初の海外開催!Blockchain EXE × Consensys in New York

2017年5月に発足し、これまで7回のミートアップを行ってきたBlockchain EXEが、初の海外ミートアップを2018年1月9日にニューヨークで開催いたしました。

ブロックチェーン界のトップ企業である米ConsenSys(コンセンシス)と共催で行われた「Blockchain EXE NY」のイベントレポートをお届けいたします。

ConsenSys(コンセンシス)とは

イーサリアムを作ったEthereum Foundationの共同創業者、Joseph Lubin氏により設立された世界最大級のブロックチェーン企業です。今回の登壇者Rouven氏が創業した分散型IDプラットフォームのuPort、予測市場プラットフォームのGnosisや、音楽ストリーミングサービスのUjo Music等、Ethereumベースの開発を独自で進めています。最近では電力のP2P分散取引プラットフォームのGrid+が、ICOにて約68億円の大型調達を行ない話題になりました。

また政府データを全てブロックチェーン上に記録するドバイの”Blockchain Strategy 2020”や、スイスのツーク市のID認証プロジェクトなど、政府機関系のプロジェクトにも多数参画しています。

今回の「Blockchain EXE NY」に参加したのは、ConsenSys、KDDI、日立製作所、クーガーという日米のブロックチェーンの開発を行っている企業。仮想通貨以外でのブロックチェーン活用の場として注目される「IoT×ブロックチェーン」の中で、今回は「スマートホーム」をテーマに意見交換を行いました。

▼目次

  1. 「スマートコントラクトを活用した次世代アライアンス基盤の在り方とは」茂谷保伯|KDDI
  2. 「ブロックチェーン向け認証技術」長沼健|日立製作所
  3. 「自律テクノロジーを実現するプロダクトConnectome(コネクトーム)」石井敦|クーガー 
  4. 「uPortによる自己証明型身分証明(Self Sovereign Identity)」Rouven Heck|uPort
  5. ディスカッション:「スマートホームとスマートコントラクトの現状と可能性」

「スマートコントラクトを活用した次世代アライアンス基盤の在り方とは」茂谷保伯|KDDI

茂谷 保伯 | KDDI ブロックチェーン プロジェクトリード
KDDI コンシューマ事業企画本部 兼 KDDI総合研究所。日立製作所にて管理会計・経営管理に従事後、モバイルサービスのスタートアップを創業。その後LINEにて「LINE Pay」の立ち上げ及び事業戦略・サービス企画を行う。現在はKDDIにて「IoT×AI×ブロックチェーン」関連のプロジェクトを推進している。

進むAmazonの中央集権化

まずはじめに、茂谷氏から会場に、サービス提供にあたってアライアンスのアプローチが今後変化していくのではないかと問題提議が投げかけられました。

中央集権的なサービス展開で有名な世界的企業といえばAmazon。2017年前後、あらゆるサービスがAmazonに集約されていく動きは顕著で、ネットからリアル、ファッションからスマートホームまで様々な分野 で「Amazon化」が進行していきました。代表的なものには無人店舗のAmazon GO 、ファッションレコメンドのecho look 、無料試着のprime wardrobe、Whole Foods買収、そしてスマートロックAmazon Keyがあります。Amazonはもちろん日本にもどんどん進出しています。

Amazon Keyは様々な サービスをユーザー視点でパーソナライズして届けるという革新的なサービス。スマートホーム構想を進めているKDDIとしても注目しているそうです。

片や、日本の主要な通信事業者の一つであるKDDIはどのように事業展開をしているのでしょうか。ECモール、テレビ通販、銀行、クレジットカード、保険、デジタルコンテンツ、そして今回のテーマでもあるスマートホーム。ちょっと心地よい暮らしを提供するために通信顧客にIoT導入をする事業を推進しています。

サービスのUX向上

このようにユーザー基盤を強みに通信事業から多種多様な非通信事業を展開しているKDDIですが、Amazonとの大きな違いがあります。Amazonは顧客のために徹底的にUXを高めるため垂直統合で事業者とユーザーとの関係をシステムで結びつけています。それに対し、KDDIはアライアンスや買収などにより後から次々にサービスを加えていきました。そのため、それぞれのサービスは、ユーザーにバラバラに(サイロ化されて)提供されており、現状心地よいUXが提供できていません。この状況をどのように変えていくかがKDDIの大きな課題であると茂谷氏は考えているとのことでした。

中央集権型のデメリット

では、このように大多数の企業が陥るサービスのサイロ化に対して、アライアンス基盤は、今後どのような方向に向かえばよいのでしょうか?ここで鍵となるのは、サービスを企画開発する際に、中央集権的なアプローチを行うか非中央集権的アプローチで行うかです。たとえば、Amazonのような中央集権型企業のブランドに参画している事業者は、独自で注文を受けてサービスを提供することは出来ません。中央集権型プレイヤーのユーザーからのサービス利用が増えるメリットはありますが、 一方で、チャネルやデータやサービス提供方法を独占され、 サービス提供事業者が弱体化する、つまりAmazon依存に陥ってしまうデメリットがあります。

非中央集権的アプローチ

非中央集権的アライアンス基盤について考えてみましょう。サービス提供事業者は自社のチャネルを通じて自律した形で、ブロックチェーンで様々な企業と繋がり連携サービスを提供することが可能です。新たに参画した事業者も、ブロックチェーンのコンソーシアムに入れば、すぐに自社サービスを提供できるのです。チャネルやサービス提供に制約が少ないため、サービス提供事業者の事業の独立性は保持可能ですし、ユーザーも日常的に慣れ親しんだチャネルから各種サービスを利用することができます。また、後発事業者でも、ブロックチェーン内で蓄積されたデータを等しく活用できることも大きなメリットとなるでしょう。

ここで実際に、KDDIがクーガーと行っているブロックチェーンを用いたスマートフォン修理の事業の紹介や、今後のスマートホーム構想の説明がありました。

茂谷氏は、Amazonの行う中央集権型の、Amazon Keyのようなアプローチに対して、ブロックチェーンを活用した分散型アプローチでサービスを発展させることができると考えています。しかし、IoT連動をしたリアルタイムなサービスを目指す場合、次のような課題も出てくるでしょう。

一つは、多数のデバイスからの書き込み読み込みをどのように高速で処理するか? 二つ目は画像などの大容量データをどのように処理するのか?そのときブロックチェーンに入れるべきデータは?そしてオンチェーンオフチェーンのデータ処理は?これらの課題の解決策を今日のミートアップのような意見交換を通して見つけていきたいと考えているそうです。

イベントを終えて

Q:本日はいかがでしたか?

このために準備が大変だったのでその状況から解放されて良かったです。日本は世界的にもブロックチェーン業界で注目されている傾向があると思うのですが、世界に対してビジョンを提示している企業が少ないです。今回それが大企業とスタートアップ共に世界的に見ても珍しいAI×IOT×ブロックチェーンという形で、ブロックチェーンが最も盛り上がっている都市の一つニューヨークで示せたのが良かったです。

ビションを提示することで、海外の反応を知り、軌道修正や新たな発見が出来ます。ブロックチェーンの事業化はまだまだ発展途上、一人で悶々と考えていると壁にぶつかってしまうことが多々あるので、ニューヨークのブロックチェーンに関心がある人達に、実際に意見をぶつけることで、次のステップが見出だせると思いました。ダメならダメで、それに気付ければ軌道修正ができます。発信をすることが何よりも大事だなと感じましたね。

Q:日本でのBlockchain EXEと何か違いは感じましたか?

ニューヨークの参加者の方が主体的な印象を受けましたね。ブロックチェーンへの知識はある程度あり、能動的に何かを得ようとしている熱量を感じました。自分が発言することによって自分の理解を深めようとするだけでなく、その場に何か貢献したいという気持ちがあるようでちょっと感動しました。とにかく熱気がすごかったです。

「ブロックチェーン向け認証技術」長沼健|日立製作所

長沼健 | 日立 研究開発グループ
モバイルアプリケーション、GPS利活用、車載無線セキュリティ 医療データ分析、これらに関係するセキュリティ技術、暗号技術の開発に従事 2014年より暗号通貨、ブロックチェーンの研究開発に携わり現在に至る。

秘密鍵管理の課題

長沼氏は、暗号通貨、ブロックチェーンの研究開発に携わっています。今回は日立独自の認証技術であるPBIを中心にプレゼンが行われました。PBIはすでに日本の金融機関で実運用されている技術ですが、その技術をブロックチェーンに応用し、ブロックチェーン活用において大きな課題となっているID認証を解決しようとするのが今回のプレゼンとなります。

ブロックチェーンでは基本的に自身の資産や情報にアクセスする際、鍵の管理をユーザー自身で行わなければいけません。たとえば鍵を紛失すると自分の資産にもかかわらず、その資産を売買することができなくなってしまうのです。

日立が開発するPBIの特徴

そこで役立つのが、日立製作所が開発した、PBI(Public Biometrics Infrastructure)というシステムです。PBIは、生体情報からダイレクトで秘密鍵を発行します。そのため、秘密鍵を管理する必要がなくなります。自分の生体情報が秘密鍵となるため、パソコンがクラッシュしたとか、印刷したペーパーウォレットをなくしてしまうなど、大事なデータを紛失してしまうリスクがほぼなくなるのです。

この技術のポイントは、たとえば寒さによって静脈の動きが変わるような環境によって揺らぎがある生体情報からでも本人の生体情報であれば一意に秘密鍵を生成できるところということでした。

ブロックチェーンのプラットフォームはHyperLedger fabricで、実際にデモを行ってプレゼンがなされ、会場内に大きな拍手が響き渡るほど盛り上がっていました。

イベントを終えて

Q:本日はいかがでしたか?

普段は正月休みを取っている時期に一大ミッションが与えられたので大変でした(笑)日本語でも正しく伝えるのが難しい内容なのに、さらに英語でどうなるかなと思いましたが、すごく興味を持って聞いてもらえた実感があります。ブロックチェーンの知識に関しては全体的に日本よりも上のような印象を持ちました。

Q:参加者からの声で印象的なものはありますか?

もっと聞かせてくれと言ってもらったのもありましたし、また、自分たちの作ったものを日立に見て欲しいという声もいただき驚きました。

Q:海外の市場をどう捉えていますか?

日立の北米戦略はまだまだ不十分でうまくいっているとは言えません。ゆえにこれからまだまだ大きなポテンシャルがあるとも考えています。今回のミートアップを足がかりに、日立の技術力が世界に届けばいいなと思いますね。

自律テクノロジーを実現するプロダクト「Connectome(コネクトーム)」石井敦|クーガー

石井 敦 | クーガー株式会社 CEO
IBMを経て、楽天やインフォシークの大規模検索エンジン開発。日本・米国・韓国を横断したオンラインゲーム開発プロジェクトの統括や進行。Amazon Robotics Challenge トップレベルのチームへの技術支援や共同開発。ホンダへのAIラーニングシミュレーター提供、NEDO次世代AIプロジェクトでのクラウドロボティクス開発統括などを行う。現在、AI x ロボティクス x IoT x ブロックチェーンによる応用開発を進めている。

「Connectome(コネクトーム)」の構想が、ニューヨーク到着日の実体験に基づき紹介されました。

我々が住んでいる日本とニューヨークには大きな時差があります。到着した我々は時差ボケに苦しみ、食事も摂らず夕方仮眠していました。ようやく起きて外に出てみると極寒。Uberを呼んでレストランに行くことに。しかし目的のレストランは閉まっていて、寒空の下、店を探すことになってしまったのです。こんなとき、Uberと最適なレストランをセットで提案くれたらどんなに素晴らしいでしょう。みなさんもこういう状況はありませんか?我々は、「Connectome(コネクトーム)」構想でこの問題を解決しようと考えています。

イメージしやすい事例に、会場からは共感と笑いが。

Connectome(コネクトーム)のビジョン

「Connectome(コネクトーム)」構想で実現させようとしているビジョンをクーガーでは「スマートスペース」と呼んでいます。スマートスペースは、ユーザーニーズと、サービス提供が自動連動する空間です。例えば今後車が自動運転になり運転する必要がなくなれば、車内もユーザーの自由な空間となります。その空間に自分にとって必要なサービスがリアルタイムにやってくるのです。

リアルタイム社会

今後、技術革新により、ニーズのリアルタイム化、IoTによる通信のリアルタイム化、センシングデバイスによる状況把握の多様化が進んでいきます。また並行して、AIとロボティクスによって自動化されていくでしょう。

これらの要素により、ユーザーニーズはより多様化し、リアルタイム化していくと考えられます。ニーズとソリューションの組み合わせは膨大な数になるでしょう。無数のサービスプロバイダーの組み合わせによるサービス提供のニーズが増大していきますので、企業提携など既存のパートナーシップを超越したサービスの組み合わせが求められます。

それを解決するのが、サービスの組み合わせをAIで自動生成し、ユーザーの空間を快適にするConnectomeです。


このConnectome実現のために、ブロックチェーンが必要です。実際にどんなユースケースがあり得るのか考えてみましょう。

  1. ユーザーが故障したスマートフォンをリペアショップに持って来た時、ユーザーが希望する金額と修復期間から、自動的にリユースショップの在庫を合わせて確認。修理かリユース品の購入か最適な方を選択可能とする(KDDIと共に現在開発中)
  2. ユーザーが昼頃にクリーニング業者に依頼した時、クリーニングとフードデリバリーサービスを自動で組み合わせてサービス提供。

Connectomeの開発にはこのような技術が必要となっていきます。

  1. Large scale Search Engine / Personalized system development.
  2. AI and Robotics
  3. Blockchain and IoT

そしてクーガーは、上記すべての開発実績があります。Connectomeの将来のロードマップはさらに拡大します。データの収集や複数の種類のAIが集まる仕組みも検討しているそうです。Connectomeのマイルストーンです。本プロジェクトではすでにサーチとオートコンビネーションの開発に取り掛かっています。

イベントを終えて

Q:本日はいかがでしたか?

終わってホッとしています。(2017年)5月にBlockchain EXEを立ち上げた時、半年後にはニューヨークで開催しようと話していました。そのときは皆信じられなかったでしょうが、実現することができました。

Q:石井さんは海外のミートアップにも積極的に参加されていますが、日本のミートアップとの違いはどう感じますか?

欧米のミートアップは、発表者と参加者の境目があまりなく、一様に「会いに来てる」「話しに来てる」という印象があります。資料はあくまでも参考程度で、資料に書いてないことを知りたがりますし、ディスカッション型が好まれます。対して日本のミートアップは、発表者は発表をするために、参加者は学ぶために来ている傾向があるのではないでしょうか。Blockchain EXEでも、資料が欲しいとか資料が見えないという声がよく上がりますね。

Q:今後のBlockchain EXEの展望はありますか?

先程コンセンシスのメンバーに、「開催して本当に良かった、ありがとう」と言われました。これを機に、日米のブロックチェーン事業の交流が生まれたらいいですね。日本のブロックチェーンの技術力は世界有数です。しかしアピールが下手で世界に上手く伝わっていません。今後海外の他の都市でも開催を続け、日本の技術発信や意見交換を重ねて行きたいと思っています。

uPortによる自己証明型身分証明(Self Sovereign Identity)

Rouven Heck | uPort 共同創業者&プロジェクトリード
コンピュータサイエンスのバックグラウンドを持ち、Deutsche銀行にて12年にわたり、様々なITプロジェクトのプロジェクト管理、アーキテクチャー設計、戦略立案等を担当。
またDeutsche銀行内部にBlockchainコミュニティを設立や、R3のコンソーシアムにてDeutsche銀行の代表を務めるなどした。

ConsenSysでは、ブロックチェーンをベースにしたID認証サービスであるuPortを共同創業し、プロジェクトリードとしてプロダクト開発全般に携わる。

まずはじめに、uPortが開発を行う、自己証明型身分証明(Self Sovereign Identity)に関するコンセプトと、それがもたらす社会への影響に関する話がありました。

現在のID証明の課題

現在、自分の個人データを提供しているにもかかわらず、11億人もの人がそのデータへのアクセス権を持っていないという問題があります。原因としては、それらのデータが紙などのオフライン上で管理されている事や、ITリテラシーの低さによる問題が挙げられます。

また、FacebookやGoogleは企業間でのデータ交換の際に莫大な利益を生み出しています。それにもかかわらず、私たちに共有される情報は一部であり、提供しているデータが効率的に分配されているとは言いがたい状況です。

これらの伝統的な古い制度を続ければ続けるほど、問題はますます大きくなっていってしまう事をRouven氏は指摘しました。

Uberを使ったり、ebayを使ったり、私たちは異なる形でID情報を提供しています。しかし、私たちは以前までそれらのアプリケーションを利用するために、都度アカウントを作らなければなりませんでした。つまり100個のサービスを使うとき、100個のパスワードを持たなくてはならないのはクレイジーです。

そういった背景からFacebookやTwitter、Googleアカウントを使ったSNS認証ログインという便利な機能が誕生しました。確かに、これらの機能は非常に便利ですが、我々がもっと多くのデータを保有し、それらのサービスとの関係性が強くなった時に問題が発生します。例えば(中国のような)Twitterが使えない国に行けば、アクセスができなくなりますし、政府が突然それらのサービス利用を禁止したりすれば使い物にならなくなってしまいます。

SNSログイン認証の次の世界

これらの背景から今後、自己証明型身分証明(Self Sovereign Identity)の重要性は高まっていくだろうというのがRouven氏及びuPortの見解です。将来的にブロクチェーン技術によって、ID情報の権利が我々の手元に戻るというメリットがもたらされます。個人ユーザーが今よりも自分のデータに力を持ち、様々な分野でその情報を効率的に活用する事ができるようになります。

また、自己証明型身分証明(Self Sovereign Identity)が広がれば、より個人への評価が最適化されます。Uberのようなサービスを使う際に、ユーザーはドライバーの特定のID情報を閲覧でき、ドライバーが信頼できるかを調べる事ができます。またP2Pの取引は個人に対するチップも容易にするでしょう。

銀行や納税をする際の個人証明などFacebookではできないこともできるようになります。

そして非中央集権化が進み、サービスへの依存度がなくなっていくと、より個人の影響力が重要になります。その世界では、人としての振る舞いなど、より人間的な要素が重要になっていくでしょう。

ブロックチェーン技術を使う上で重要な事

ビットコインでは「この人が誰であるか」という事を考える機会はありませんが、より本質的なブロックチェーンのエコシステムでは個人の情報や鍵(キー)の存在や、その相互作用が重要になります。また、そのシステムや鍵の"使い方"も理解する必要があります。

そして、その信頼できる自己認証のためにブロックチェーンを利用する前に、何をしなくてはならないかを考える必要があります。

現在、uPortでは特にスマートフォンにフォーカスして開発を行っています。スマートフォンはより広い分野での解決策になると考えています。uPortはEthereumを使って動いており、現在ではMicrosoft社やアクセンチュア、IBM社など多くのスタートアップが参画しているDIF(decentralized identity foundation)で、広く業界を横断した自己認証システムを作ろうとしています。

uPortが提示するスマートコントラクト

uPortを使えば、技術の事がよくわからなくても、簡単にダウンロードできて簡単に鍵を生成してくれます。

なぜ我々がこのエコシステムを作っているかというと、スマートフォンを無くしたり、キーを盗まれた時にそれらのアクセスが永遠にできなくなってしまう問題への解決策を提示するためです。

uPortではスマートフォンにパスワードやID情報を保存する必要がありません。アクセス情報を失くしたとしても、uPortのネットワーク情報からアクセス権を回復させる事ができます。

スマートホームとIoTとブロックチェーンの可能性

ブロックチェーンとIoTはとても相性の良い分野です。

一つはamazon alexaやIBMのデバイスが家の中にやってきても、それらは独立しており相互作用をする事なく中央集権的にデータが集められていきます。ブロックチェーンはその問題を解決する興味深い技術です。

二つ目として、誰がそのデバイスを使う権利を保有しているのかや、誰と誰が契約を結んでいるのかをブロックチェーンによるスマートコントラクトが実現してくれます。例えばオフィスの掃除をしてくれる人は特定の鍵を持っていて、中に入る事ができたり、「ここの作業が終われば自動的に支払いがされる」という自動決済における契約及び実行をIoTとスマートコントラクトで実現できます。

そして、スマートコントラクト上で同じフォーマットの自己証明書を持っていれば、それらが相互に作用する事を非常に容易にします。

非中央集権化されたユーザーIDはより多くの人に受け入れられるでしょう。だからこそ他の企業に支配される事のないブロックチェーンのエコシステムに可能性を感じています。

Airbnbでのブロックチェーン活用例

未来のブロックチェーンの形としてAirbnbを例にあげて説明しました。

まずあなたは家を探さなくてはなりません。その際にID情報によって信頼できる人を探せるでしょう。また、Airbnbで家のドアの前に行けば、スマートコントラクトで合意形成が取れていれば勝手にドアが開くという事も実現できるでしょう。

これらがスマートホームやブロックチェーンで実現できる青写真です。

イベントを終えて

ディスカッション:「スマートホームとスマートコントラクトの現状と可能性」

Crypto NYC創業者で日本のBlockchain EXEにもご参加いただいたことのあるLane氏にディスカッションのモデレーターを行っていただきました。

登壇者ディスカッション

Q:IDに関して何を思いますか?

IDは我々にとって非常に重要な問題だと思います。現在は中央集権的にGoogleなどの巨大企業にデータが集められてしまっています。そのためブロックチェーンによって我々の元に権利が戻る時代が来るでしょう。

IDとユーザーマネジメントは最も重要な問題であり、Googleなどによって中央集権的にデータが保管されるべきではないと思います。またその課題をuPortが既に解決していて驚きました。

uPortでは指紋認証はやっていないので日立の指紋認証とブロックチェーンを使ったシステムは面白いと思いました。人間とデバイスをどのように繋げるかというのは重要だと思います。

Q:非常に多くのユーザーを抱えているKDDI社はブロックチェーンを使って色々な面白サービスを作れそうですが、一番最初に考えているサービスはなんでしょうか?

もしブロックチェーンを応用するとしたら、アライアンス基盤を構築することが重要だと思います。あくまで技術上の話ですが、ポイントの流通額が相当あるので、それをブロックチェーン上で管理して様々なスマートコントラクトで事業者に活用してそれぞれの条件で価値を分配するなどは面白いと思います。

イベント参加者からの質問

Q:現状uPortではIDの回復をどのように行っていくのですか?

uPortではその機能をソーシャルリカバリーと呼んでいます。複数人の友人などをあらかじめネットワークに登録しておく事で、彼らにIDを紛失した事を伝え、パブリックキーを渡す事でアカウントをリカバリーしてくれる仕組みがあります。そして新しいプライベートキーを生成した記録もスマートコントラクト上に記録していきます。

Q:その人たちはプライベートキーにもアクセスできるんですか?

プライベートキーはあなた自身しか見れません。そのネットワークの参加者は鍵の生成に同意をしてスマートコントラクトに書き込むだけです。なのでプライベートキーは常にあなただけのIDになります。

Q:悪意のある人がその合意形成をしないで、スマートコントラクトに書き込んだらどうなるんですか?

確かに、その主張は理解できます。この点のルールはフレキシブルで、これらの友人を変更することもできるし、友人に対しお金を事前にデポジットするよう要求することもできます。他にもいろんな方法を現在考えているところです。

Q:Hyperledger IndlyやCivicとuPortの違いはなんですか?

HyperledgerのIndlyはオープンソース型のプロジェクトで、よりIDにフォーカスしています。Hyperledgerの多くのプロジェクトは、より企業などの組織がコントロール権を持っています。非営利のプロジェクトであるため、あまり進んでいないのが現状です。

Civicは同じようにID認証をやっていますが、よりwebサイトへのログイン認証機能にフォーカスしているため、幅広いブロックチェーンのID認証に活かす事は難しいと思います。我々は同じ課題に対して異なる解決アプローチをとっており、よりオープンネットワークなブロックチェーン構築に時間使い、個人認証のオープンスタンダードになる事を目指しています。

Q:そもそものインプットデータが間違っている問題の解決策はありますか?

中央集権的にThird-partyを使う方法があると思います。

また私はこの分野の専門家ではないので明確に答えられませんが、プログラミングによる解決策として様々な開発が進められています。

センシングしたデータをインプットにすることで、ある程度データの信頼性を担保できるのではと考えています。これはドイツでも進められているデジタルサイエンスという分野であり、私も大変興味を持っています。

Q:IoT領域で最大のライバルはIOTAになるのではと考えているのですが、意見はありますか?

私はEthereumを開発しているので、あまり詳しいことはわかりません。

ただ、現状のIOTAはクリアでない部分が多く、小さなデバイスでビットコインのマイニング処理のような事ができるのかはわかりません。

IOTAがIoTにどのように影響を与えるかわかりませんが、日本では多くの企業がIoTとブロックチェーン開発に関心を持っています。電気代の支払いなどマイクロペイメントが必要なケースがあるのでブロックチェーンが適用される可能性はあり、IOTAのようなマイクロペイメントがブロックチェーンにも活かされる事は考えられます。

Q:ブロックチェーンは金融分野のデータの取り扱い方をどのように変えていくと思いますか?

ブロックチェーンの管理・運用は高価なので、ブロックチェーンによるメリットは限定的です。なので全てのデータ交換をブロックチェーンで運用するべきではないと思います。

例えば個人の大量の個人認証データを指紋データなどに集約し、それをブロックチェーンに記録しておくというやり方が考えられます。中央集権的にデータが集められるのではなく、uPortの目指す一つのデバイス(一個人)が独立して個人認証データを持つ事が重要であると考えています。金融取引においてはオフチェーンも活用するなどしながら、ブロックチェーンを適切に組み合わせていく必要があるでしょう。

ブロックチェーンの安定性やスケーラビリティ問題から、それらを適切に活用していく必要があるでしょう。

ConsenSys & Blockchain EXE総括

今回のBlockchain EXEは、定員300人に対してキャンセル待ちが160人と大盛況。参加者の幅は広く、ブロックチェーン技術者、ブロックチェーンを学ぶ学生、投資家など多岐に渡っています。中には、大学でブロックチェーンを専攻している一期生も訪れており、発表に興味深く聞き入っていました。

日本のミートアップと違い、ニューヨークのミートアップでは先に飲食をするスタイルが一般的。お酒も入ってリラックスしたムードでセッションが行われました。今回用意したのはお寿司とアサヒビール。参加者からは「SUSHIが出てくるなんて、いつものミートアップの10倍嬉しいよ!」といった声もあり、大好評でした。飲食コーナーがあまりにも盛り上がり、きちんとセッションに移行できるか少し不安でしたが、セッションが始まると一斉に席に移動し、前のめりで聴き入るというメリハリもとても印象的でした。

シリコンバレーだけでなくニューヨークでも多くのスタートアップが立ち上がっており、金融の街であるニューヨークのFintechへの関心は他の都市と比べても高いです。

Blockchain EXEでは海外誘致も積極的に行っており、日本のブロックチェーンのプレゼンス能力や技術レベルが高まっていくように今後も積極的に活動をしていきます。

この記事を書いた人
井澤梓

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