【Blockchain EXE Presents】FinTech Economy Summit:金融領域を超えたブロックチェーン技術の応用#1
ブロックチェーン業界は、主に資金調達を目的とする「黎明期」を経て、さまざまな金融サービスを提供する企業の成長が著しい「発展期」を迎えました。今後のFinTech業界の更なる成長が見込まれる中、公正な成長を後押しする規制や法的環境の整備が望まれます。
ブロックチェーンの技術や応用に焦点をあてるBlockchain EXEより、FinTech Economy Summitの特別講演として、金融以外のブロックチェーンの発展に関してディスカッションを行いました。
- 第1章:ブロックチェーンが築く経済圏:社会実装と課題(株式会社博報堂:伊藤 佑介/Enterprise Ethereum Alliance:石黒 一明/株式会社Gaudiy:石川裕也/株式会社日立製作所:齋藤 紳一郎/トライデントアーツ株式会社:町 浩二)
- 第2章:データ活用とIoT×ブロックチェーンの役割 (クーガー株式会社:石井 敦/ZEROBILLBANK:堀口 純一/日本アイ・ビー・エム株式会社:平山 毅/株式会社ケンタウロスワークス:河﨑 健一郎)
ブロックチェーンが築く経済圏 | Blockchain EXE スペシャル#1
目次
伊藤:このセッションは『ブロックチェーンが築く経済学』ということで、主にその社会実装に取り組まれている方や、実際にそれをやって課題を持っている方にご登壇いただきます。
伊藤:私の方からご紹介しますが、先ず日本のEnterprise Ethereum Allianceの代表をされています石黒さん。続きまして、株式会社Gaudiyの石川さん。次に、株式会社日立製作所の齊藤さん。最後に、トライデントアーツ株式会社の町さん。
伊藤:石黒さんは、みなさんご存知のEnterprise のEthereum Japanということで、イーサリアムというとパブリックの印象がありますが、『企業がイーサリアムを使う』という活動の中心を日本でやっている方でして、私個人も普段から親交を深めさせていただいております。
伊藤:石川さんは企業と生活者の共創のプラットフォームのサービスを提供しているGaudiyの方です。私も共同研究を一緒にやっていて、普段からやり取りさせていただいております。齊藤さんは日立製作所というエンタープライズのど真ん中のところで、主に通信とかエネルギーとかそういった領域で、ブロックチェーンの社会実装をされている方になります。町さんは、タレントさんとファンの交流のプラットフォームのサービスをされています。
伊藤:順不同に色々とお話を聞いていければと思うんですが、実は今日、僕が個人的に楽しみにしていたことがあって。町さんとは2年くらい前、町さんがアクセンチュアから独立されて、トライデントアーツを立ち上げられた当初から付き合いがあります。ブロックチェーンに関するアツい議論を最後に交わしてから、久しぶりにお会いしました。そこからかなり時間が経っているので、今エンタメ領域でどういったサービスを、どういう経緯で行っているかというのを聞かせていただければと。
町:お久しぶりです。私はトライデントアーツという、ブロックチェーンを専業で行っているところの代表をやっているんですが。2年前にお会いした時には、まだコンセプトがしっかりしていなくて、『ブロックチェーンを使って何かをやりたい』って言っているくらいだったと思うんですね。
デジタルコンテンツとブロックチェーン技術
町:今は、『ブロックチェーン=権利を保全するシステム』として、10~20年経った頃には世界を変えているだろうと思っています。その中でも、今の日本の業界でどんどん伸びているのが、エンターテインメントの業界です。エンターテインメントの世界における権利は二つ、著作権や発明などの『作り手側の権利』と、それを持っている『オーナーの権利』。この両面の権利を、デジタルコンテンツの世界でしっかりと保全することで、この世界が今とは別の次元で発展していくだろうという考えの元に、アイドルにフォーカスしてやっているというか。そういう理由です。
伊藤:ちょっと意外だったのが、2年前にお会いした時は『既存の業界をディスラプト(破壊)する』という非常にアツい思いがあったのが、現在では保全する側に回ったというのは、何か経緯があったんですか?
町:えーと、まあ根底は変わっていないんですね。『ディスラプト(破壊)したいなぁ』っていう気持ちは今もあって、やろうとも思っているんですが。実は、この2年間で歴史をもっと学んだんですね。インターネットのこともそうなんですけど、新しいものを生むときに、わざわざ既存の業界で何かをやって、うまくいくとは到底思えない。そんな中で、今社会的な課題を抱えていて、もしくはビジネスの課題を抱えていて、そのために作り手側ができないことや、コンシューマーがまだそのよさに気付けていないことって何かな、と。そういうことにフォーカスした2年だったんです。
伊藤:じゃあアクセンチュアを飛び出して、まさにそういうことをやっていたわけですね。
日本から世界に通用する技術を作る
町:そうですね。あとは『やりたいことをやるほうが、失敗しても成功しても面白い』と思ったんで。エンターテインメントが好きなので、そこに行った、という方が大きいかもしれません。
伊藤:ちなみに、なぜアクセンチュアを離れて独立されたんですか?
町:あまりアクセンチュアを出すとアレなんですが……。ITコンサルをやっていたんですが、自分で日本から……いや、日本にこだわっているわけではないのですが、世界に通用する何かを作って、自分の子どもたちなんかに『父ちゃんたちがすごかったから、こんなに楽しい世界があるんだ』って言えるようにするためにですね。自分で事業を作っていかないと、心から言えないかな、と思って。
伊藤:すばらしいですね。で、大企業を離れられて、自ら社会実装のために立ち上げたっていうのとコントラストで、齊藤さん。
伊藤:私が一番素晴らしいと思っているのが、昨年日立製作所とKDDIさんと一緒に開発された、『静脈から秘密鍵を作る』という素晴らしいUXがありまして。その実証実験で、KDDIの職人として登録するとポイントがもらえて、ミスタードーナツにいくとその静脈認証で、ポイントで割引が受けられる、といったような。齊藤さんはそういった実験をされています。
ブロックチェーンを企業が活用する上での課題
伊藤:大企業にいらっしゃる齊藤さんが、そういった社会にインパクトを与える実験にも臨まれていると。大企業でそういったものに取り組まれるのは大変だと思うんですが、企業に所属する人間として、ブロックチェーンに取り組むときの課題とか、そういったものはありますか?
齊藤:えーと、エンタープライズのお客さんって結構固くてですね。『これってどうやって収益性を確保するんだっけ?』という話が先ずひとつ。あとは『今やっている事業との整合性は?』っていうのを、すごく気にされるんですね。やっぱりブロックチェーンってこう破壊的な、中抜きであったりとか、今までと違う考え方でビジネスを組み立てなきゃいけないので、そこを経営層の方にどうやって理解してもらえるかというのが、一番苦労する要因かと。
伊藤:なるほど。例えば『お客様に対して』はそういう形であったりとか、あとは社会からの理解を得るって言うのも、やっぱり理解のある仲間に囲まれてとか、そういう形でやってるんですか?
齊藤:やっぱり、好きこそものの上手なれというか、技術が好きな人間が私の会社には多かったので。『どうしてもブロックチェーンをやりたい!』って人を集めて、業務外の活動でチーミングして進めてきたっていうのはありますね。
伊藤:ちなみに私も、昨年日立製作所さんの研究所にお伺いしたんですが、そこにブロックチェーンを研究している方が複数名いらっしゃって、3~4時間にわたってブロックチェーンのディスカッションをしていて。だいぶアツい方がたくさんいらっしゃるっていう印象を受けています。
齊藤:ありがとうございます。
伊藤:その流れで行くと、企業を飛び出して独立された町さんと、大企業でそういうことをされている齊藤さん。その繋がりでいけば、石川さんは『企業と一般の生活者』に対するサービス、企業と生活者が共創するというものに取り組まれています。石川さんが、そういったサービスに取り組もうと思った経緯とか、あとはサービスの内容についてもお話しいただければ。
石川:Gaudiyというサービスというか会社は半年くらい前に立ち上げたもので、僕はその前にはAIの会社に勤めていたんです。今は、先ほどお話にあった共同研究とか、毎日新聞さんと一緒に共同研究でブロックチェーンラボっていうのを立ち上げて、そこの技術顧問などもやっているっていう。
石川:それで、どういう人たちと関わっていくかっていう話なんですけど。クライアントさんとしては、ここではあまり言えないんですが、誰でも知っているようなハードウェアの会社さんであったり、アプリケーションの会社さんとかもクライアントで、そこでコミュニティを作ったりするんですが、どういう風にやっていくかって、基本はアレですね、パッション。どれだけブロックチェーンが流行っているかっていう。それに、どれだけロジックが通るか、シナリオが作れるか、ってところです。それで、一緒にやりたいことを考えていく、ってやり方ですね。
ユーザーを価値化するブロックチェーンプラットフォーム
伊藤:ちなみに、石川さんも私の知る限り、色んな大きな会社さんと一緒にお仕事をされていますよね。それは、どういう感じの経緯で? なかなか大企業の方って新しい、それこそブロックチェーンを使った共創プラットフォームというものを理解したり、それに取り組む勇気とか、難しいものがあると思うんですけれど。
石川:Gaudiyっていうサービスは『ユーザーを価値化する』っていうもので、例えばユーザーの人たちにシェアしてもらったり、人を紹介してもらったり、そこからフィードバックを得るっていう感じです。ユーザーさんが、『実はこういう知り合いがいるんですけど』っていって繋がっていく、みたいな。そういう、表には出ないけどブロックチェーンが好きで、ブロックチェーンで何かを変えたいっていう人って、実は大手企業の中でもいると思うので。そういう人たちに、『一緒に何かやらないか』『どうやって実現するのか』っていうのをディスカッションしていって、僕たち自身も一緒に親身になって考えていきます。
伊藤:そうですよね、実際に僕と石川さんが知り合ったのが、Gaudiyのコミュニティの中で、とある方が「お二人は知り合ったほうがいい」っていうことで。まさにGaudiyの共創コミュニティに参加されている方が引き合わせてくださって、一緒にやるようになったんですよね。
ユーザーの魅力を最大限に生かす
石川:そうですね。ユーザーってだいたいマーケティングだとペルソナでしか見ないんですけど、ユーザーさんも一人の人間として、たくさん出来ることがあって、魅力を持っているので。それをどう活かすのかと。
伊藤:最後に、石黒さん。石黒さんはエンタープライズ領域のイーサリアムの事例を作るということで取り組まれています。今日のテーマでいくと、『ブロックチェーンが築く経済圏・トークンエコノミー』って話がありますが、たぶん立場上、一番広くブロックチェーンのプラットフォームで先進的な事例が多い、イーサリアムの部分をグローバルで把握されていますよね。何か気になっている、イーサリアムを使ったトークンエコノミー系のサービスっていうのがあれば教えてください。
ネットワークエフェクトが重要なブロックチェーン世界
石黒:普段はクーガー株式会社っていうスタートアップの会社にいるんですけれども、立場上はEnterprise Ehereum っていう会社に所属していて。何をやっているのかっていうと、企業がブロックチェーンを使う、さらにはイーサリアムを使うときに、どういう実数報告があるかって言うのを議論している場なんですね。そのときに『どうしてイーサリアムを使うか』っていうところになると、トークンを作ってみたりとか。ちょっとICOしないかっていうのもあるんですけれども、『トークンを使って何が出来るのか?』っていうところまでは、あまり一般的には出ていなかったりするんですね。
石黒:その中で、世界で割りと例としてあるのは、最初はペイメントトークンみたいな話が出てきて、コレを使うと何かサービスを受けられますよ、と。それがどんどん発展していって、例えば契約を自動化できるっていうところから、ボーティングに使われるようになったり。あとは、自分の書類を証明したりとか、そのトークンの商品としての価値を決めるための価格形成みたいなことをコントラクトしてやりますよ、と。その代わりに、中央管理者が物の価値を決めるんじゃなくて、ユーザーの数とか、ユーザーの評判とか、ユーザーの行いによって制限できますよ、ということがあったり。すごい重要だな、と思ったのが、価値というのもそうなんですけど、ガバナンスですよね。人の制限、人の行動をどうやって制限していくか。『こういう風にすると、どんどん参加する人たちが増えるよ』みたいな。ブロックチェーン界では『ネットワークエフェクト』っていうんですけど。人が参加することによって、サービスが成り立つ。そこまでいくと、経済圏っぽい志向になっていくのかな、というところで。日本でPoCやりましたっていう事例とか、プレスリリースって山ほど出てくるんですけど、そこまでやっているってところはあんまり見ないので。そういうのが出てくると、日本の企業から世界に、っていうのも増えるのかなと。
伊藤:ちなみに、立場的には答えがなんとなく分かっている質問なんですけれど、DAppsとかそういうトークンエコノミー系のものを作るとなったときに、イーサリアムが適しているだろう、とか、そういった見解はありますか?