【世界最前線!】スケーリング、スピード、セキュリティの技術的課題や失敗を語る | Blockchain EXE#21

Blockchain EXE#21は、外部企業とのブロックチェーンプロジェクトに従事してきた事業家と共に「ブロックチェーンプロジェクトを成功に導く秘訣」あるいは「失敗するプロジェクトはこんな壁に直面する」などのリアルな情報に迫ります。

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「ビジネスへのブロックチェーン適用の応用事例とヒント」真木 大樹/Block Base株式会社 代表取締役

真木大樹 | BlockBase株式会社 代表取締役
2015年から外資系SIerにて貿易管理システムのグローバル展開、化学品総合管理システムの導入に関するコンサルティング業務を担当。2018年からブロックチェーン技術に関心を持ち、2000以上の作品が投稿された分散型デジタルアートプラットフォームのDigital Art Chainを始め、数多くのdAppsを開発する。より高速かつ大量のプロトタイピングを通じブロックチェーンの本当に有用なユースケースを見つけるため、9月にBlockBase株式会社を創業し、代表取締役に就任。

真木:私がブロックチェーンに興味をもち始めたのは、2018年4月です。ちょうどCoinCheckのNEM流出事件があり、仮想通貨の価格が暴落した時期でした。私もその煽りを受け、自分がもっているEthereumの価値を上げるために、「クリプトゾンビ」を使って、サービス開発を始めました。翌5月に「S Digital Art Chain」という、ブロックチェーン上にデジタル作品を投稿するサービスをリリースしたところ、海外の方々に受け入れられ、約3200のトークンが発行されるまでになりました。私は、ブロックチェーンサービスの開発者の方々とコミュニティをつくり勉強会を開くうちに、もっと多くの人にとって価値あるサービスをつくるためには、個人で開発するよりも会社をつくったほうがいいという考えに至り、2018年9月にBlock Base株式会社を立ち上げました。

受託開発やコンサルティング業務での失敗について

ブロックチェーン受託開発の難しさ

事業を行っていくと、ブロックチェーンの受託開発にニーズがあることが分かりました。ハッカソンなどのイベントで優勝したりすると、「こんなサービスを開発できませんか」というお話をたくさんいただきます。特に、ブロックチェーンゲームの実装やブロックチェーンでの証明書発行の実装、会社のトランザクション情報をブロックチェーン上にプールして改ざんできないようにする仕組みづくりやスマートコントラクトを使ったサービスのチェックなどが多いです。しかし、受託されたことだけをしていると自分たちが使っている技術がだんだん陳腐化してしまいます。また、受託開発になると、つくるものが決まっているので、それをつくる意義を考えずに、ブロックチェーンを使って実装することに価値が生じてしまい、その結果、ブロックチェーンを使ってみただけということになるリスクもあります。受託開発は、工夫していかないと案件を続けていくだけで消耗してしまうので、クライアントの期待値を外してしまうリスクを避けるためにも、一緒に何をつくるかというところから考えられる、目線合わせができるクライアントとだけ仕事をするのがいいと思います。

ブロックチェーンだけで会社の課題を解決できることはない

最近では、ブロックチェーンをサプライチェーンのマネジメントで使いたいという話が増えており、私たちもコンサルティング会社とタッグを組んで鉄鋼商社のSCMマネジメントの部分をブロックチェーンで構築しました。サプライチェーンにはいろいろなステークホルダーがいるので、その業界の知識やコネクション、慣例も重要になります。しかし、ブロックチェーンだけで会社の課題を解決できることはほとんどありません。コンサルティングの場合、従業員が事業に参加する場合が多いのですが、彼らのニーズは自分たちが行っている業務が楽になることなので、ブロックチェーンで何かをするよりも、紙を電子化するなど、SIerがシステムを構築するようなかたちで改善したほうが、価値ある仕事を提供できるケースが多いです。コンサルティングは、その部分がすごく難しいと思います。

Block Baseが開発した自社プロダクトと失敗について

受託開発やコンサルティングをすると、少しずつキャッシュが貯まってくるので、自社プロダクトをつくることができるようになります。自社プロダクトは、受託開発と違い、自由にいろいろなものをつくることができます。例えば、「bazaaar」というデジタルアセットの取引マッチングサービスです。Crypto KitteisやCrypton、My Crypto Heroesなどのデジタルアセットを取引することができます。また、「オタクコイン」といって、オタクコミュニティでクリエイターを応援するためのコインを使って、ゲームを交換することができるサービスもつくりました。さらに、物と物との流通をトークンや仮想通貨、ブロックチェーンを介して行う、「イレカエ」というサービスを開発しました。これは2020年1月にリリースする予定です。PS4などのゲームを共同で管理できるライブラリーで、自分がもっているゲームを入れると、他の人がもっているゲームも遊べるようになるというものです。

ブロックチェーンを使う意義を忘れない

自社プロダクトは、自分たちがつくりたいものをつくることができます。しかし、つくっているものがクライアントのニーズに合っているとは限りません。BazaaarもNFTの取引は少しずつ増えていましたが、途中で開発作業が思わしくなくなり、オープンソース化してしまいました。ブロックチェーンを前提にして仕組みをつくってしまうと、ブロックチェーンを使っているユーザーには便利だけれども、ブロックチェーンを使っていないユーザーには使う必要のないツールになってしまいます。ブロックチェーンを使ったからではなく、ブロックチェーンを使う意義を見出だすから価値が生まれるのです。

実証実験での失敗について

最近では、音楽の原盤権をブロックチェーンで配布する実証実験をMaltine Recordsとコバルト爆弾αΩと共同で行っています。また、3Dモデルの権利をブロックチェーンで証明する取り組みも行いました。実証実験は、自社プロダクトと違い、社会にインパクトを与えないまま終わってしまうことがほとんどです。音楽の原盤権の実証実験は現在でも続いていますが、3Dモデルのほうは自然消滅してしまいました。実証実験なのに保守や運用が必要なスキームを選んでしまうと、マネタイズもしないのにデータベースやサーバーのメンテナンスをしなければならなくなり、コストがかかってしまうので、自然消滅しやすくなります。

ブロックチェーンは失敗がいっぱいできる

ブロックチェーンのいいところは失敗がたくさんできるところです。一般的に受託開発をすると、失敗前提でプロジェクトを組めないことがあります。どれだけユーザーが満足してくれるか、どれだけ業務が効率的になるかを追究しなければなりません。しかし、ブロックチェーンは、ビジネスモデルやロードマップを並べて、どのような価値を提供することができるかをクライアントと一緒に話し合うことができます。ブロックチェーンは確かに失敗も多いですが、それだけいろいろな学びがあります。会社としては、マネタイズと自分たちが興味のある取り組みの両方のバランスを見極めながら活動していき、ブロックチェーンに関する経験則や、こういうプロジェクトには意味がある、意味がないといった判断基準が少しずつ明確になってきたので、今後その精度をさらに上げて、ブロックチェーン業界で世界に貢献していけたらと思っています。

質疑応答

質問者C:ブロックチェーンありきで考えてしまうと、ただの便利ツールになってしまうというお話がありましたが、それはどういう意味ですか。

真木:今ブロックチェーンに親しみがあるユーザーをターゲットにサービス開発をしてしまうと、結局、その人たちが使うツールになってしまうので、スケーリングする必要もなくなりますし、ユーザー評価がある程度のところで頭打ちになってしまって、その後の展開が難しいということです。

質問者C:運用が大変でプロジェクトが消滅してしまうというお話がありましたが、具体的に運用のどのようなところが大変ですか。

真木:運用が大変というよりも、良くない実証実験のシステムが生き続けてしまうことが問題です。システムが生きているということは、データベースの管理コストやサーバーの運用コストが毎月課金されますし、そのサービスに問い合わせをする方への対応コストもあるので、そのサービスを運用するのに多くのコストがかかってしまって大変だということです。

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