ブロックチェーンが築く経済圏:社会実装と課題

ブロックチェーンも用途にあわせて使えば良い

石黒:トークンエコノミーでいうと、特にイーサリアムじゃなくてもいいんじゃないかという気はしているんですね。EAの立場としても、『イーサリアムを使いましょう』って強制はしていなくて、それこそIBMさんがやっているHyperledgerとお互いのコミッティーになったりとか、エンタープライズでブロックチェーン作っているようなところも招き入れようとしたりとかしていて。要は『どのようなプラットフォームを、どういう提供の仕方をしたいのか』というのによって、『どのブロックチェーンを使ってもいいですよ』っていうようなスタンスですね。

伊藤:オープンに語っていただいていますね。

石黒:一応EAオーガナイゼーションなんで。

伊藤:じゃあ、ちょっと言いづらいかもしれないんですけど、アーティストとファンのトークンエコノミーのサービスをやっている町さん。いったい何を使っているでしょうか。

ブロックチェーンは『主義』より『目的』へ

町:僕は、実はEnterprise Ethereumなんですね。ただ、僕もちょっと斜めなヤツでして、トークンはパブリックで発行しているんですけど、Dappsはコンソーシアム型で作る、っていうのを試行していまして、ハイブリッドなんですよね。『どっち主義だ?』って言われると、『目的に応じて使い分けている』と。

伊藤:あえて聞くと、齊藤さんは企業向けのサービスをやられていますけれど、会社としてエンタープライズ向けに使うものは、どういうものを使うケースというのがあるでしょうか。

齊藤:我々もIBMさんと一緒で、Hyperledger Fabricにコミットしているところはあるんですけれど、それだけではないプラットフォームも検討していまして、近々リリースされるとは思うんですが、そこも検討はしています。

伊藤:ちなみに齊藤さんがやられたKDDIさんとの実証実験などがありますが、そういった社会実装をやって分かる課題ですとか、『なんでブロックチェーンを使ってこのサービスをやるんだ?』みたいな自問自答があると思うんですけど。実際にそういう実験をやってみて分かったことや、意外な課題についての気付きがあれば教えていただきだいのですが。

齊藤:そうですね、ユーザー目線で色々解決できることはあるけどね、っていうのは理解できたんですけど、じゃあいざそれをエコノミーとして回していく、となったときに、一社さんとだけやっているのはダメで、他の企業さんも巻き込んでやっていかないと、経済圏が広がらないっていうのが実態としてありましたね。

共創領域と非共創領域

伊藤:私前職がNTTだったんですけど、結構エンタープライズ領域だと、NTTさんがやってる貿易のブロックチェーンの適用で、エンタープライズ領域でも利害の一致しない貿易会社とかが集まって、コンソーシアム型でやるっていうパターンがあると思うんですけど、そういった取り組みは日立さんとしても何か視野に入っているんですか?

齊藤:視野には入っています。考えなきゃいけないのは、どの領域が共創する領域で、どの領域が非共創領域なのかっていうのを明確に定義してあげることですね。その部分って、お客さんの中でも結構わかっている方がいなくてですね。『こういうのどうですかね』っていうのを壁打ちしているような状況ですね。

伊藤:それってある意味コンソーシアム型ですけど、プライベートのブロックチェーンでそういった形のものって、それもひとつトークンエコノミーとは言えるんですかね? そういうパターンってエンタープライズのイーサの中でもコンソーシアム型ってあるんですかね。

石黒:そうですね、例としてはサプライチェーンとかになったりするんですけれども。例えば、コンテナが港に着きました、ということはちゃんと港に記録として残っていてほしいんですけれども、そのコンテナはどの店から来たとか、何日に来たとかが分かっちゃうと、競合他社から「ああ、あの会社ってここから仕入れてるんだ」っていうのが分かっちゃうんで、その部分は上手く隠しましょうね、というのが、エンタープライズでの実装で重要なところかな、と。その代わり、入れていった情報は自分のトークンとかを使って、『このデータは正しいと証明します』というのを企業側がやっていくことで、トークンを使った信頼の担保みたいなものが出来上がっていくような気がします。

伊藤:なるほど。一般的には、トークンエコノミーって、企業と企業を結ぶと言うより、生活者がユーティリティとかトークンを使って経済圏を作るっていうイメージがありますけど、企業と企業もそういう形のパターンがあるのかなって。石川さんがやっているGaudiyは、生活者がトークンエコノミーってことで参加しつつ、色んな企業さんが生活者と共創する。より複雑なパターンとして、たぶん将来的には、ひとりの生活者がひとつの会社とだけ共創っていうんじゃなくて、生活者も複数の会社と共創しますし、企業も複数の企業と共創して、『n対n』の絡まった何か、さっきのエンタープライズ領域は企業でしたけど、生活者も企業もあいまって出来るトークンエコノミーということで、非常に将来性があると僕は思っています。その辺っていうのは、どのような構想を考えて、今のこういう共創プラットフォームに行き着いたんですかね。

石川:そうですね、今の質問で言うと、あらゆるものにトークンであったりブロックチェーンが実装される世界っていうのは、もうすぐに来ると。あらゆるものをみなさん消費しているわけじゃないですか。その消費にトークンがついているので、少なからずトークンエコノミーっていうのに、1人が1つにしか入らない、とかじゃなくて、数十、数百、数万のエコノミーに入っていくように、と。今の現代社会でも、家族っていうコミュニティに属していたり、日本っていうコミュニティに属していたりするじゃないですか。

石川:もっと具体的な実例の話をすると、さっきのサプライチェーンっていう話がブロックチェーンで結構言われているんですけど、コレって結構トレーサビリティ周りで言われるんですが、僕たちはサプライチェーンの周りのインセンティブのモデルを変えよう、って取り組みもありますと。

ブロックチェーン技術による『フラットな世界』

石川:もう少ししたら始まる、ウチのクライアントでコーヒーメーカーの会社さんがあるんですけど、会社さんがウガンダの農村からコーヒー豆を買っていて、そこが本当に貧困の農村で。でも商売なので、なるべく安く買いたいですよね。農家の人たちは高く売りたいんですけど、強さは買い手にあるので、安く買い叩かれてしまう。でも買う人たちも人間なので、農村の人たちに何か還元したいけれども、商売のことを考えなくてはいけない、と。ここに、自分たちはトークンエコノミーを実装するんですよね。そうして、10~20%のコーヒーメーカーのコインをウガンダの人たち1人当たりに配るんですよ。、そのコイン自体はユーザーにも配られているわけです。そうすると何が起こるかっていうと、先進国のレートでトークンが上がっていくわけです。ひとりでGaudiyのアプリケーション使っていても、月々3~4万円か、頑張っても10万円くらいか分からないですけれど、利益が上がらなかったとしても、ウガンダともなるとそれで一年生活できちゃうわけですよね。そうすると、ユーザー側としても『ああ、自分がコインを使っていることで、この人たちが助けられているんだ』と。農村側の人たちも、『自分たちのコーヒー豆はこういう国で飲まれているんだ』と。

石川:ユーザーだけではなくて、企業とそれを売る人たちも、トークンエコノミーの中に実装される。そういう仕組み自体、ステークホルダーを持っている企業自体は、本当に全部トークンエコノミー化されていって、フラットな世界になっていく。Gaudiyでは、もう少しでそれが始まるっていう形ですね。

トークンエコノミーの最初の成功例としての仮想通貨の経済的インセンティブ

伊藤:僕が実際にサービスを目指している相手も、結構ありえないくらいコミュニケーションが活性化されていて、普通にトークンエコノミーっていうとビットコインなどの仮想通貨は経済的なインセンティブが中心となっていて、あれはトークンエコノミーの第一弾の成功事例だと思うんですけど。Gaudiyのサービスを見ると、必ずしも経済的なインセンティブだけじゃなくて、さっき言った協力とか、『みんなでこれを達成するために何かやろう』みたいな。駆り立てるというか、みんなでそれを回していけるような、そういう工夫をしているように見えるんですけれど、意識されているテーマはあるんですか?

石川:そうですね。ユーザーさん自体は経済的なインセンティブを求めているっていう人だけじゃないんですよね。半分は求めていると思うんですけど、その価値って経済的インセンティブでいうと、例えばコピーは、ユーザーの中に小説書いている人がいて、その人が書いてくれました。これ、実際にお金を払うとすごく高いんですけど、僕たちがそれに対して払っているというか、機械的に払われているインセンティブって本当にこう、ジュース買えるかな?くらいなんですね。実質、経済的なインセンティブにはなっていないんですよ。でもそのコインを、いわば記号ですよね、このコインを使って、価値あるプロダクトをみんなでどんどんよくしていこう、って動きになっていく。

ユーザーがサービスを作りだす

石川:経済インセンティブっていうのも少しはありますけれど、それは長期的な未来のインセンティブであって、今のこの人たちは、それも目的であってはいいんですけれど、『どうやったらそのサービスをよくするか』って言う感じで。本当にユーザー数少なかったんですけど、180件くらいのフィードバックで、シェア自体も100件以上で、そういうのがあって。インセンティブというよりは、サービスをよくしようとユーザーが考えてくれている世界。そうしたいですし、結果そうなっているって話ですね。

伊藤:実際にユーザーが貢献してくれているっていう話ですもんね。Gaudiyさんのサービスは、なんかそういう意味だと、トークンエコノミーって言ったときに、『エコノミー』なんですごい経済的なものが見えちゃいますけど、実際にやっぱり取り組まれている企業は、Gaudiyさんの考え方を見ても、『それだけじゃない』っていうのはあって。それに対する熱量とか、コミュニケーションした人たちの満足感みたいな。そういうインセンティブがあるように見えます。

伊藤:まさに、町さんのやられているのはエンタメ領域で、元々アーティストとファンっていうのはそういう熱量とか関係性とか深いところにあると思うんですけど、一方で、町さんのあの『ライツ』ってサービスについて。あれを見たときにすごく思うのは、全然ブロックチェーン感が前に出ていない。2月に電話アプリ版が出て、みなさんにもぜひ触っていただきたいです。非常に洗練されたUXで、ファンとユーザーの、いわゆるデジタルアセットが、自分だけのメッセージをアイドルが語ってくれるデジタルカードみたいなものがあったりか、或いはファンの動画を見て、それに対してユーザー同士がコミュニケーションするような形のショウルームのようなものがあって、あんまりブロックチェーン感が前に出ていないんですけど。そういうサービスに対するこだわりとか、ブロックチェーンがトークンエコノミーでどう生きる、みたいな、そういうポイントみたいなのは考えたりしているんですか?

町:少し長くなってしまうんですが。私たちの『ライツ』を見たことのない方はピンとこないかもしれないんですけど、今トークンエコノミーの話をされたときに、ブロックチェーンの中でのはじめのユースケースがコインだったので、そんな話に包括されがちですし、ブロックチェーンってそこが全てに見えちゃうところがあると思うんですけど、僕は本質的に、ブロックチェーンのブレイクスルーっていいますか、最も世の中を変えるのはそこじゃないと思っているんですね。インターネットでいうところのメール、というかテキストの送受信ですが、一番初めに大学間で使われていたときに、実際問題、そのテキストの送受信を、インターネットにおいて一番『あー楽しいなぁ』って思うことって無いと思うんですね。もちろん、チャットであったりSNSであったり、そういうものがメールの発展系であるとします。トークンエコノミーという意味でのブロックチェーンの発展形というのは、まさに評価経済であったりっていう形で、メールが今SNSになったような形で、ブロックチェーンという核の一部でしかないと。

町:もっと言うと、そのメールから発展して、動画がインターネットに載ることによって、インターネットがメディア化したと思うんですけど、ブロックチェーンも同じように、ブロックチェーンじゃないまったく別の技術と融合することによって、初めて一般生活に乗って、価値が出せるものになると思っています。元々ブロックチェーンそれ自体って、ただのKVSを発展させるデータベースなんで。。他の技術とくっつくことによって、本来持っているポテンシャルっていうのが生きると思います。なので、これはまあトークンエコノミーないしそのブロックチェーンの社会実装における課題だと思うんで、そこで僕らが何を意識してやっているかといいますと、まさに既存の、今の生活の中でブロックチェーンが活きるとしたら、何の技術と組み合わせたら実現できるのか、ものすごく気をつけました。それで作ったユースケースがライツなんですけど、そうするとブロックチェーンが見えないっていう。

伊藤:でも、ライツを活用した時にアイドルの方がブロックチェーンっていう単語を使ったときに、すごくなんというか、珍しいなって。

町:そうですね、そこはやっぱり、アイドルにも説明するんですよね。僕らがブロックチェーンで、世の中に一点しかないってものをワンバイワンで作っているんですよ、と。でもアイドルの方たちに、『これは世界で一個しかないんだよ』って言っても、まあデータなんでピンとこないんですよね。なので、説明すると、驚かれます。

ERC-721によるデジタルアセット

伊藤:ちなみにデジタルアセットのカードにも、『これが世界にひとつしかない』ってカードの裏に刻んであるんですよね。

町:そうですね。ご存知の方も多いと思うんですけど、一昨年からCryptoKittiesっていう、ERC-721っていわれる一点ものの技術なんですけど、それが流行りまして。僕はそれが核心だと思っているんですね。僕らもそれと同じように、一つ一つのカードに、というか、カードベースの動画に、その一つ一つが存在するために3つの情報が必要だと思っています。ひとつは、発行した人ですね。これは誰から生まれたのか。次に、そいつの名前が必要なんですよ。僕らのみたいなアセットの場合は、カード番号が必要になります。で、これだけでなんとなく存在している気がしちゃうんですけど、アセットが実際に存在する場合は、誰が持っているのかっていうのがないといけない。なので、作り主は誰で、そいつの名前や識別子が何で、それを誰が所有しているかっていうこの3つですね。この情報が揃うと、世の中に存在が出来ると。バーチャルな世界なんですけど、この情報があるので複製できないってのを前提にしますけど、ブロックチェーンによって実在していると。まあ、ちょっと現物見ないと分かりにくいと思うんで、ぜひアクセスしてみてください。

伊藤:そういう意味だと、今私が思ったのは、トークンエコノミーに流通する通貨の、いわゆるERC-721の世界観もありますけど、やっぱりトークンエコノミーってことで通貨的なものとか、デジタルアセットみたいなものが世界に広まってきたな、って思ったのは、昨年末にリリースしたDAppsのゲームで、ひとつのキャラクターが20万円で売れたり、ゲーム上のランドというものが500万円とかすごい値段で売られたりしていて。通貨の流通となると、デジタルアセットの流通がかけ合わせになるのかな、って思います。

伊藤:毎年、シリコンバレーでやってるブロックチェーンEXPOに行くんですけど、やっぱりテーマって産業別のテーマで、ブロックチェーンだけのモビリティ、エネルギーだけのってのもありますし、一方で『ブロックチェーン×違うテクノロジー』、AIだとかIoTみたいな、そういった組み合わせみたいなものも結構テーマとしてあって。そういう意味で行くとまさに、日立さんがKDDIさんとやった実験っていうのは、静脈認証のデバイスっていうものが先ず存在している。それ自体はブロックチェーンじゃないですけど、ブロックチェーンと静脈というものを使って秘密鍵を生成、みたいな。そういう組み合わせにどうして至ったのかな、誰も思いつかないところにどういう経緯で至ったのかな、という興味があるんですけれども。

齊藤:元々、我々は生態認証の技術を長いこと研究していて、金融機関さんのATMにつけてたりとか。一方ブロックチェーンって、電子署名の必要性がすごく言われていて。『組み合わせたら何か出来るんじゃないか』っていうのがあったんです。ブロックチェーンってやっぱり信頼性の担保とか、証跡を追えるっていうところはあると思うんですけれど、そもそも最初に誰が書いたのか、っていうところの信頼性を担保できないと、書かれている情報の信頼性を担保できないんで。そこで、誰かできないかな、っていうところに気付いている若手の研究者がいて、それじゃあ実装しましょうっていうのがそもそものきっかけですね。

伊藤:なるほど。元々ブロックチェーンにどっぷり漬かっていた研究者じゃなくて、違う領域の研究者も巻き込んで、一緒になってああいうものが生まれるってことですよね。

齊藤:そうですね。まあそれに気付いた、元々セキュリティをやっていた研究者が、『お前、今日からブロックチェーンな』って異動になって、『そういえばこれって僕の勉強していたことと合うよね』ってことに気付いた。町さんが言われるように、元々ある技術と組み合わせることによって価値が出ることは間違いないと思っています。

伊藤:たまたま繋がったんですけど、組み合わせって意味とか他の技術って要素でいくと、石川さんも昔にやられていたのは、AIとか別のテクノロジーだったりして、その辺は視野にも入っていると思うんですけど、そういったブロックチェーンと他の技術との組み合わせってどういう風に思っていますか?

石川:そうですね、基本的にプロダクトって全部掛け算じゃないですか。何かと何かを掛け算して、サービスを作っているっていう話で。ブロックチェーンも何かと掛け算しなきゃいけないですよね。ブロックチェーンに関して言うと、ブロックチェーンでしかできないこと、まあ何ができるのかは皆さんそれぞれであると思うんですけど、僕はインセンティブ設計なので。株式と一緒ですよ、加速剤でしかないので。AmazonのDAppsとか、メルカリを真似しているだけなんですよ。0から1にするのは人間がやって、その1を100に、1000にって速度を上げていくのがブロックチェーン。これが最も重要ですよね。

石川:だから、ブロックチェーン×何か、っていう掛け合わせること自体が重要なんじゃなくて。やりたいもの、実現したい世界から逆算して、それにブロックチェーンを使えるか、っていうところです。『あれとこれを掛け合わせて何かをやろう』ではなくて、『実現したい世界を逆算して、これとこれを掛け合わせたらそれができるな』っていう。
僕は元々AIをやっていたんですが、それをやっていたのも、僕が先ず実現したい世界があって、AIを使うのがそれに一番近いんじゃないかな、って。でも、ブロックチェーンを使ったほうがいいかな、って最近は思ったので。

伊藤:今まさに思ったのは、Gaudiyさんは経済圏とかにかける思いっていうのは、そのサービスの名前がGaudiyっていうことと絡みはあったりするんですかね。
そこに何か糸口があるんじゃないかと思うんですけど。

石川:僕すごいテクノロジーとかプロダクトとかが好きで、自動運転とかVRとかが大好きで、新しいデバイスとか買っちゃうんですよ。ああいうのもどんどん進んでいって、イノベーションが溢れる世の中を作っていきたいな、と。ただそのイノベーションを作っていく人たちっていうのが、まだまだ世界に少ないな、と思っていて。

石川:Gaudiyの社名については、アントニオ・ガウディからとっているんですけれど。サグラダ・ファミリア自体が、ガウディの死後に残された設計図を基に、市民の人たちが作っていって、300年かかるともいわれていたものを、技術的な進歩もありますけど、市民がお金を持ち寄って作っていったことで、これが100~150年、2分の1~3分の1くらいになりました。これがブロックチェーンだ、と思っていて。1人ではできないことを、みんなで実現していこう、そしてその実現するためのモチベーションみたいなものも、誰が株主だとか、そういった人たちのみのインセンティブじゃなくて、ホントに市民にも返ってくるようなアーキテクチャーが、やっぱり素敵だなと。

石川:社名のスペルのYも、DIY、Do it yourselfですよね。サービスを使っていたら消費者でしかないですけれど、自分がその中にいること自体にも意味を持ってほしいし、そのプロダクトを使っていること自体を消費ではなく、自分のことにしてほしい。そういうところから、Gaudiyって社名です。ちょっとエモいですけど。

伊藤:ですよね、僕知っててわざと聞いたんですけど(笑)。こういうくだりとか、普段冷静な石川さんらしくない、この感じが好きなので。

伊藤:トークンエコノミーにおいての思想とか、そういった話ですが、やっぱり経済圏が循環するっていう意味では、まあビットコインとかが、マイナーがいてマイニングで投資を得るとか、ユーザーは取引で利益を取るとか、取引上の手数料みたいな、それぞれ役割分担とか投資設計みたいなものがあると思うんですけれど。そういった思想と共に、それが回る経済循環を作るっていうのが必要だと考えていて。そういった分野であるところの、トークンエンジニアリングといわれている領域を、実は石黒さんがEthereumとは別にやられているんですけど。ここでは、そういう役割分担とか投資設計というものに関して、確かドイツ発祥の組織なのかな? どういった議論とかアイデアが、トークンエコノミーを回すために語られているんですかね?
表記になりますね、そういうところでやっています。元々僕らではなくドイツ発祥で、彼らがどういう議論をしているのかというと、主にトークンを使ってどういう経済圏を作っていくのかっていうのもそうなんですけど、実際今の世の中にクリプト、まあ仮想通貨っていうのが出ている中で、ちゃんと設計されたモデルが無い状態で、何億円とか注ぎ込んでるプロジェクトっていっぱいあるんです。よくトークンエンジニアリングのオープニングで僕が話をするんですけど、アメリカのとある有名な橋があるんですけれども、その設計に実は欠陥があるんですね。それで、風が吹いたらむちゃくちゃゆれるっていう、よくGIFとか新聞に載ったりしますけど、最終的にはこの橋が崩れちゃう。今はちゃんとしたところも増えてきてますけど、ちょっと前だとそういう設計のシミュレーションができない状態、まあみなさん仮想通貨にお金を払っていたりとか、サービスをローンチする側も、実際それが安全なのか、正しいのかって分からない中でリリースしていた現状もあって。なんとかそれをコミュニティの力で変えていきましょうっていうので、始まったという。

石黒:そこから派生して、実際にセキュリティの面とか、石川さんのおっしゃっていたインセンティブ設計ですね。ブロックチェーンなので、中央がいない契約、自動契約みたいなところでいうと、『人に何かをしてあげたことで何かを得る』みたいな設計がすごく重要で、エンジニアリングだけじゃなくて色んな経済学とか理論みたいなところをすごく勉強していかなくちゃいけない。テクノロジーに特化しているから大丈夫ってわけじゃなくて、それこそ経済圏とか、コミュニティの設計みたいなところからの視点で、テクノロジーに落とし込んでいくっていうのがすごく重要になっている……っていうのを、ドイツではすごく話していて。それを日本でも広めたいなと思って、僕ら主導で、毎月海外のプレゼンなどをお呼びして、『どういう設計の手順でこういうプラットフォームを作ったんですか?』とか、『どうやったら安全かどうかって分かるんですか?』とか聞いて、そういうのをエンジニアと議論していくっていう。

伊藤そういうのを気にしている人には参考になりますね。

石黒:そのうちまたやるので、その時はぜひ参加してください。

伊藤:そういう意味だと、トークンエンジニアリングで経済が回るっていう循環って重要だと思うんですけど、町さんのライツってサービスを見て、イジワルなことを言うつもりはないんですけど、なんとなくアイドルの方とファンとの交流ってともすると一方通行にも見えなくも無いんですけど、そういうトークンエコノミーが回るような、循環的なものっていうのは、どういうことを考えられているんですか?

町:正直言って、トークンエコノミーは未だ先のもので、未来には動くかもしれないけれど、今はまだ動いていないものって思っているんですね。どちらかというと、技術的に出来ることとか、もしくは行動力学を基にして何かをするよりも、現実に起きている人々の行動の様式れに照らし合わせたほうがユーザーは幸せなんじゃないかって思っています。洗練されたものじゃないかもしれないですけど。そういう意味で、僕は今、電子マネーをブロックチェーンの中で使えるようにしています。日本円とか中国元などを各国ごとに発行できるようにしていて、ひとつの共有した統一のトークンで回そうとしていないんです。この時点でモチベーションが色んな分散をしてしまうので、よくない設計であることは間違いないです。

町:なんですけど、僕が重視しているのはそこではなくて、お客さんが何にお金を使ったら幸せかということを考えていて、それが社会的な課題の解決にもなると思っています。ブロックチェーン的な、もしくはトークンエコノミー的な角度で、『理想的な世界はこうだ』というのは素晴らしいと思うんですけど、一方で、今生きている人たちが何故それで幸せになるのか、それをしないのかっていうことにも力点が必要だと思っています。

町:で、僕が今何をやっているかというと、アイドルとファンが対話する場所を作っているんですね。例えば、アイドルがデジタルコンテンツや何かを販売します。それを買った人たちとアイドルがチャットルームで会話できます、と。そこでアイドルたちにはダイレクトマーケティングをしてほしいと思っていて。例えばコレもよく言っているんですけど、みなさんは東京だから、ステージがあったらすぐに来られますよね。でも、北海道や青森の人に『こういうことやります!』って言っても、来れません。でも、直接声を伝えたいことってあるはずですよね。そういうときに、ここがアーティストの会場だとすると、バーチャルな世界だったらチャットルームで幾らでも話せますと。逆に言えば、有名人って危ない目に遭ったりすることとかありますけど、チャットルームならそんなことは無いので、言いたいことを言いやすいですよ、と。例えば『北海道に行ったことないんだけど、北海道に行ったら幾ら払ってくれるの?』『幾らくらいのステージで来てくれる?』って聞いてみても、別に危険はないです。聞くことによって、何人かっていうのが見えてくる。例えば、1000人のファンが見込めるっていうのが分かったら、その同じプラットフォームの中でクラウドファンディングが出来るようにしています。

町:ファンが何かを買いたい、買ってその人たちと会話したい、会話したら今度は何か要望を伝えられる、伝えたらそれを新しい自分たち向けのサービスに転換してくれる、っていうのを望んでいると思うんですね。ひとつのプラットフォームでクラウドファンディングまで通すことによって、対話って言うのが為し得るのかなって思っています。これはいわゆる普通の人が起こしている行動・起こしたい行動をなぞっているだけなので、戦略の話ではないです。今ここに、トークンを埋め込もうと自分たちがやっているんですが、苦戦中です。

伊藤:結構アレですよね、私の知っているところでも『さるぼぼコイン』さんとか、『fever』さんとか、まあそういうブロックチェーンを視野に入れてますけど、ブロックチェーンを導入するタイミングとか、コインとして導入するタイミングとかを逡巡している方も結構いて。最初からコインを発行するパターンもあるし、そうじゃないパターンもあると。

町:おっしゃるとおりです。あとは、そのプラットフォームによって、必ずしもトークンエコノミーがインセンティブにならないケース、そんなに魅力的じゃないケースもあるんです。その場合は、コミュニティ自体が大きくなってから自然に発生した方が、みなさんのインセンティブになることもあるので、恐らくビジネスモデルによってタイミングも違うんだと思うんです。

伊藤:なるほど。そういう意味だと、今まで聞いてきたものは結構To C向けで、そういったコインを設計しているみたいな話でしたが、齊藤さんは法人向けに仕事をされているので、トークンエコノミーっていうよりも主に目立ったところっていうのは金融領域、というかそもそも金融業界がエコノミーなのであれですが、金融以外の領域っていうのは、今後ブロックチェーンが活用されるとかはどう見ていますか?

齊藤:非金融分野でブロックチェーンがどう使えるのか、っていうのをずっと考えているんですけど。意外と旧態依然とした業界でも、ビジネスモデルの見直しというか、ブロックチェーンによってどう変わるべきなのかっていうのを考えていて、じゃあそれによってどういうビジネスモデルの変革をするのかというのを真面目に考えているというのを感じています。非金融分野の方々の中でもやっぱりサービス業とか、そういう領域の方々は割りと柔軟に、その辺の脅威を含めて考えているという実感はありますね。

伊藤:なるほど。法人運営でもそういったほかの分野への広がりって言うのは見えている感じですかね。

齊藤:そうですね。割とたぶん、早い段階で取り入れる企業さんが出てくると思っています。来年くらいから出てくるんじゃないですかね。

伊藤:こんな話をしているとあっという間に二時間が経ってしまいました。今日は実際こういった形で、社会実装に取り組んでいる方に集まっていただきました。こちらで今日は終わりとします、ありがとうございました。

【まとめ】ブロックチェーンが築く経済圏:社会実装と課題

企業がブロックチェーンを導入する上での課題や、ブロックチェーンアプリケーションがユーザーに広がっていく上でのポイントに関して、貴重な議論が行われました。

ブロックチェーンの実現する未来と現在地を適切に見定めながらプロダクトをスケールさせていくことが、ブロックチェーンに限らず大切であるということを再認識することができる時間となりました。

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