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Tomoyuki Kage

5、パネルディスカッション

4人それぞれのデモンストレーションの後、モデレーターにConsensysのAlessandro Voto氏を迎えて「スマートシティ」についてパネルディスカッションが行われました。その中からいくつかのディスカッションをご紹介いたします。

司会者:まず最初のディスカションのネタとして今日のテーマのスマートシティというのは、”国”のレベルでもなく、”個人”のレベルでもなく、どうして”シティ”である必要があり皆さんはどこに興味を持たれたのでしょうか。

石井:私は元々モビリティとスマートホームの技術に興味がありました。それらは互いに接続でき、しかも既にスマートデバイスは存在しています。我々は今後それをどうやって素早く解析し、データの信頼性を確立させていくかという課題があります。つまりその努力は今後スマートシティのビジネスへとつながっていくと考えられます。

茂谷:私はKDDIで働く前にLINEという会社にて、LINE Payを作りました。LINE Payが提供するすべてのサービスが問題なく相互接続できるよう気を配る必要があり、大変苦労しました。その際に、その時の問題の多くはブロックチェーンを使えばもっと解決できたのではないかと考えました。

また、”シティ”にはとても多くのオンライン・オフラインのサービスがあります。私はそれをブロックチェーンを利用し、合体させることによって”シティ”における問題解決ができるのではないかということに興味があります。

マッド:私はスマートシティに関して3つのポイントがあると思います。まず1つは今我々の地球の人口が増え続けているということです。現在70億人ほどの人数が年々80億人、90億人と増え続けていくことでしょう。そしてその人々はなるべく都市に住もうとしていくでしょう。つまり都市の人口が圧倒的に増えていくというこです。

2つ目は、都市で人口が増加していった場合、経済を共有する必要があります。家や車やツールはすべて共有するようになりますが、既に我々はP2Pシェアリングプラットフォームを築いています。今後優れたプラットフォームはloTやブロックチェーン技術により作られると考えます。

3つ目はスマートシティだけでなく、もっと大きな視野で捉えてブロックチェーンを使い様々なエリアに展開が可能だと思います。例えば農業に使う機械などはいつも使うわけではありませんし、それ以外の膨大な予算がいる資産もスマートシティの技術により効率的にシェアすることが可能なはずです。スマートシティに対して興味があるだけでなく、それ以外のエリアでも興味があります。

デビッド:私はみなさんのご意見に”スケール”という部分を追加したいと思います。本日は様々な価値のあるサービスやプロダクトについてお話してきましたが、そういった価値のあるサービスや新しいテクノロジーが政府、国などでの大きなプロジェクトとして進めていくのは非常に難しいと思います。大きな国全体などで試すのではなく、まず街などの小さなエリア単位で実験を進めていき、経過を見て、どうやって改善できるかということを考え改善し、そのサイクルを続けていくことが最も大切だと私は思います。そうして改善されていった街はいずれどんどん成長していくのだと思います。

また、スマートシティには沢山のテクノロジーが使われています。例えばスマートグリッドというものがあります。沢山のスマートグリッドのアプリケーションというのが存在していますが、あるいくつかのアプリケーションはこれから発展していく街にとっては最適なアプリケーションになる可能性を秘めています。例えばブルックリンのマイクログリッド計画というものがあります。これはスマートグリッドのプロジェクトのかなり最初の方のプロジェクトになります。屋根のソーラーで発電した電気を近所の人に売ることができるのです。それはブロックチェーンを使ったスマートメーターを使って可視化され、ご近所同士で売買ができるのです。なんとなくブルックリンっぽいですよね。これは私にとってはとってもクールなユースケースだと思います。沢山のご近所さん同士がブロックチェーンを使って電気を融通しあう、しかも誰か(電力会社のような)集中的な権威がコントロールをせずとも人々が自ら決断をすることができるシステムを実現してしまったのです。

サンフランシスコ、NY、東京などスマートシティと呼ばれる街に住んでいる私たちは、その隣の小さな町を見るべきなのではないでしょうか。

ブルックリン・マイクログリッド計画とは

建物の構造上ソーラパネルの設置が難しいと言われていた地区にソーラー発電を普及させ電力会社を頼らず民間で電力をまかない売買を行う。加入者はスマートメーターを設置、スマートコントラクトで近所同士で電力を取引し、データはブロックチェーンで記録される。このシステムはブロックチェーンに基づく分散型プラットフォーム「イーサリアム」が土台。

参考記事:https://goo.gl/3UsZPk

司会者:デビッドが述べられたことに私も少し触れたいと思います。私たちはありとあらゆる中央集権型のデータベースを利用しています。そしてそれらのうち、いくつかは全く同じ会社が管理・提供している場合があります。それらはとっても便利で効率が良いことは私達は理解しています。例えばアリババの中央化されたシステムは容易にデータを集められ、また人々はそれを使っています。さて、何故今、我々は新しいブロックチェーンテクノロジーを欲しているんでしょうか。この今の状況で我々のスマートシティに必要なのは、一体どんなブロックチェーンテクノロジーなのでしょうか。

デビッド:アプリケーションによって様々なものが存在すると思いますし、誰が決断をするのかによっても違いますし、とあるケースでは中央集権型のものよりも良い場合もあったりします。

先ほどのエネルギーの話に戻ってみましょう。中央集権型の場合には問題がおきやすいこともありますし、小さい街のケースでは誰も中央集権に任せたくないということでした。それはいわゆる民主的かどうかということだと思います。今日、沢山の企業が沢山のデータを一箇所にまとめてデータベースを構築しています。そしてそれらデータベース自身の位置付けがビジネスの変化と共に段々と変化がおきています。テクノロジーの進化によって様々なものが変化し、我々もその変化を理解する必要があると思います。

例えば、投票や土地の履歴などの公的な履歴も疑わしいと思っている人が沢山いますし、政府は非常にとんでもないと思っている人もいます。

例えば、アメリカには6000のカウンティ(行政区分)の事務所が存在し、それぞれで土地の管理をちょこまかと行なっていますが、とても非効率的で理解に苦しみます。

まさにそれこそブロックチェーンを使って、例えば誰がオーナーなのか、税金をどう払えばいいのかなどを管理すれば非常に効率的に管理できると思います。

マッド:私は医療に関してだと思います。自分自身の医療データが非常に重要です。個人的な経験のお話をします。先日病院に行って10分ほど見てもらっただけなのですが、それでなんと$462も支払いました。その病院は他の先生からも他の病院からも私のデータを見れなかったためにそれだけの医療費が発生したのだと思います。だからこそ自分自身の医療データというのを自分自身で管理できるようにして、どこのスマートシティ、どこの病院にいってもそのデータが使えるような状態になって欲しいと思います。

石井:私はブロックチェーンをスマートシティに使って、人々を取り巻く様々なデータ、いわゆるプライバシーの問題を解決できると思います。例えば、ウェブサイトなどへのアクセス履歴などはアマゾンやGOOGLEが管理をしている状態です。今もAmazon Echoやgoogle homeが収集して管理している状態です。今後はそういった個人的なデータをブロックチェーンを使ってプライバシー問題を解決できると思います。更にバーチャルヒューマンエージェントがいれば、データを自分で操作する必要もありません。これらの技術が与えてくれるベネフィットはとても大きいと思います。

茂谷:ブロックチェーンをスマートシティに活用する際に、私はサービスプロバイダー同士のコラボレーションに注目したいと思います。中央集権型のシステムの場合、多くの小さな企業同士のコラボレーションは信頼性を担保するには難しく、小さな企業はかならず大企業を経由してサービスを提供しなければなりません。ブロックチェーンがそういった小さなサービスプロバイダー同士のやりとりをうまくコントロールしてくれると思います。

司会者:是非とも私は茂谷さんにお聞きしたいことがあります。日本では自分でベンチャー企業の立ち上げや、日本のとても大きな電話会社での重要なお仕事も経験されている茂谷さんのご意見をお聞きしたいです。今日はブロックチェーンとスマートシティについてお話をしてきましたが、実際にブロックチェーンを使って都市の何を改善すべきなのか、都市のインフラのどこを変えるべきなのかご意見をいただきたい。

茂谷:私が感じることなのですが、電話会社は自社のインフラを過多に信頼しているような気がいたします。私がブロックチェーンのプランを出した時、大勢の人から既存のインフラは完璧だからそんな案には意味がないと言われてしまいました。スマートシティではたった1つの会社では成立しません。ブロックチェーンを使用することで開かれたマーケットになります。

司会:なるほど。つまりブロックチェーンをインフラに取り入れることにより、開かれたマーケットになるということですね。人々は様々なサービスを受けることができるようになり、最も良質で、最も安価なものを選ぶ状況を作ることができるようになるということですね。

参加者からのご質問

会場:お聞きしたいことがあります。スマートシティコンセプトにおける、IoT とブロックチェーンとの関連性がよくわかりませんでした。デビッドさんにはハイパーレジャー のことについてもっと教えてください。

デビッド:ハイパーレジャーは数あるブロックチェーンプラットフォームの中の一つです。まず、IoTデバイスのことについてお話させてください。IoTデバイスには必ず”命令”と”コントロール”が必要になります。また、IoTデバイスにはレポートを出すという使命があります。IoTデバイスが車やスマートシティに設置された場合非常に沢山の数のIoTデバイスが街中に散乱している状態になるでしょう。そして、各々のIoTデバイスが正常に動いているのか、信頼性のあるレポートを出してくるのかを考えなければいけません。

もし仮に1970年代の公共事業者になったとして、当時はそういう類のものを、周波数帯を買って、電波を利用してコントロールをしていたでしょう。ただ、それではスケーラビリティに欠けていますよね。今のような発達したいわゆるデジタルワールドでは、我々は同じネットワークにいるようなものです。しかもデバイスも同じネットワーク上に設置することも可能です。ただし信頼性のあるデータの送信方法、つまり暗号化された状態でデータを送信することが必要になります。問題は私がどうやってそれらのデバイスを認識するのか、どうやってそれらを私がコントロールできて、私の意思を伝え、いかにそれらの行為をブロックチェーンを使うのかということなのです。そういったものの良さげなプロトタイプを以前見たことあります。若干微妙かなと思いましたが、鍵のデータを送信したり、スマートフォンに情報を送信したりし始めていました。しかし、想像してみてください。まさにそこにこそブロックチェーンが必要なのです。ブルートゥースか何かの電話の送信方法を使ってスマートコントラクトによって鍵をかけることもできますし、何時から何時までは開けるといったことをスマートコントラクトによって行うことも可能です。

また、デバイス自身によって鍵の開け閉めを行なったり、パブリックネットワークを通して誰かが鍵の開け閉めの指令を送ることも可能です。それはとてもシンプルにできることであり、シンプルに動作します。例えば私がチェックアウトする頃になると、鍵が開いたり、また、他のITデバイスとデータのやりとりを行なったりすることもできます。ブロックチェーンというのは、パブリックなネットワークを通して色んな機器とのコネクションを安全に行うことができるというとてもユニークな方法なのです。また、例えばデータを暗号化することもしないことも決めることができますし、暗号化をしたくないというケースも多いにあるでしょう。そういった沢山のユースケースを話だすとキリがないですね。しかし本当に沢山の異なる切り口でアプローチを行うことが可能なのです。また急速に進化し続けています。まだ誰も実際に構築はできていないのですが、しかしそれはもう遠くない未来に現実のものになるでしょう。

司会:そろそろ時間も残り少なくなりましたので最後に少し。 さて、IOTAは以前人々が行っていた情報のやりとりをマシーンに行わせることができるという新しい方法です。今の所セントラルサーバーに頼る必要があるのでまだまだ改善の余地があるかと思います。また、QuorumというJP Morganが開発を進めているEthreumを使ったクレジットネットワークがあります。Proof-of-Authorityという新しいコンセプトです。さらに、NEOというものがあり、スマートコントラクトの新しい可能性を秘めています。これらはすべて異なるものであり、素晴らしいユースケースなども生まれてくると思います。

ここで私が皆さんには申し上げたいのは、我々はスマートシティというプラットフォームを構築するために膨大な信頼性というものを担保しなければいけないと思います。人々はまだまだこれらのシステムを構築し始めた段階ですよね?我々がスマートシティをブロックチェーンベースで構築していくために、人々が安心できるように、どうやってシェアしていけばいいのでしょうか。

石井:私が思うにブロックチェーン自体の構造はシンプルで理解しやすいと思います。ブロックチェーンの構造を説明すると安全性というのは比較的伝わりやすいのではないかと思います。次のステップとしてブロックチェーンがいかに機能するかという点においてはTangleなどのちょっとややこしい部分があるので理解されにくいかもしれないという大きな問題があります。まずは、ブロックチェーンはとても安全であるというところにフォーカスして人々に浸透させていくということがまずは重要なのではないかと思います。

司会:SHARADDRAさん、どうやって我々がスマートシティをすごくいいものにしていこうと思っていることをどうやってシェアしたらいいと思いますか?

マッド:そうですね。ブロックチェーンというもののそもそものアイデアというのは”信頼”が全てだと言っても過言ではないと思います。何かの中央集権的な場所ではないところで、みんなが参加している状態のようなものです。例えば街に住んでいる人、もしくは住んでいない人が誰かが作ったブロックチェーンのテクノロジーのアプリケーションを使いたければ使えばいいし、みんなが好きじゃなければ自然と使わないことになるでしょう。

会場:今日はスマートシティをいかに構築していくかという議論に大変感銘をうけました。スマートシティでは色んな問題も起きることもあるかと思います。例えば好ましくないデータが自動で記録されてしまい、それを変更できないなどの問題もあるかもしれません。是非皆さんに、スマートシティのネガティブな側面に関してもお聞かせいただけないでしょうか。

司会:改竄できないデータというのをどう捉えるかというのは現実的に非常に難しい問題ですよね。我々は今、EU一般データ保護規則(GDPR)にも目を向けなければいけない状況です。明らかに色んなことが今後起きてくるでしょう。しかしながら、ブロックチェーンを使ったスマートシティで記録されたデータはあなた自身が所有することができますし、規約に則ってシェアして使うかどうかというのもあなた自身でコントロールをすることが可能ですし、あとで変更することも可能です。例えばドライバーライセンスを見せて自分のIDを証明することはできますが、どこに住んでいたりなどということは伝えることはありません。監視という社会とその間の着地点を見極めるのは今後とても重要になってくると思います。

司会:最後に、もしすべてが可能な限りうまくいったとして、スマートシティはどうなっていると思いますか?

マッド:スマートシティは人の暮らしを助け、幸せにし、物事が効率的に運び、もっと創造的な遊びが生まれ、時間もエネルギー減らすことができるでしょう。

デビッド:私はスマートシティに関しての課題を付け加えたいと思います。スマートシティ自体はそもそも新しいコンセプトというわけではありません。課題というのはブロックチェーンがある一定のデータを効率的に処理しようとします。ただ、信頼と透明性というのは非常に大きな部分を占めます。スマートシティというのはこういったテクノロジーを使わなくても誕生してくるでしょう。いや既に誕生しようとしています。IoTテクノロジーはそれだけで独立して成立するものではありません。確かにいくつかのちょっとしたことにそれを使って構築し、ブロックチェーンを使って実現したと言えるかもしれません。しかしながらブロックチェーンは非常に優れたソリューションを提供することができます。スマートシティにブロックチェーンが使われることで、見た目は特に変わらないでしょう。しかし情報の流れがとても自由になり、そして信頼性が向上するでしょう。

石井:スマートシティの正しい姿とは、まずは人々の権利が保障されること。好きなところに住むことができ、興味あることにフォーカスできること。病気などのあらゆる問題が自動的に解決される世界ではないかと思います。

茂谷:スマートシティの議論には効率性に注目されがちですが、私が思うにスマートシティの本質は、新しい人に出会ったり、新しい誰かと酒を交わしたりといった空間や機会が提供される、もっと人間の社会的な生活の向上ではないかと思います。

ディスカッションはこれで以上となりました。

今回のミートアップは全体的に非常にリラックスした雰囲気のミートアップでしたが、途中で帰ったりされる方も少なく非常に真面目に発表内容を聞いていただいたと思います。

サンフランシスコはブロックチェーン関連の技術者が多いこともあり、登壇終了後も石井氏と茂谷氏への質問も大変多かったです。

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