び水道の流れが不安定になっている地域もあるとのこと。
宿泊していたホテルの目の前も工事中で、滞在していた一週間だけでも、洗面所をはじめ、シャワーも出ない、トイレの水も流せないといった状況が何度か発生した。
そして、物流もまだまだ非効率で不透明。約束の日に届かない、そもそも届かないといった問題が多々起こる。
このように課題の残るルワンダ。更に、アフリカ全体に視野を広げると、一部の国では以下のように、より深刻な問題が根強く残っている。
- 政治が正しく機能していない
- 先進国からの援助が国民の元に届かないことがある
- 疾病、貧困、そして援助依存という負の連鎖が続いている
- 自分の土地や商売、車などの資産を自分のものと証明することができない
なぜルワンダでブロックチェーンなのか
ブロックチェーンを活用することで、例えばこのような問題解決ができると考えられる。
- 銀行口座を持たない農業従事者へのP2P支払い
- 難民・貧困層への直接的な寄付(国際支援)
- 土地や家の所有権の権利証明・保護
- 農業・物流などのトレーサビリティの向上
新しい技術をスムーズに「仕組み」としてインストールするためには「規制が少ない」「既存のインフラからのスイッチングコストがかからない」という点がとても重要だが、まさにルワンダには、この2点をクリアする土壌が整っている。
先に述べたように「VISION 2020 in Rwanda」を掲げ、ITの普及・インフラ整備に積極的。また、ルワンダ政府が中心となりアフリカのIT化を推進する「Smart Africa」を開催し、アフリカの発展を牽引するキーパーソン的な国。
そんなルワンダでブロックチェーンのコミュニティを形成したり、ブロックチェーン事業を推進することが、アフリカ全体の抱える問題解決に繋がるはずだと感じ、まずはの第一歩として、今回ルワンダ大学と共同でブロックチェーンの集中ワークショップを開催する流れを作った。
この記事を書いた人 鈴木祥文 / 株式会社クーガー |