ブロックチェーンを用いて事業を行う際の法規制・法的問題点の概要 | 片岡義広氏 片岡総合法律事務所/パートナー弁護士

片岡義広氏 片岡総合法律事務所/パートナー弁護士
片岡総合法律事務所パートナー弁護士。東京弁護士会金融取引法部事務局長、法務省・大蔵省抵当証券研究会特別委員、大蔵省プリペイドカード研究会委員、大蔵省電子マネー及び電子決済の環境整備に向けた懇談会特別委員、中央大学法科大学院客員教授、法政大学法科大学院兼任教授、J-REIT監督委員、地方銀行社外監査役を歴任。
2015年,2016年Best Lawyers in JapanでBanking and Finance LawとStructured Finance Lawの2分野でBest Lawyersに選ばれる。

法規制の体系

弁護士の片岡でございます。今回、全体のテーマが『ブロックチェーンの実装、その法規制』ということなのですが、ブロックチェーン自体に法規制はありません。ブロックチェーンを作るということは、エンジニアの方がシステムを設計するのと同様と思っているのですが、ブロックチェーンを作るにあたっては、法律の側からいうとどういう要求事項があるのか、そして、これを満たしていくべき条件は何かという点について、これから話していきたいと思います。

ブロックチェーンに法規制は無い

ブロックチェーンや分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology以下「DLT」)は台帳の技術であって、商業帳簿や登記簿のようなものと考えられます。したがって、ブロックチェーンを作成すること自体には規制はありません。しかし他方で、記録の対象となる取引をすると、その取引自体と取引業者には、法規制があったりします。したがって、ブロックチェーンを作って行う取引や業者にも、法規制がありうるということになります。

ブロックチェーンの分類については、中央管理者の有無と記録修正の可否によって、パブリック型、コンソーシアム型、(狭義)プライベート型に分かれます。

中央管理者がいないパブリック型のブロックチェーンの変更や管理については、多数決で決定をするものとも言われますが、従わない人がいる場合には、ハードフォークが起こったりもします。これは、多数決で決するものとはいえず、多数決で決める規範はないということになります。責任を持った制度として構築しようというコンセプトにはパブリック型は向くものではありません。他方、コンソーシアム型は複数の者が管理をするので、その者の間で約款又は規約を制定してルール作りができます。よって、その合議によって修正をすることができます。

記録自体と法律効果との関係

Bitcoinについても、他の仮想通貨についても、秘密鍵を自分のみが知っているこということで、その財産的価値を占有して支配しているといえます。そして、その占有・支配が即所有権のような全面的な正当権限を持っていると言う人もいますが、法的な観点から必ずしもそうではありません。

ただ、仮想通貨のデジタル情報を秘密鍵等で支配していることによって、法律的にも、所有と同様の強い効力が認められる場面があります。これは仮に「究極の強い力」と言うことにしますが、例えば、法律に基づく電子記録債権は、相当強い効力がデジタルの記録に認められるという関係になります。他方、不動産登記の登記簿のように、一応事実上の権利の推定としては働くけれども、登記されているのだから所有権がある、というほどまでの効力は無い。あくまで一定の制限された法律効果にとどまります。

商業帳簿に至っては、記載自体に法的効力は、原則としてありません。以上のように、作る台帳に法的効果がどのように結びついたものかということを見据えなければなりません。

ブロックチェーンによる台帳記入と登記

不動産登記は、権利移転の登記がなされれば、移転したであろうという推定効力が認められています。ブロックチェーンは登記の技術のようなものです。しかし、不動産登記ですら、まず表示の登記というのがあって、どういうものかという特定をするんですね。特定物についての取引ということになります。その点について、ブロックチェーンはどう対応するのかという問題があろうかと思います。

次に、設定の問題があります。例えば、抵当権は認定行為によって生まれます。これは、言ってみれば、マイニングみたいなものともいえます。

次に、トランザクションですが、これは権利が移転した取引記録なのですが、不動産登記の場合、記録の変更・更正は、職権ですることができます。抹消登記や抹消の回復の登記という場面が不動産登記には多数生じますが、狭義のブロックチェーンは、改竄・変更が不可能とされていますので、変更、更正、抹消、抹消の回復等がある不動産登記には適さないことになります。

実装容易性

では、ブロックチェーンあるいはDLTが使いやすいのはどんな場合か、その要件を考えてみました。

  1. 不特定で一様な性質を有するもの
  2. 没個性的な数量単位であるもの
  3. 多数の人が取引をするもの
  4. 大量に存在するもの
  5. 転々流通して取引されるもの
  6. 単純なもの

また、実装を考える例としては、以下のようなものを考えることができます。

  1. 通貨(法貨)
  2. 地域通貨
  3. ICO
  4. 前払式支払手段
  5. 電子記録債権

分散型台帳技術の実装の検討

社会実装について

  1. 通貨(法貨)
    中央銀行が発行する通貨をデジタル化した国もあり、実験的にやっている国もあります。日本銀行も日本銀行券(法貨)のデジタル化を研究しています。社会インフラが整備されていない、且つ小規模の国のほうが、イノベーションは進みやすいと考えられます。日本のように、従前のインフラが整備された国は、デジタル化は進みにくい。
  2. 地域通貨
    転々流通するものは紙幣類似証券取締法等の趣旨に抵触するという問題があるので、課題があろうかとも思われます。
  3. ICO
    ICOには詐欺的なものが多いという問題もあり、また、法規制は現在明確ではありません。仮想通貨で払い込む場合であって、配当や具体的役務提供が約束されているものであってはならず、ホワイトペーパーで事業計画を示す(目論見書に相当)ことが求められます。

ICOには、金融商品取引業、前払式支払手段、資金移動業、また仮想通貨交換業になり得るものもあり、金融庁は、昨年秋ころからは、これらのいずれかの登録を必要とするスタンスを取っているようです。

また、規制については(一社)日本仮想通貨交換業協会が今年の3月27日に法人登録をしまして、資金決済法上の認定協会となることを目指しています。認定協会になり、自主ルールを作って、その違反にはぺナルティを課し、業界がきちんと自主的に利用者保護を図っていくことを目標として体制整備を進めているところです。

不特定多数の者から資金調達するスキームである以上は、金融商品取引法的な規制は必要だと考えた方がいいと思っています。来年の通常国会中にも法規制がなされる可能性もあるのではないでしょうか。なお、様々な金融規制法の複数の要件に該当するものをどう取り扱うか、また、現在金融審議会で検討されているように、縦割りでなく横串を通すような規制にしていく必要があると思います。

仮想通貨と金融規制法

日銀の通貨(法貨)を元に、銀行に預金がありますね。通貨は、通貨偽造罪、紙幣類似証券取締法によって守られています。銀行が実際に日本銀行券を持っているわけでなく、持っているのは債権に過ぎないのですが、皆が信用するから、銀行法、預金出資法等で守られているわけです。

仮想通貨は、仮想通貨の世界の中では何の問題も無いが、現金と交換したり、ものの決済に使われるようになると、リアルの空間と接触します。法律とは、リアルを原則対象としているので、リアルではない観念的な世界は対象外なのですが、仮想通貨といえども、リアルの世界と接触することで、勿論法規制の対象となってきます。ということで、資金決済法の規制の対象となりました。金融商品は、いろいろな法律に配慮しながら商品を組み立てていかなければならず、クリアすべき問題はいくつも有ります。

仮想通貨の私法の性質

三次元空間で、物理的に有体物としてあるものが「物・(ブツ)」です。形而上学的法律概念では、日本の財産法の基本概念は、人、金、物、の3つです。

「金銭」は紙切れや金属片ですが、法律の概念としては、「金銭」として財産的価値を持ちます。また「人」は、物質や生物を超えて、人格を持った存在として観念されます。そして、「物権」とは、人の有体物に対する支配権ですし、「債権」は、人の他の人に対する請求権です。

では、「仮想通貨」って、いったい何?となった時、単なる電子情報に過ぎないのだけれど、参加する人は価値があると思っているし、秘密鍵を自分だけが知っていることによって、その財産的価値がある可能性があるものとなります。

仮想通貨には、人と人との合意は無いので、債権ではありません。また、物権でもないのですが、物権法の法理を準用ないし類推適用すべき場面が多いものと考えられます。

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