はじめに

ビットコインの技術要素であるブロックチェーンは、仮想通貨だけでなく、様々な分野での適用が期待されています。(どんな分野に期待されているかはこちらをご参考ください。)実際、連日グローバル規模で多くの企業がブロックチェーンを用いたビジネス構想を打ち出しています。

すごく期待されているブロックチェーンですが、よくよく調べてみると技術面でまだまだ課題が残っています。そこで私なりに気になっている課題についてまとめてみました。

▼目次

ブロックチェーン技術の主要課題1:トランザクション問題

マイニング参加者が多いほどネットワークは複雑になる

トランザクション性能とは、毎秒どれだけ処理が出来るかの指標でtps(transaction per second)という単位で表現されます。ちなみに、世界的な決済手段であるクレジットカードのVISAは4,000~6,000tpsと言われています。

では、ビットコインはというと、、、たったの『7tps』、、、

はい。性能低いのです。

これは、いわゆるパブリック型のブロックチェーンに共通している特徴で、誰でも(悪意をもった人も)ブロックチェーンのネットワークに参加者(マイナーと言います)になれる仕様上、そうせざるを得ないのです。一方、プライベート型(コンソーシアム型)のブロックチェーンはネットワーク参加者を制限しているため、トランザクション性能の高速化が可能です。代表的なHyperledger fabricだと約1,000tpsと言われています。

これでも、既存のクレジットカード決済には及ばないので「世界的な決済手段」として利用するには不十分ですね。

よくある誤解として、「ブロックチェーンは、複数台のサーバーで構成された分散台帳だから、マイナーを増やせば性能があがるのでは?」というのがあります。しかし、そんな事はなく、ビットコインで言えば、「10分おきに最大1MBの情報しか処理出来ない」仕様となっているためマイナーを増やしてもトランザクション性能は変わらないです。

こうした課題に対して、ライトニングネットワークといった技術やスケール可能なIOTAといった新しい暗号通貨等が提案されています。

ブロックチェーン技術の主要課題2:プルーフ・オブ・ワーク(PoW)問題

いつまで経っても承認されない

ビットコインは、トランザクション履歴がチェーン構造となっており、基本的に「長いチェーンを正とする」というのがあります。厳密な同期処理を行わないビットコインは、同期が遅れたグループが複数出現する事があります。それを許すとどれが唯一正しいチェーンか分からなくなるので、長い方を正にしようというアルゴリズムになっています。(下図参照)

一見問題無い仕様ですが、大きな懸念をはらんでいます。

本流のチェーン構造Aとは別に、短かいため却下されたチェーンBがあったとします。しかし、特定のマイナー達が諦めていなくて、虎視眈々とチェーンBを追加し続けて1年後、本流のチェーンAよりも長くなったらどうなるでしょう。アルゴリズムに従ってチェーンBが本流になり、チェーンAでやり取りされた履歴が全て「無かった事」になります。

このため、何かビットコインで決済をしたとしても、本当に決済出来たのかは誰も保証してくれません。ビットコイン決済は、ある程度チェーンが長くなった段階(30分~60分)で、現状はサービス提供者がリスクを取って決済を認めています。

ブロックチェーン技術の主要課題3:マイニングパワーの指数関数的上昇

マイニングマシーンの急速な進化

上図は、ビットコインのハッシュレート推移です(詳細はこちら)。ハッシュレートとは、全マイニングマシンの処理性能を意味しており、指数関数的に上昇している事がわかります。現在は毎秒1,000京回処理できるようです。あのスパコン「京」1,000台分の性能です・・・。

指数関数的な上昇は「マイニングマシンの世界は日進月歩だなー」という見方も出来るのですが、一方で「ビットコインのネットワークが破壊されかねない」と見ることも出来ます。

ビットコインは、特定の計算問題を全マイナーが競って解く形式を取っており、マイニングマシンの性能が将来上がっていく事を見越して、計算問題にかかる時間は、約10分になるように動的に難易度が変化します。

しかし、マイニングマシンの性能が指数関数的に上昇すると、本来10分かかる計算問題を5分とかで終わらせてしまうマイナーが出やすくなり、マイナーが悪意を持てば不正も出来てしまいます。(もっともそのためには相当の設備投資が必要となり、かつそんな事をすればマイニングで得たビットコインの価値が一気に下がるので、誰もそんなバカなことはしないと思いますが)

ブロックチェーン技術の主要課題4:手数料問題

マイクロペイメントと取引手数料

これは、当たり前のことかもしれませんが、ビットコインを始めとしたパブリック型のブロックチェーンは、送金側がマイナーに手数料を払う必要があります。そのため、IoT分野にブロックチェーンを適用しようとするとネックとなります。

例えば、車同士が自動で通信を行い、早く目的地に付きたい車が、他の車にお金を渡しながら道を譲ってもらうサービスを考えた時、少額決済を大量に実施する必要が出てきます(こういった構想をマイクロペイメントと言います)。

この時、送金手数料が100円だと何度も手数料がかかるうちにトータルのコストが膨れ上がってしまいます。人対人の場合には、そこまで問題になりませんが、IoTの分野まで視野を広げると問題となってきます。

こうした課題の解決策として、個人的に、送金手数料のかからない革新的な暗号通貨「IOTA」に注目しています。こちらはEXEイベントのライトニングトークで発表した資料です。

(余談)国の制御が効かない

これは、かなり将来的な話で妄想なんで完全に余談です。ビットコインの登場により、自国の貨幣をビットコインに変える人が増えてきました。現状は、金融危機の国民や投資家が中心ですが、ビックカメラやHISの事例のように、より一般ユーザーにも浸透するようになると、さらに多くの国の通貨が暗号通貨に替わっていくかもしれません。

»ビットコインとは?日本経済から見る非中央集権型社会のこれからと未来

ビットコインは特性として誰かが制御(口座凍結・再発行など)出来るものではありません。仮に、ビットコイン買いの動きが加速して大多数の人がビットコインを大量に抱えた状態になると、各国政府が貨幣を制御する事が出来なくなり、貨幣制度が崩壊し、国の制度も維持出来なくなります。ちょっと不安です。

まあ、日本国債は1,000兆円に対して、ビットコインの総発行額は現在約8兆円なんで当面は全く問題なさそうですが。

まとめ

いかがでしょうか。ビットコインやブロックチェーンに期待する事は多い反面、課題もまだまだ多いのが現状なので、今後のさらなる技術革新に要注目です。

この記事を書いた人
藤本健太 / 富士通株式会社
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